辺境伯の趣味。
断ってもダメなら押し付ければいいじゃない!
ある日、彼は気がついた。
結婚の申込みは断っても無駄なんじゃないかと。
断るついでに他の家を紹介することにした。
嫁がほしいと嘆いていた男の顔を思い出したから。
ついでに言えば、モテると妬まれるのにも飽き飽きしていたからだ。
別に悪いヤツではないが、その点だけは別だと目の敵にされるのはやりきれない。
彼はそれなりには整っている顔立ちで、辺境伯という地位もあり、適齢期は外れていないくらいには若かった。両親は死別しており、婚姻を結んでもあれこれ言われることはない。妹がいるが、それも疎遠ともなれば家を掌握するのは容易そうに見える。
領地が田舎であっても王都に屋敷をもっているのだからそこに住めば良いと好条件が重なっている。
唯一ケチをつけるとすれば、その一族にしては魔力が少ないくらいだ。ただし、魔力過多となりがちな貴族の娘としては、生まれてくる子供の健康のため相手の魔力量が少なくても構わないとされる。
やはり、彼は好条件の都合のよい男なのだ。
自分が女だったら、ダメ元で釣書を送りつけるだろうと自覚していたので、うんざりしながらも断ってきた。それなりに礼は尽くしたつもりだ。
というのに前見たのをと同じものを送りつけられてるに至って、この対処ではダメだとわかろうものだ。別の相手を紹介するというのは失礼な気もするが、見込みのないことに時間を費やすよりはマシだろう。
忘れず、紹介した男にこの家の誰それに紹介したからあとは自力でがんばれと手紙を送る。
釣書を眺めながら、あれこれと相性を考えるのは意外に楽しかった。
同じように何人かに断りついでに他家を紹介し、紹介したからとある意味無責任な手紙を送った。
「さて、どうなるかね」
彼は楽しそうに口元を緩めた。
ある日突然、旧友から手紙が来た。
「なんだ?」
たまには会おうという誘いだろうかと首をかしげながら手紙をあける。
「ん? んんっ!?」
要約すると、婚姻の申し込みが来ていたお嬢さんが君と気が合いそうだから紹介したからがんばれ、と書いてあった。
「はぁ?」
この手紙を送ってきたのは腹が立つくらいにモテる男だった。ただし、本人は迷惑と思っていたのか浮いた噂も殆どなかった。今も婚約者すら定めずにいるらしい。
いろいろあって結婚する気はないとのことだ。後継については養子か、妹の子をあてにしているようだ。なお、妹は未婚である。ついでに言えば最近、成人したばかりだ。あの兄にしてこの妹?と首をかしげるような地味さだったが、側にいてほっとする系の雰囲気はした。
沼るとやばいやつとさっさと撤退したのだ。あれを義兄とも呼びたくもない。
「手紙、他に来てないか?」
執事に尋ねるが、ございませんとそっけない返事だっなた。
「来客は?」
「旦那さまと面会したいと使いの者がやってきましたが、なにぶんお帰りがいつかわかりませんとお断りしました」
「いつ」
「三日前です」
手元の手紙の日付は半月前。迅速すぎないだろうか。いやいや決まったわけでなし、と彼は首を横にふった。
「どこの家のものか名乗ったか?」
「ソルト伯とお伺いしました。今まで交流もございませんし、旦那さまからも聞いておりませんのでお断りしましたが」
「いや、それでいいんだが……」
不在がちな主に代わり、執事が代行するというのもわりとありがちではある。人手がないというのは弱小貴族家にとっては普通だ。
「ソルト伯な……。記憶にねぇ」
「ですよね。旦那様のかわいい記憶力がおいたわしい」
「……俺、なんでおまえを家に置いてるんだろな」
「人材不足で切れないからでございましょう」
すました顔で珈琲のお替りはいかがですかと執事が訪ねる。この執事も五年ほど前に拾ったのだ。いやぁ、ちょっと旦那様の気持ちの受け取りをミスってざまぁされました、との証言である。
深く聞きたくないし、有能ではあるので置いてはいるが、正しいかはほんとにわからない。
どこかの離婚された旦那様がいる世界線でもありますが、でてきません。でも、やらかした執事は野垂れ死に寸前で拾われ、言わなかったのが悪かったのだと改心し、毒舌を吐きながら旦那様をちょう……矯正しつつお嫁さんにはべた甘になる予定があったりなかったり。なお、執事のお給料は某所孤児院などに寄付され、定期的にものを送ったりし、一度も姿を現さない謎のあしながおじさんになったりしています。




