とりあえず、その番をぶっ飛ばす、から話始めていいですかね? ~二度殺されたので三周目は先にやりにいきます~
フリルはフリオニールという名前のド平民である。古風で貴族的であまり平民感がない名前である。これには少々わけがある。
フリルが生まれることと引き換えに彼女の母は亡くなった。その母がこの名前にしたいのと言っていたため、そのまま命名されてしまったのだ。故人の遺志というものは逆らいがたい。ただ、名乗るには少々恥ずかしさもあり、フリルという愛称で定着している。
正式名称など名乗らねばいいと家族も思っていた。
しかし、このフリオニールという名前のせいで加護をもらうことになるとはだれも知らなかったのである。
フリルが7歳の時に、女神神殿に訪れたときに神託が下った。
その娘は我が加護を受けるにふさわしい。神殿で保護し、養育せよ、と。
そうして家族と別れ聖女としてフリルは神殿で生活することになった。母の命と引き換えに生まれた娘がいることで微妙に溝のある家庭だったので、これ幸いと売り払われたに等しい。
神殿で生活を始めたその日に、フリルは3度目の帰還を果たした。
「……どうして、こんな目に」
フリルは死んだ目で呟く。
一度目のフリルは女神の愛娘として立派にしようとそれはもう頑張った。その結果といえば、番のせいで死んだ。むしろ殺された。
その番というのも、頑張り屋のフリルちゃんを甘やかしてくれるスパダリを用意したの! と女神が神託で告げた相手だった。
すぱだり? と首をかしげるフリルに女神は、あなただけを愛して、あなただけを大切にしてくれるのよ! 楽しみにしてて、といった。
嘘だった。
女神が用意したスパダリとやらは、異種族だった。
フリルを見るなり、人が番など汚点だと言い放ち、放置した。歩み寄ろうとしたフリルの思いをことごとく踏みにじり、挙句の果ては視界に入るな、どこぞへと行けという話をされてしまった。
健気だった初回のフリルはそうですかと田舎の教会に身を寄せることにした。ところが出発の前日、最後にお茶を飲みたいと呼び出され、そこで飲んだお茶に入っていた毒で死んだ。
死んだと思った直後に、女神の神殿やってきた日に戻ってきた。
ご、ごめん? おかしいな、どうしたのかな、不具合かな、という女神の言葉に薄っすらフリルは思った。もしや、ダメっ子では?と。
いやいや、女神様にそんなこと思っては、と思った二回目のフリルはまだいい子だった。
女神からの指示で好感度を上げるためにしたことは、周囲からの好意を集めはした。しかし、当の番には全く効かない。それどころか遠ざけられ続け、またしても毒殺された。
そして、今、三回目である。
「ご、ごめん。なんでこうなったかな。誰の加護もないはず。フリルちゃんの加護も強化してるのに何で毒殺できるの。不思議だなぁ」
焦ったような女神の声がフリルの頭に響く。
「黙って」
「はいっ!」
「番を辞めさせてください」
「あ、ごめん。私の手柄みたいに言ったけど、前から決まってたの。チェンジ不可」
「……相手が、死ねば?」
「は?」
「死ねば、どうだと言っているの」
「え、ええと、解消されるかな。うん。
番というのも相手の種族固有の概念だから、フリルちゃんは自由恋愛できるようになるけど……」
「殺してください」
声に出さず慈愛の微笑みを浮かべてフリルは女神に依頼した。二度も殺されたのに大人しく三度目も殺される気はない。
「こっちから干渉するのは、ちょっと……」
「なら、簡単ですね」
「あ、三度目の攻略するのね。良かった」
「私が、直々に殺して差し上げます」
女神の悲鳴が聞こえたが、フリルは顔をしかめただけだった。
こうして、フリオニールは、打倒竜種の王を掲げたのである。
フリオニールとは、女神様溺愛の神獣の名前である。人界では知られておらず偶然の一致。レアだがない名前でもない。男女ともに名付けられることもあるが、男性のほうが多い。なお、神獣は雄である。
なお、死に戻りは本人が理由ではなく、まだ生まれもしない孫が世界的に重要な役割を担うため、勝手に死なれては困るからである。代用検討会議を経て、やっぱりダメそうと死に戻りをしたのである。残念ながら番と添い遂げて一子もうけてもらわないと困ることも判明している。
「毒殺してもいいからっ! 子供ができた後にっ!」
「自分を殺す男なんて生理的に無理」
女神の奮闘とフリルの明後日な方の努力がかみ合わない三周目へゴー!




