疲れた。もちもち生物になりたい。
皆ももちもち生物にならないか!?
俺には妹がいる。
普通に仲が良くて仲が悪い。そんな感じ。
タイミングと機嫌によって険悪になったり、利害の一致で団結もしたりする。
窮地に助ける。
わかるよ?
たださぁ。
「なんで、異世界転移特典に俺付けた」
「お兄ちゃん、好きだろうなぁって」
「俺、社会人一年生。なんなら三か月しか働いてない」
三か月で消息不明。会社がかわいそうだ。幸いというべきかは知らんが、両親とは死別し、親戚とは疎遠。飼っているペットもいないと失踪しても困らな……。
「あらゆる動画の痕跡を消したかったっ!」
「そうだね。私も電子書籍のあれこれ消したかった……」
失踪事件として家のものを調べられるのは想像に難くない。あれらを見られるなんてっ!
「いいじゃない。お兄ちゃんは、粘土でいろいろ作る職人なんだから。
私なんて、ボイス系のアレコレもあったっ!」
「囁いて小遣い稼ぎとかしてるからだ」
「くっ、未編集のヤバい声が警察の人に……あ、なんか、萌えが」
「……。
まあ、それはいいことにしよう。ミリも進まん」
「そうだね」
あっさりと妹は同意した。けろっとした顔をしているので、俺に忖度した結果のような。
「なんでおまえ、半透明餅っとした生物になってんだ」
妹の顔と姿の半透明生物が目の前にいてびびった。食われたのかと妹の敵と思ったら本人だったという。
「あれ? 女神様に説明してもらわなかった?」
「聞いたのは、妹、異世界の救世主に選ばれる、オプションなにが良いかと聞けばお兄ちゃんそういうの好きそうだから連れてこれると聞かれ、じゃあそれでと同意した」
「うん。救世主ってすごくない!?」
両腕ぶんぶん振るな。幼女か。
「で、オプションの俺にチートがついている。兄妹仲良く異世界を救っちゃえ! と軽く女神さまから言われ、今」
「そう。
今からお兄ちゃんはチートで異世界を救っちゃうのです。私はペットのもちもち生物」
「は?」
「そう言う設定で。
形状について言われたときに、なんか疲れたもちもち生物になりたいとか言ったらほんとになったので反省しています」
……愚か者がいる。そして、愚か者の戯言をマジで聞いた女神がいる。たぶん、面倒になったんだ。
俺でもこの妹は面倒だ。血縁のせいでわかるやばさがある。もっとも妹に言わせるとコンプリート主義の変態らしいんだが。
誰にも迷惑かけるわけでもないじゃないか。ゲームのアイテムとイベントコンプして、レベルを最強まで上げて、ボスを全部倒しつくし、地図も埋めるくらい。そこまでしないとクリアした気がしない。
「お兄ちゃん、お願い」
「……可愛いもちもち生物になれたら考える」
「へ? 素のままで可愛い妹ちゃんですよ」
「ほう?」
「いえ、冗談です。調子乗りました。すみません。形状はいかがいたしましょう。サイズ調整はできます」
「あの四個つながると消える丸いの」
「あそこまで単純生物になれと……いえ、試しますよ」
試したが、絶妙に可愛くなかった。
「丸いピンクの」
「えぇ? あれ意外と難しい」
「じゃあ、猫」
「お、それは猫耳猫しっぽ……わかってます」
「……おい、本気でやれ」
「やってますよぉ。猫飼ったことないのに猫になれとかひどくない?」
「犬もダメか」
「うーん。タピオカ」
「お化けちゃんのほうがまだ……」
「いやいや、雪だるま、三段」
「あいつは可愛いカテゴリではない」
「絶妙な感じがイケてると……。スライムとか」
「狩りつくされたいのならば止めない」
「あ、はい。失言でした。ほかに何か丸い生き物ってなに?」
「まっく」
「それは版権が。異世界来てからも版権あるのかな?」
「それ言うなら全部だめだろ。この期に及んで、オリキャラ作成からはじまるのか」
「お手数をおかけします」
「はぁ……」
結局、白い丸に棒線三本で顔と口をつけたものになった。どこかで見たことがないでもないが気のせいと押し通そう。ぷにぷに、ぷよんぷよんして移動するのが可愛いかもしれない。
「全力ジャンプしんどい! 全身運動反対!」
二足歩行か四足歩行が良かった気もするが、それつけると絶妙にキモイ。うわぁと引くくらいキモイ。天国で薬作ってる女ったらしが描いた絵みたい。に゛ゃーとかいいそう。
その妹を肩に乗せる。質量は見た目通りで手のひらサイズなのが嬉しいところだ。ほかの部分は異次元に収納しているそうだ。
……内臓とかどうなってるのか、考えてはいけない。
そうして始まった異世界を救う旅というのは、予想通りに波乱に満ちたものになったのだった。
難聴系主人公になるんだと色々聞かなかったことにする俺とそれを面白がる妹のバディもの。恋愛関係は存在しません。シスコンブラコンは存在します。あと女神さまはもちもち生物って素敵ね!という感性の持ち主。




