自堕落的生活の代償
鈴音は、体重計の上でうずくまった。
過去見たことのない数値を叩き出している。嘘だと虚ろに呟いたところでデジタルな数値が100グラム単位で変動し戻るだけだ。
鈴音は服の重さを全裸で乗ったりもしたが、気休めだった。
「髪、そうよ、髪がのびたの」
とベリーショートがいいかしらと現実逃避している間に、扉が叩かれた。
「どうかしたのか!?」
あまりにもバタバタとしているので同居人が心配になったのだろう。その事実にすら鈴音は恥ずかしさを感じる。
「どうもしません!」
そう返して、絶望の気持ちで服を着た。性能の良い体重計など嫌いだ。そうぶつぶつと言いながら。
大増量の理由は鈴音はわかっている。喰っちゃ寝のぐうたら生活だ。以前は屋敷が広いこともあり采配で歩いているだけで運動になった。食事はちゃんとしているが、間食がまずい。
その上、とじろりと同居人に視線を向ける。
利害の一致で婚約している間柄だ。契約婚、その二という鈴音の気持ちとは温度差がある。彼は鈴音に好意をもっている、らしい。モノ好きとか、よりにもよって私?と鈴音は思うが、今捨てられるのも困る状況になっているので黙っている。
かなり後ろめたい。
が、それとこれとは別だ。
「響さんが、太ってきてないっていうから、信じた私がバカでした」
正しく愚かである。鈴音は現実を見たくなくて確認したという自覚がある。やばいかなぁという程度の危機感は持ち合わせていた。まだ、大丈夫という謎の自信も。
そこを粉砕すべきではないだろうか。
そう訴えたが相手はそう思わなかったようである。
「まだ細い」
「……いえ、細くは」
「標準体重を超えたら、健康のために痩せたらいいのでは?」
正論を真顔で返してきた。鈴音はうっと思った。確かに、標準体重なら、いいのか? そういう話とおもったが踏みとどまった。
この先もまあいっかぁと流しそうな自分がいる。鈴音は自分にとにかく甘いということを自覚した。ストイックにはならなくても、超えてはならぬところは死守したい。
それに健康のために、というからにはそこまでは響も何も言わないということだろう。他人にどうこう言わないというのは正しいだろうが、鈴音は少しばかりもやっとする。
しかし、指摘されたらされたでイラっとはしそうな気がした。
つまりは何を言われても不満であるということだ。理不尽である。聞いたことが最初の間違い。
鈴音は素直に謝ることにした。
「そうですね。
自己管理の範囲でした。八つ当たりでした。すみません」
「そんなに気にするほどとは思えないんだが」
「服のサイズが変わりそうなら増量しすぎです」
「服ぐらい買う」
「そういうの、いらないんで。自分で買った自分のお気に入りの服を着て生きていきたいんです。
今まで選ばれたとか用意されたとかばっかりだったので」
今までの鈴音はキャラものや変な柄やゴスロリなんて論外な生活だったのだ。離婚後、慰謝料で爆買いよ!と楽しかったあの日々を思い出し、今はきつい現実を思い起こす。あの日ちょうどよいが、今はちょっとズボンのボタンが締まらないなぁという現実。
「私は私の着たい服のためにダイエットします。
ジム通って筋肉を養成します」
「同じところに通うか?」
「行きません。どーせガチなんでしょ。初心者心折れるので」
そうかと言ってしょんぼりしているところに鈴音はこころ揺らいだが、ここで折れたら負けと撤回はしなかった。
すぐに気を取り直して、じゃあウェアでも買いにと甘やかしたがる同居人をいなして、知り合いに連絡を取った。
なんか、紹介キャンペーンあるって言っていたような気がしていたから。
そして、入会したジムで行き倒れを助けた結果、元夫の番様と判明し、反番連盟が結成されるのであった。という続きがあります。出力されてません。なぜ言語化するには、時間がかかるのでしょうか……。
番様がジムで行き倒れるのは、会社で出待ちされる→ダッシュで逃げる→会員制ジムに逃げこむ→入ってすぐのところでぶっ倒れている、です。裏道を駆使したとはいえ獣人を巻く体力、バケモンかと言われます。そんな彼女は純人です。




