あたし天草、ベンチの上にずっと座っているの。人のいない海って静かね。
草魔法、旅先でのなにか。
もうずっとだれもいないの。人のいない海って静かね。
「ちょっとぉ。迷子じゃなぁい」
「地図ではこっちのはずなんだけどな。町」
「海よ! 絶景だけど海よ! あたし海に漬かると枯れるの早く離れてお水につかりたい」
「でしょうね……。潮風でべたべたに……なんでベンチ」
「あら。ほんと。
あ、灯台よね。あれ。壊れてるけど」
「半壊。廃墟感マシマシ」
とてもうるさいのが来た。
金色のもじゃもじゃと緑のもじゃもじゃ。触覚で歩くタイプの同類。
「え、じゃあ、お化け灯台?」
「なにそれ」
「ほら、前の町で、灯台が壊れて、船が大沈没。海が真っ赤に、って話。
それからこの地では紫色のもじゃもじゃが」
「あるわね」
「はいっ!?」
「見た感じ海藻。藻類は、あまりお友達じゃないのよね。海の生物だし」
「え、話せる?」
「お静かにしていただけますか?」
「しゃべったっ! もじゃもじゃしゃべるよっ」
「あなた、葉っぱの固まりがしゃべっても動揺しないのに」
「あれは生首っぽくてきもいから」
「大概失礼よね?」
「ごめんなさい」
「べつに、よく言われたので」
誰に言われたのだっけ? 今日も気持ちよさそうだねと隣に座ったのは誰だっけ?
あの帽子は。
あれは帽子だったかしら……?
「あの、町ってどっちかご存じですか?」
「人は、あっちからよく来ていたわよ。
もうずいぶん、みていないから、あるかどうかはわからないけど」
「ありがとうございますっ!」
「あ、これ、地図逆に見てるじゃないっ!」
「あっれー?」
「これだから方向音痴は」
「人のこと言えないでしょ。山の中の引きこもり」
「うっさいわねぇ」
「あの、お静かに」
「すみません」
すぐに2つ分の謝罪がやってきた。
「ずっと静かだったの。もう、うるさくしないで」
「ええ、わかりました。
その、海に戻ります? 戻せると思いますけど」
「いいえ。わたしはここにいるの」
「それなら、ご長寿を願って、栄養剤を一つ」
「良く効くよ。ぴっちぴちに」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
騒がしいもじゃもじゃたちはそうやって去っていった。
「栄養剤、か」
ちょっと舐めてみても……!? ひとなめで体が大きくなった。触手も元気になったし、増えた。一瓶使ったら?
わたしは小さく笑って、残りは近くに撒いた。
小さい花があちこちから生えてくる。長く時間をかければ土が見えないくらいに、花を咲かせるだろう。
いつか、壊れてしまった灯台も覆い隠してしまうかもしれない。
それまで、ここは静かに。
「で、もじゃもじゃがどうしたってのよ?」
「あー、あのね、灯台は壊れたんじゃなくて壊したんだって。
海の向こうから敵の船がやってきてたから。でも、灯台壊されたら普通の人は困るじゃない? そこで行き違いがあって、灯台守は殺され灯台は壊れた。そして、ご近所の港町も衰退。自業自得」
「あのもじゃもじゃは?」
「衰退する前に再建の話が出たけど、紫のもじゃもじゃが必ず現れては再建の邪魔をし、呪いをかけるという話。よくわかんないけど、灯台守と親しかったんじゃない?」
「えー、そういう変態はあなただけでいいと思うけど」
「その変態の作った薬なんていらないわよねぇ」
「いります。ごめんなさい」
「ほんと懲りないんだから。
ま、彼女か彼かはわからないけど、ずっとあそこで待ってるんじゃないかしら」
「待ってる?」
「転生ってのがある世界なんだから、灯台守が戻ってきてもいいじゃないかな」
「気の長い、期待薄な話ね」
「そういうの得意でしょ?」
「まぁねぇ。
あ、あなたが死んでも待たないから」
「縁起でもない。というか先に死ぬと思うんだけど」
「……死なせてもらえるかしらぁ」
「今何か言った?」
「なんでもない」
 




