23:もふもふ天国
『もっきゅ』
「う……」
『メ』
「うぅ……もふ……もふ」
『もきゅ』『メ』
この世界に目覚まし時計は存在しない。でも起きなきゃいけない。
するとセリスが「ノームに起こしてくれるよう頼んでおくわね」と、モルモット一匹をつけてくれた。
そのノームがもきゅもきゅと起こしてくれたが、どうやら俺よりゴンのほうが先に気づいたようだ。
それで二匹して俺の顔をもふもふ攻めにして起こそうとしたという訳。
「おはよう、ありがとう」
今日から三階で寝ている。ロロも一緒だ。
彼を起こさないように屋上に出て、アイテムボックスの中身を全部出して──リカバリー。
またアイテムボックス獲得までスキルポイント消費したら、出した物を入れて寝る。
朝、目を覚ましたらまた直ぐにリカバリーするために屋上へ。
解体はこのまま屋上ですることにしよう。
とはいえ、出しっぱなしにしたら猛禽類につまみ食いされてしまう。
ちゃんとアイテムボックスをセットして中に入れてから朝食へと向かった。
「ロロ、解体は屋上でやろうと思う。外は石だらけで足場も悪いし、解体作業もしにくいもんな」
「そうですね。リビングのテーブルを持っていければ、解体作業も楽になるんでしょうけど……重さに耐えられないですよね?」
「うぅん、無理だろうなぁ」
厨房兼、今や食堂となった部屋でそんな話をしていると、ナナさんが、
「だったらこのテーブルを持って行けばいいのでは? ディオンさんのアイテムボックスのスキルがあれば、重くても関係ないのでしょう?」
──と。
確かに。
入れたい物を片手で掴んでおいて、もう方の手でインベントリを操作すればいい。
スリーホーンを入れられるんだ、厨房にあるテーブルだって入れられて当然だろう。
骨組み木製だけど鉄で補強されているし、台は石で出来ている。大理石のようにつるつるしているけど、まぁそんな高価な石じゃないだろうな。
朝食の後、アイテムボックスにテーブルを入れてみた。
「入ったでしょう?」
「入りました。ナナさん、ありがとうございます」
「ふふ、いいんですよ。助けて貰ったお礼ですもの。私の方もだいぶ良くなりました。何かお手伝いできることがあればいいのだけれど」
確かにナナさんの体力もほぼほぼ回復してきている。
だけどまだ無理はさせたくない。
「大丈夫ですよ。私はね、裁縫スキルと織物スキルを持っているの。座ってできる作業だから、心配しないで」
「それは有難い! 俺もスキルをセットすればいろいろ出来るけど、なかなか時間が作れなくって」
「なんでもひとりでやろうとしないで。出来ることはみんなで協力すればいいの。少しぐらい、頼って欲しいわ」
ナナさんの言葉が、まるで母さんの言葉のように聞こえる。
ひとりでなんでも……か。
どんなスキルでも自由にセットできたって、俺はひとりだ。
ひとりの時間は二十四時間と決まっている。
そうだ。
俺は俺にしか出来ないことを頑張ればいいんだ。
これまでだってセリスやゴン、精霊、それにロロが手伝ってくれたじゃないか。
「ありがとうございます。じゃあロロ、早いとこ解体を済ませよう。午後には石鹸の材料も探しに行かなきゃならないからな」
「はい!」
セリスとナナさんが手伝ってくれたおかげで、意外と早く解体作業が終わった。
「これを川かどこかで綺麗に洗い流せればいいのだけれど」
「じゃあ川に行きましょう。石鹸作りに使えるカノコは、途中にも咲いていたから」
「カノコって植物なのか。他にも使える植物ってある?」
「えぇ。カノコがあれば、あとはどれでもいいわ」
リカバリーをしてアイテムボックスを再セット。
毛皮を入れ、食料は持たずにそのまま出発。昼食は現地調達すればいい。
「あ、ディオン。そっちの草」
「これ?」
砦を出て三〇分ほど。この辺りまで来ると、ぽつりぽつりと草が生えている。
決して多くはないけど、枯れ木と言っても過言でない木に絡みついていた草を指差してセリスが「カノコよ」と言った。
「蔓植物だったんだ」
「えぇ。だから本当は森の方が見つかりやすいんだけどね。根っこのほうは残しておいて。春になればまた芽が出るから」
「了解。ゴン、これは食べちゃダメな奴だ。覚えてくれよ」
『ンメェ』
分かったと言わんばかりにゴンは首を上下に振り、他の草ももしゃもしゃ食べ始めた。
よしよし、良い子だ。
川に着くまでに三本ほどゲット。
さすがにこれじゃあ少ないだろうし、帰りは少し迂回して砦に戻ろう。
洗濯スキルをセット。今回は念入りに、だけどなるべく早く終わらせたいのでスキルレベルは99に。これが実質、MAXレベルだ。
周辺の警戒はゴンに任せて、感知スキルは切り捨てた。アイテムボックスもリカバリーして今はセットしていない。
洗濯スキルをレベルマックスまで取るのに必要なスキルポイントは、約250。
まぁいくらポイントがあっても、俺のようにリカバリー出来ないなら間違ってもレベルマックスまで取ろうと思わないだろうな。
そしてカンストレベルは凄かった。
毛皮を洗うのなんて初めてなのに、まるで体が覚えているように自然と動く。
兎の毛皮とスリーホーンの毛皮は、一時間足らずで洗濯完了。
だけどこのままだと匂いはまだ取れない。
「じゃあ俺は釣りをするから、セリスは焚火の方頼むよ」
「えぇ、任せとおいて。さ、ノーム、お願いね」
土を隆起させて毛皮を掛けるポールのようなものを形成。それを三本立て、真ん中で火を焚く。
その焚火の中に香草を投げ込めば、煙から匂いが出て毛皮に染み込む──と。
魚を釣って、サラマンダーの火で焼いて、食べて、一休みして。
アイテムボックスもあるし、魚を多めに釣っても持ち帰るのに困らない。
毛皮の血生臭さを取る間に釣りを続け、一時間ほどで十匹釣り上げてから移動。
「ゴン、この辺りに植物が沢山生えている所を知らないか?」
『ンメェ……メッ! メメェー』
お、心当たりがあるようだ。
ゴンについて行くと、ちょーっと足場の悪い傾斜道を上らされ、次は下って……。
「ここ……は……」
「高原綿花だわ!?」
そう広くはない場所に、これでもかってぐらい綿の花が咲いていた。




