女神と祭壇と夫と
短編としては量が足りず、連載にもなれず、しかし、つづきーっとなったブツです。
その日、モニカは夫の秘密を知った。
あるいは、思い出した。
「……ねぇ、リーンハルト様?」
「なんでしょう。モニカ様」
にこやかに対応してくれる夫。その笑顔が眩しかった。モニカはその笑顔から目をそらした。顔が良すぎる。
「ど、どうしましたか」
「見ちゃったのよ」
「な、なにをですかっ!」
動揺駄々洩れの声にモニカは頭が痛かった。
「二階の南の部屋」
「え”」
そこはこの館で唯一あけてはならない部屋と言われた場所である。本来ならモニカのほうが約束を破ったと怒られるところではある。
しかし、びくついているのはリーンハルトの方だった。
モニカはびしっとリーンハルトを指さした。
「祭壇なんて壊しなさい」
「いやです」
即答だった。一考の余地もない、と言わんばかりである。
その部屋にあったのは、モニカの肖像画だった。それだけならまだいい。
肖像画が真ん中に置いてあり、花が飾ってあったのでどちらかというと葬式っぽかった。故人を偲び、最後のお別れをというときと似てる。
違いがあるとすれば、まだモニカは死んでない。だからきっと祭壇なんだろう。たぶん。
あー、崇拝してるって言ったもんねぇ……と白目をむきそうになった。
よく見れば市井で売られている姿絵も置いてあった。それからもらったお花のお礼に渡した記憶が薄っすら残るハンカチ。みんなに渡していた、気休めのお守り。
幸いというべきか、使用済みの何か、みたな呪物は存在しない。そこにモニカはちょっとほっとした。
しかし、頭が痛い。
「そもそも本物がいるのに、祭壇を残しておくってどうなの」
もちろん本物であるモニカにお祈りされるのも嫌なのだが、これはこれで納得がいかない。
女神のように崇めているという相手を手に入れたのだから用無しではないのだろうか。
「僕はあなたの幸せを祈りたいんです」
「本人に言って」
「そ、それは恐れ多いというか緊張しすぎて倒れそうです」
「慣れなさい。
いつもはどうしているの?」
「その……。あなたが明日幸せでありますように」
目のまえで祈りの形に手を組み言われ、モニカはたじろいだ。
真摯で、邪念の欠片もない祈りに。
どこかの高位の神官であると言われても信じられそうなくらいの本気であった。
「……くっ」
これを食らって正気でいろというのか。モニカは呻く。
「祭壇は、残しておいていいわ」
敗北宣言であった。
とても恥ずかしい。ものすっごい、照れる。眩しい生き物が無垢な視線で殺しに来る。
無限に私はそんなたいそうな生き物ではなく、ダメなやつなんだと言い募りたくなるいたたまれなさがあった。
それを聞いたリーンハルトがぱっと明るい表情になったのもモニカ的にはもやもやする。
モニカが普通の女であると認めさせる道のりは、とても遠そうだった。
続きというか連載になった場合、ノクターン行きです。全年齢でアレがどうとか書くのは気が引ける……。




