全ての血族
世界を呪いましょう。
この世の全てを。
……おはようございます。
最悪の目覚めです。
異世界転生というのか、強くてニューゲームと言うべきか、ゲームキャラのまま転移というか。
そんな感じです。
意味がわからないとお思いでしょうが、私も意味が不明です。
事の起こりというのは、ゲームでした。
VRというものが流行って定着した世代と言われるくらい普通に使われる日本生まれの私。二十代半ばでした。
明日も仕事だわぁ。寝ようと深夜にゲームを終了しました。
起きたら知らない天井で見回しても知らない、しかし、記憶にある部屋。
止めは姿見に映る自分でした。
「うわぁ。化け物」
よく見た化け物です。なんか愛着もわきます。
だって、ゲームのキャラだったんですもの。
死んだ記憶もなく、何かに出会ったこともなく、気がついたら私は、ゲームキャラの私になっていました。
残念ながら過去の記憶もありました。性格は類似していたのか差異は感じられません。
振り返っても、ああ、そうね。私だわと納得するほどです。
ここは異世界ファンタジーな世界でした。
たとえて言うなら、児童文学とファンタジー系ゲームとTRPGのごった煮。
わかるでしょうか。このカオス。
具体的に言えばスローライフ的な錬金術とマジな呪術が共存している謎設定と、良き隣人と言うべき妖精と妖精さんが同居したり、亜人種はただの人種だったり、魔族なんていないし、魔物もいないけどむしろ妖精が魔物だと言いたくなるようなアレでした。
神々もいたりするけど、無貌の神々と言われ、目を隠して書かれるような感じで。
そんな世界にいるワタクシ。
絶句以外にありません。
いや、本当に、俺TUEEEとかやれるならひゃっほーと浮かれてもよいです。
残念ながら全く出来ません。
超絶レア種族なんです。
全ての血族。
ホントに、全ての種族の、始祖の血を引く一族の娘さんです。
その昔、神々が色々な種族を創って余った素材をあわせて作ったという逸話が残っています。
妖精も竜人もエルフもドワーフもレッドキャップも血族です。
なんならバンシーやデュラハンも、よう兄弟、ってヤツです。
むしろ、神か、みたいな生き物です。
残念ながら殺したら死んじゃうんですけど。逆に殺さないと死にません。あと表に出ている特性によって絶望的な再生力で生き返っちゃう事もあるんですけど。
恐ろしく強いです。最強の呼び名高い竜人と素手で戦えます。上空戦だってやりますよ。
代わりに恐ろしく醜いのですけどね。
全ての種族の血を引くという特性は、全ての種族の外見やら力なんかを取り込んでいるので美しくなりようがないと。
開発は何故に作ったし、みたいな感じすらします。
そして、ランダム種族で何故にあたったのでしょうか。
しかも、ワールドにPCとしては一人しかいないらしいですし。複数のサーバに別れていたので推定十人くらいはいたかも知れません。しかし別サーバに移動は出来ないので会えないのは一緒です。
この世界において強い醜い生き物くらいは良くいるんです。
私の場合、全ての血族、ということが問題でした。
大変、貴重な触媒なのです。
あらゆる生物のしかも始祖の血が含まれる肉体なんて、ちょっと薬の材料にすると神薬かというレベルになり、ちゃんと使うと蘇生薬になります。不老はムリでもちょっと若返れます。
マジックアイテムにだって特殊効果つけまくりです。
呪術なんて、本人じゃないのに触媒にすれば呪えちゃいます。
……ええ、本当にばれると家畜以下の生活しかできません。むしろ殺してくれレベルです。
結果、辺境に引きこもる程度では生ぬるい引きこもりになります。一族全体でももうそんなに残っていないですし。
それでも世界に出てくるのは、結婚相手を探すためです。あまりにも同族では近すぎる血なので、子供ができないのです。
相手は誰でも良いので薬でも盛ってさっさと孕んできたらとか言われる始末です。
恋愛感情なんて、と苦々しく言われるのってどうなんですかね。
熱烈に愛されている時はあるみたいですが、本性の時もっていうのは一生に一度あるといいなぁという話です。
尚、生まれた子供は親の特性を引き継ぎつつ、しかし血族の性質は全く薄まらないという。
始祖の血はそんなものに負けるほど弱くないようで、血を薄めることで現在の状況をどうにかすることはできません。
みんな緩やかに滅んでいけば良いと思うのだけど、一族なりの使命というめんどくさい設定がありまして。
邪悪なる生き物が生まれたときに滅ぼすために存在するという。
それがVRゲームのラスボスです。
そう。延々と続けて欲しいのがこう言うゲームだと思っていたんですが、なんとラスボスが最初から提示されており、クリアすることが出来て強くて二周目が出来る特典があったりします。
概念的には巻き戻りってヤツです。転生にならないのはラスボスがいない世界に生まれるわけではなく、いる世界に戻されるから。
まあ、結果、延々と回り続けるだけになるのですが、達成者はまだおりませんでした。
何故って、血族の力が必要なんです。
あらゆる生き物の血族。
つまり、ラスボス相手とも血縁であると見なされます。
そして、その敵対する、既に亡い生き物たちとも。
ラスボス特効の武器、防具の作成に身を削るために存在し、それを呪縛する技法を覚えているので最終メンバーに必要です。
すごく大事な役目をプレイヤーに押しつけるなと思うのですが、NPCには何人かいるらしいです。
そんな彼らですらほっとくと死んじゃうと私だけが知っていました。
