異世界召喚された。
「姉さん知ってるこれって」
知ってる。異世界召喚っていうヤツ。
「困りましたねぇ」
ケーキをさしたフォークくわえたままだった私。
コーヒーカップを持ったままだった従妹。
部屋着のだるだるなワンピース。二枚1000円だってと色違いに買ってきたネタのそれには潔く、肉、と書いてある。
格好いい文体でも肉。
さすが疲れてきたときのテンションでの買い物である。今日に限って二人お揃いで笑いながらケーキをつついていたはずだ。
もうちょっと場面選んでっ!
「聖女様?」
フードの奥から聞こえて来た声は思いの外若い。
その後ろに控えていた男たちと目があって数秒。
お互いにに愛想笑いをして、彼らは部屋の外へ声をかけた。
「お召し替えの準備を」
……ですよねぇ。
こっちもこんな格好じゃ、お話どころじゃない。
お互いの不本意なファーストコンタクトをなかったように、お着替えしてどこぞの応接室に通されました。
従妹とは意志の疎通というか方針が揉めましたが、方向性はきまりました。
だって、あの子、逃亡してスローライフするのとか言い出すんですもの。一人で、置いてくなんて許すわけないじゃない。
ゆったりとしたワンピースとドレスの中間のような服。それに腰帯をぎゅっと締められて内臓が出るかと思いました。
「着替えをありがとうございます」
「お似合いですぞ」
先に部屋で待っていたお爺さんが褒めてくれる。好々爺のような雰囲気だけど、それでこんな場面には出てこないだろう。
相手は取引先のお偉い人、と思い込んで笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます」
従妹が横ですげぇみたいな顔で見てくるのに笑い出しそうになる。この子はこの子で雰囲気に全く飲まれていない。
最初に見たフードの男、軍人ぽい人、お爺さんが主要なメンバーのようだ。後ろにメイドさんが控えているけど、給仕以外の仕事はしないと思う。
流行の戦う系メイドだったらどうしよう。
「急にお呼び立てして申しわけございません。私はこの学院の責任者でディーと言うものです」
「はい」
「昔からある魔法陣の試運転をしたところ、想定外の動きをし、発動してしまいました」
「想定外とは?」
「同じ世界の誰かを呼ぶ、というものだと解釈されておりまして」
首をかしげれば、フードの人が続けて説明してくれた。
「聖女の資格があるモノを呼ぶと。他の世界から誰かが来るとは思わず」
「申し訳ございませんでした」
きっかり90度の謝罪でした。
練習したのか慣れているのかそろっている。
従妹と思わず、顔を見合わせてしまう。
「帰れるんですかね?」
「未定です」
「は?」
「解釈が間違っていたとすれば研究のやり直しです」
なるほど。了解。そうですね。
と納得がいったけど、それって帰れないって事ですよね。
じろりと見れば、気まずそうに視線を逸らされた。
「出来うる限り優遇させていただきます」
きりっと爺さんが言ってくれるけど。
「……でも、うち貧乏だからほんとゴメン」
フードの奥からどんよりとした声が聞こえた。台無しである。
「食べるものと寝床くらいしか提供できない。本当に申しわけない」
今まで黙ってた軍人っぽい人もそう言う。
……えー。
「蓄えも触媒に使ってほんとすっからかんなのじゃ」
「……姉さん」
「なに?」
「スローライフの予感がします」
頭を抱えそうになる私の横でやる気になっている従妹が。
タンポポ珈琲の出番がっと言っているがなんの話か全くわからない。
しかし、なし崩し的に学院の建て直しをすることになることは私は知らなかった。
知らないったら知らないのっ!
某所の某従姉妹のパラレル。どうしてだろう、ロマンスの予感が全くしない。