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ほのぼのヒューマンドラマ 〜猫もいます〜

使い切れなかったネーム入りえんぴつ

作者: 櫻月そら


 入浴後、髪を乾かしながら手帳を開くと、子どもの頃のことを思い出した。

 


 小学校に入学した時、ひらがなでフルネームが印字された箱入りの鉛筆をプレゼントされた。親族や両親の友人からの入学祝いだった。


 シンプルなものもあれば、可愛らしいデザインのものもあった。


 両親は顔が広かったため、学習机の引き出しひとつが鉛筆の箱でいっぱいになった覚えがある。


 

 小学校に慣れ始めた頃、大型スーパーの文房具売り場に行くと、流行りのアニメキャラクター鉛筆が目に入るようになった。


 しかし、大量に鉛筆を持っているため新しいものを、そうそう買ってはもらえない。


 理不尽だ。自分が欲しいと思ったデザインでもないのに。早く使い切らないかな……。


 そんな贅沢なことを考えたりもした。


 おこづかいをもらうようになると、近所の文房具店でキラキラのラメ入り鉛筆キャップや、動物の形の消しゴムなどを集めた。


 その頃には、ひらがなで名前が書かれた鉛筆を人前で使うことが恥ずかしいと思うようにもなっていた。


 そして、さらに大きな変化があったのは、小学校四年生くらいだっただろうか。思春期の一歩手前。精神的な成長から、大人の持ち物に憧れるようになる。

 

 鉛筆よりもシャーペンを使いたがる生徒が増えた。おのずと鉛筆の出番はさらに少なくなっていった……。


 高校、大学受験で再び鉛筆と縁ができたが、さすがに受験会場でネーム入り鉛筆を使う勇気はなかった。



 ドライヤーを止めて、寝室に置いてある小さな机の引き出しから、まだ少し中身が残っている鉛筆の箱を取り出した。


 軽く振ると、カラカラと木の音が鳴る。一本取り出して、少しかすれている自分の名前を指先でなぞった。


 私は一昨年に結婚し、今はもう印字されている名字ではない。しかし、なぜか新居にまで持ってきてしまった。

 

 まだ使えるから、もったいないから、という理由であれば、家族にあげれば良かったのに……。


 気持ちを上手く言葉にできないが、この鉛筆は手放せなかった。


 世の中はどんどんと進歩していき、(こす)ると文字が消えるボールペンや、スマートフォンと連動するペンやメモ帳まで現れた。


 しかし、便利なものが溢れる世界でも、この鉛筆には別の価値がある。


「きみが小学校に入るときは、どんな鉛筆があるのかなぁ」


 まだ膨らみのないお腹を撫でながら、小さな声で話しかける。


 もらってきたばかりの母子手帳と、思い出の鉛筆を一緒の引き出しにしまって、静かに明かりを落とした。

この物語はフィクションです。


お読みくださり、ありがとうございました(^^)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)一人の人生を一つの物語にしきった感じですね。しかもこの文字数でそれをやりきるの本当にすごいと思います。 [気になる点] ∀・)フィクションだけどフィクションにみえないの本当にすごいで…
[良い点] 小学生の頃、確かにシャーペンは大人のグッズだったなぁ……(*´ω`*) 懐かしい気持ちにさせていただき、ありがとうございますm(_ _)m [一言] ご懐妊おめでとうございます(•ᵕᴗᵕ…
[一言] 長年の付き合いのえんぴつ。 旧姓のえんぴつ。 そこに想いが乗るのはきっと、愛情深く育った背景があるのでしょう。 同じ様にきっと、お腹の赤ちゃんもいずれ温かい家庭で、そして小さな手でえんぴつを…
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