悪役令嬢に異世界召喚された話
「そんなごちゃごちゃいうなら、ここにきて、助けなさいよっ!」
僕が召喚されたのは、その言葉のせいだった。
「はい! よろこんで!」
もちろん、そう答えた僕にも非がないとは言ってない。
現在、真っ暗に等しい牢屋に入っている。なんで、牢屋スタートなのと遠い目をしてももう遅い。せめて、三日前にして。
「だから、あなたはなんなの?」
「何なのと言われても、ごく一般的な会社員でして。特技はどこでも寝れること」
「……役立たず」
「面目ございません」
今、尋問もされてる。
さて、現状を並べればこうなる。いつも見る夢があった。同じ夢ではなく連続してみるもので、定期的に集中連載されている漫画のようなものとして僕は楽しんでいた。僕は登場人物ではないので話には関与できないし、ふらふらとあちこち歩きまわるくらいしかできなかった。
その中で最終的に追いかけてきたのは彼女で、今、牢屋にいた。
なんというかいわゆる悪役令嬢で、いじわるな言い方してるけど、真っ当なことを言っているのもいい。正々堂々しすぎて色々嵌められた結果と言える。
どこでも自由行動できる強みを生かしてあれこれ調べたり、見てはいけないであろうことも知ってはいるから、彼女にそれを伝えられれば好転するだろうと思っていたんだけど。ま、ムリだった。
と思ってたんだけど。
「少し前からごちゃごちゃと人のことをあれこれ言って、なによ失敗したじゃない」
「え、僕のせい!?」
「危険なことを知っているとこの処置よ」
「ごめんなさい」
「別にいいわ。あのままいけばどうせ老ドラゴンに嫁がされたし。せめて相手は人間で」
「あー」
ドラゴンは比喩表現ではない。キラキラ大好き困った生き物。それは人間でもそうらしく、彼女もドラゴン好みの姿をしている。銀髪がきらっきらして、目も青い宝石のようだ。
「しかもハーレム入りなんて」
「お察しいたしますです」
で、コレクション癖もある。各国に無理を言っては定期的にきらきらの人間を貢がせていた。ちらつかせの武力は相当なものだから、一人二人と要求を呑んでいるうちに生活全般も面倒を見るようにいわれているらしい。
なお、コレクションであって妻でも夫でもない。ドラゴンは一人で生まれて一人で育ちという感じなので生殖は不可のようだ。人型もとらない。
さらにこの世の果てとでもいいたくなるようなお住まいであるらしい。
普通にそんなところに貢がれたくない。劣化するまえに水晶に閉じ込めるとかいうのは噂だけど、わりと本当っぽいのも怖い。
こういう事実っぽいところのどの程度まで彼女が理解していたかは不明だけど、まあ、黙っているつもりだ。なかった未来の話はしない。
今、大事なのは現状からの未来だ。
「そもそもの話ですけど、なぜ呼ばれたんです?」
「貴方、この一年、わたしのまわりにいたでしょう」
「ここ最近、いたのは確かだけど僕は夢であると認識していてですね」
「魂が漏れてたんじゃないの? 夢遊病というものもあるというし。
私の周りをうろついている謎の男がいたから警戒してたのに、全く無防備であんなこと言いだして」
「あんなこと?」
僕の記憶には恥ずかしいことはしてないはずだという気が、いやまて。
彼女が両手で顔を覆ってる。
「か、かわいいとか、いつもいい子なのにとか、なんとか」
「……聞こえてないと思ってたから」
言いました。なんなら落ち込んでいるようなので、頭も撫でました。大丈夫と背中をさすったこともあります。
……なにこの身の置きどころがない感じ。
「責任取りなさいよ」
ぎろりと睨まれているけど、薄暗くても赤くなっているのがわかる。どんだけ赤面してるの。
「僕で良ければ、喜んで」
『ギフトが発動しました』
僕の言葉にかぶさるように聞こえた音。
思わず二人で顔を見合わせて、あっと彼女が声をあげる。
「なしよ、なし! なんてことをしてしまったのっ!」
「なにしたの?」
「……ギフトがあるの。みんな持ってるのだけど、私のは特殊条件が付いていて」
「うん?」
聞かないほうがいいやつの気がする。彼女の茹でだこのような顔を見てたらそんな気がしてきた。
「一つは守護者の召喚。それから契約。契約をしたら、追加で効果があるらしいのだけどっ!?」
「責任を取るが契約成立になっちゃったと。
頼りない僕ですがよろしくお願いします」
「なんで、すぐに真顔でそういうこと言うのっ!」
「異世界で一人で放り出されたら困る。ああ、良かった。契約なら逃げられないね」
「……なにかしら、罠に嵌められたの?」
呻くように言うけれど、相手にだって呼んだ責任を取ってもらいたい。僕だって行き倒れしたくない。それ以前に牢屋から出れないので行き倒れもできないか。
「特典てなに?」
「……詳細を今知ったの。ほんとにほんとよ。ほら手を出しなさい」
「はい?」
お手をしました。僕の手をきれいな手ねと呟いて彼女はそっと握る。そのまま持ち上げてなにをするかと思えば、甲に少しだけ唇が触れた。
「ひゃっ」
「なによ、嫌だったの?」
「なんかびりってきた。なんか温かいものがぐるぐると」
「守護の覚醒。一時的だけど、壁を破壊するくらいできるのですって。おすすめはそこの窓のあたりだそうよ」
「具体的」
「初心者ガイドですって。バカにしてるのかしら」
そう言いながらも彼女は仁王立ちしていた。
「やりなさい」
断られるなんて少しも思ってない。僕は少し笑って、わざとらしく一礼した。
「我が主が望むなら万難を排しましょう」
このとき微妙な表情をされた理由を知るのはずーっと先のこと。
そんな感じで始まるスローライフ。
この世界の住人はギフトを生まれたときに持つが、彼女の場合には封じられていた。何を呼ぶかもわからないし、彼女に従うものとなれば危険であるという理由ではあったが国家の最終兵器としての期待もあり、手元に置いておきたくもあって王族と婚約していた。ところが婚約破棄からの一連のあれこれで牢屋行きに。ちょうどいいやと牢屋で飼い殺し予定が、脱獄&守護者召喚した疑惑で探されている。
ということを二人は知らずに山奥でスローライフ。




