帰り道で ~ミケ~
すみません。口が悪いのは仕様です。
「痛い」
先程、手痛い仕打ちを受けた。
こんなに凶暴な女に出会ったのは何年ぶりだろう。
「それはあんたが馬鹿だからでしょ」
「つっこまないと言ったじゃないか」
「うっさいわね、今から出てってもいいのよ?」
「良いパンチだった。おまえなら世界を狙える」
「なに? 死にたいの?」
強烈なボディーブロー(5発)だったが、相合傘の代償としては安いものだ。
おかげで今は、雨を凌ぎながら斜面を下り、こうして会話する余裕すら生まれている。
まぁ、これもそれも俺の巧みな話術と世界が羨む程のルックスがあってこそなのだが……。
「…………」
「…………?」
俺は美紀の顔を見つめる。
「…………」
「……な、何よっ」
双眸は俺を射抜き、眉は吊り上がって、口元は真一文字に閉じている。
さすがは理沙さんの娘なだけはある。容姿はかなり整っていた。
迫力があるので睨まれるとけっこー怖い。胸倉を掴んできた理沙さんにそっくりだ。
「…………」
「……ちょっと……なん……だょ」
すげーな、怒り過ぎて顔が真っ赤だ。
「…………」
「も、もう見んなっ!」
「うごっ!?」
ドスっと、またもや腹を強打される。
「おい」
「あ、あんたが睨んでくるからでしょうが!」
「悲しい誤解だ。大体睨んでいたのはおまえの方……待て、振り被るな!」
牽制しつつ、お腹を擦りながら二人で肩を並べて歩く。
背は俺の方が高いから傘は俺が持っていた。故にガードが難しい。
…………。
それにしても、やはり美紀は怒っているようだ。
何もしてないのに殴られたし、それはもはや疑いようのない事実だろう。
まさか俺の華麗なルックスが通用しないとは……さすがは美紀と言ったところか。(適当)
だがしかし、そう考えると今の状況は矛盾してないか?
「美紀」
「今度は何……っていうか、名前で呼ぶなっ」
「今さらだな。それに須藤って呼んだら誰が誰だか分からんだろう」
「あ、それもそうね」
今頃気付いたのか……やはり残念な子らしい。
そういえば颯太も勉強は苦手だったな。家系か?
「名前が嫌なら……そうだな、『みっちゃん』というのは――」
――ドス!
「せ、先生、凶暴過ぎます……」
「次言ったら殺すから」
く、毎度毎度同じ所に……これは確実に理沙さんの影響と思われる。
「じゃあ何て呼べばいいんだ?」
「仕方ないから美紀でいいわよ。仕方ないから」
「2回言う必要はなかったよな」
「それよりあんた、何か言いかけてなかった?」
…………。
「今から変なこと聞いてもいいか?」
「……いいわよ。しばかれたいなら」
しばかれたくはないが、言う。
「何で相合傘してくれたんだ?」
「…………」
どうして? と不思議に思う。
「俺は嫌われてるはずだよな――――?」
――――だから、俺には判らない。
美紀が俺を嫌っているのは事実。
ならば相合傘をする理由がない。
優しいから? いや、平気で殴ってくるのでそれはない。
今だからハッキリ言うが、俺は一人寂しく土砂降りの中帰路に着く自分を想像していたのだ。(ダメ元で言ってみたのだ!)
「それは、私との相合傘は願い下げってこと?」
「勝手な解釈をするな。単純に気になるだけだ」
俺は気になることはとことん追求するタイプの人間だからな。
「まぁ、無理に聞こうとは思わないが」
「…………」
美紀は少しだけ俯いてから、前を向いてはっきりと喋り出す。
「確かに、あんたは嫌いよ」
「……え?」
「殴っていい?」
「すまん、続けてくれ」
世の中、わかっていてもショックなことは沢山ある。
「……ただ、あんたにびしょ濡れで家に帰って来られても困るってだけよ」
確かにそうだ。このスーツ孝則さんのだしな。
「それだけか?」
「そうよ、それだけ」
「本当に?」
「何よ、文句あんの?」
「ああ、納得できん」
そもそもだな……。
「納得しなくてもいいわよ。でも嘘なんて吐いてないし」
「本当のことも言ってないだろ?」
「…………」
「……まぁいいか。そうゆうことにしておこう」
他人の心……ましてや女心など俺にはわからない。
まぁ、だから聞いたのだが……。
「なんか、その上から目線がむかつくわね」
「そうゆうな。俺は美紀のこと嫌いじゃないし」
色んな意味でな。
「なな、何言ってんのっ?!」
「勘違いするな、性格だぞ?」
「うっさい!」
「ごふっ」
痛い……すぐに手が出るのはどうにかしてほしいぜ。
「やっぱり撤回していいか? 手癖の悪い女は好かん」
「悪くさせてるのはあんたよ!」
「自覚があってそれか……もはや取り返しがつかんな」
「うっさいっ! 黙れっ! もうしゃべんなっ!」
『これは余談だが、美紀のパンチは本当に鋭い』




