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一人と一匹、荒野を行く

 荒れ果てた大地を道無き道を一人と一匹の馬が進んでいた。馬を止めて彼女が目を眇めれば遠くに街のようなものが見える。全く遮るものがない状態であれば遠くても見えないということはない。それは昨日から近づいた気配すら感じなかった。


 要するに遮蔽物が無い状態では目測もあったものではなく、地図で現在地を確かめてもどこかわからない。そのわかりきった結論にアリアは顔をしかめた。

 そうしたところで平たい荒野は地平の向こうまで続いている。この世界は、最近、こうなった。


 ある日、世界は変質した。


 その結果、世界は荒野になった。と、公式設定ではそう記録している。


 アリアは頭を振った。今更それを考えたところで意味もない。その動作で日差しをよけるためにつけた布からはぱらぱらと砂が落ちそれが余計彼女を苛立たせた。


 いっそ馬を駆けさせようかと思案するくらいにはこの荒野にうんざりしていた。

 尚、荒野にうんざりするのは彼女の場合、毎回のことである。街と街の間は大体荒野か砂漠、まれに森と草原だ。飽きるほど荒野を旅をして、飽きるほどうんざりしている。


 そもそも荒野を駆けさせるにも相棒のご機嫌次第だ。ご機嫌が悪い方が爆走スイッチが入りやすい。この相棒の欠陥とも言える事情で大体、荒野にいると機嫌が悪い。

 つまり一人と一匹は荒野を旅をするのは嫌いということだ。


「相棒、調子はどう?」


 アリアの声に応えるように馬はいななく。


「毛皮の隙間に入る砂を払ってもすぐに元通りだ。街に着くまでは諦め……。いやいや、待て待て。そのやる気はなんだ」


 馬は不満そうにしっぽを振り、次いで蹄で地面を削り始めた。静音設定のはずのモーター音がうなりを上げる。

 馬に似た別種の乗り物。それがアリアの相棒だった。

 慌てて手綱を握る彼女を確認してか馬は走り始めた。その速度たるや自らが砂埃を舞上げる風のよう。

 追従するような悲鳴を聞いたものはない。


 アリアが荒野を旅するのはわけがある。


 わりとありがちな核を越える最終兵器の一大決戦でかなりの文化を築いていた世界が荒野と化して既に百年と少し。まだ、荒野に点々と街を残しているものの人類が滅びるのは時間の問題だろう。数百年後には確実に怪物の天下と言える。


 そう、文明が瀕死の重傷なだけではなく、怪物が現れるのだ。

 それは世界が荒野と化した時と同じと伝えられている。実際の文献をあたってもそうだとされていることが多かった。


 その文献には怪物の奇妙な生態もあるていど記載されている。

 例外を除き街から出るものを襲撃はするが、街自体は攻撃せず、また、街を出ても道を歩いている限りは出没すらしない。しかし、道自体が荒野と化してわからないこの状況では外に出ること自体自殺行為になる。


 例外があるとすれば、街と街の間を交易する商人や傭兵、地図職人、追想リコルダンツァくらいだろう。


 追想とは何か。


 遺跡あさりと言われないだけマシなロマンに溢れる職業である。言葉自体は古く、元々は発掘などを行っていた人たちをそのように言っていたようだ。

 今は主に人のいなくなった都市や工場などに入り、有用な道具を探してくるもののことを指す。まれに街道の怪物を退治したり、賞金首を狩ったりするがそれは事故みたいなものだ。


 という世界設定の乙女ゲームの世界に転生したのが、アリアだった。

 レベル制、銃と魔法と機械が混在する荒野で世界の謎に迫る! というようなものだ。

 荒野と化した理由は兵器の使用ではあったが、そう仕向けた存在がラスボスだ。


 なぜ乙女ゲーのカテゴリなのかと問いただしたい冒険溢れるものである。

 若造はお呼びでないと言わんばかりに攻略対象は大人な三十路越えからスタートである。


 荒野と銃にはおやじが似合う。


 アリアは15の誕生日にそんなことを思い出した。

 彼女の思ったことと言えば、なんて、俺得。であった。

 残念ながら前世の好みはヤバイ方の敵方だったので、接触もなにもないとすぐにうなだれることになる。


 しかし、荒野を旅するのはロマンではないだろうか。

 血迷ったとしか思えない天啓がひらめいた。

 そして、ある村の村娘は夢を夢見て追想へとなったのである。


荒野を行く乙女ゲームがあっても良いじゃない。

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