もちろんラスボスの手下にやられてしまうんですけど。
しかし、私がやっていた時点ではゲーム的にこういった情報は秘匿されていました。
知っていたのは、私が、血族という種族だったからです。種族決定した段階で恐ろしい量のデータを送りつけて来ましたよ。
尚、この世界的には生まれて来た時点で必要な知識が既に詰め込まれいるみたいです。知らなかったことを思い出すなんて芸当するのはこの一族ぐらいでしょうね。
……ほんと、なんなんでしょうね。この生き物。
「帰りたい」
心底そう思います。
私の日本での生活返して。
でなければ暗黒が詰まっているPCとかネット上に残っている情報を抹殺して。身内に見られたら死ねます。
いえ、たぶん、日本的には死んでるんでしょうけど。
恥ずかしい過去が恥ずかしすぎて悶絶しそうです。
ま、まあ、もしかしたら寝て起きたら戻ってるかも知れませんし。
現実逃避で私は寝たのでした。
おはようございます。
やはり天井は見慣れないけど知っているものでした。
……うん。
知ってました。
都合良く夢オチにならないことを。
元々そうであったように、私たちは私になりました。以前の記憶は過去の記憶としてあり、私は、私のままでした。多少の影響はあったけれど類似した性格は誤差のようなものとして処理できそうです。
魂の浄化を失敗でもしたのか、意図的に混ぜたのかはわかりません。
宗教概念的に言えば、楽園で死ぬまで戦う系と転生系と幸せに暮らしました系が覇権を争っていたりします。神の実在が証明された世界での宗教闘争はとても苛烈です。巻き込まれたくありません。
共通見解としては生きていた間の事は全て抹消されるとされるので、そこは間違っていない、はず。
だから、アレです。
全ての血族であることに加え、生まれる以前の記憶を保有している浄化されていない魂持ちとされると。
ハードすぎません?
どこぞの神の介入がなければ発生しない事態と知識が言います。無駄に高性能な記憶がこれはやばい事態と警告してきます。
「どうしてこうなった」
虚ろに呟くのは仕方ないと思います。いや、だって、転生してチートで楽勝のスローライフ、だってあっても良いではないですか。
いや、現状辺境の森に引きこもった魔女なのですからスローライフなはずです。
きっと。
たぶん。
そうだと良いなぁ。
遠い目をして目についたのが鏡です。
昨日も見たとおり素の顔は安定の化け物なのですよね。
背は兄弟よりは小さく二メートルはありません。
手足が妙に長く、頭にはぼこぼこと腫瘍のようなこぶがあって、髪もありません。左右の目の色も違って、ちょっと大きさも違ったり、顔には青い血管がレースのように広がっています。むやみに白い肌さえも死人みたいです。
口が裂けてるのかと思うほど大きくなければ、もうちょっとみれた顔だった気もします。
なぜだか鼻筋は通って形の良い鷲鼻だったり。
爪もなぜか緑色だし、体毛はないし。代わりにあちこちキラキラする鱗があります。あとトカゲ系シッポ。びったんびったん勝手に動いてびびります。
小さいとこも手抜きなしで、他の種族の特徴を出しているようです。
竜種と死霊系が強く出ているのではと言われています。能力もそんな感じではありますが、魔法特性が異常に高いので違うのかもと言われてます。
我々の一族、あんまり似て生まれてこないので、全然違う能力を持っているんです。生まれもって使い方も熟知しているので困りはしないんですけど。
そんな私の心強い味方は一族特有の変化。固定化されていてこの種族ならこの姿と決まっているようです。
ヒト族で生まれたならこうなるときまっていたように。
ヒト族としての変化を行いその姿を鏡に映します。
鏡に映るのは白い肌と黒髪、左右の目の色が違う、やや口の大きな女の子でした。なぜか鼻がぺちゃんこで不満です。私の唯一美しかった鼻はどこに消えたでしょう。
総合的に見てちっちゃいかわいい系な生き物です。どの種族でもちっちゃいと言われるので、なにやってもちっちゃかったんでしょう。
髪の色はその種族の大多数が同じ色のものが多いようです。目の色も固定のようで、薄い青と金色でした。
普通は顔を隠すようにフードを被って、背中を曲げているのでおばあちゃんだと思われています。
……婚活どこ行ったとお思いでしょう。
わたしも思っています。しかし、生活基盤が定まらないと焦るのです。お金がないことに焦燥を感じるタイプです。貯金したいタイプと言いますか。
寝込んでもしばらく生活できるほど蓄えがないと安心できません。
前回帰省したときに竜っぽいわぁとお母さんに笑われましたが、それは遺伝ですからねっ! ときっちり突っ込んでおきました。
キラキラが大好きで、うっかり騙されて捕らわれの身になったことを私は知ってますよ。
それで父さんと出会って、私が生まれたんでしたっけね。
そんな父さんとは一時期のアバンチュールということだったそうです。妹の父は別でしたし、兄さんの父も別でしたね。
しかし、何故か父さんだけ母さんを捜して捜しまくって、隠れ里に居座ってます。
生活リズムが合わないので、夕食時しか会いませんでしたけど。
尚、我が父は吸血鬼でした。
さて、色々思い出した今、ラスボスがどうなっているか調べる必要があります。
世界的にどうにかなってはいないようではあるんですが、念のためです。一族に警鐘がならされていないということは大丈夫、だと思いたいんですけどね。
ガチに化け物系女主人公ですが、需要はあるのでしょうか。どうにも旅に出ないと主張して、婚活もスルーするつもりみたいですよ?