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続きそうで続かない短編倉庫  作者: あかね


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20/67

この度めでたく番が現れまして離婚しました。

だいたいが猫です。


 世の中には獣人というものがいて、まあ、そいつ獣カテゴリでいいの? みたいな生物もいるけど細かいことを気にしない一族なんです。

 奴らの習性に番というものがありまして、番至上主義が掲げられています。相手はどういった種族でも構わないらしいのですが、比率的に人が多いらしいですよ。

 そんな中、なかなか番が見つからないということもあります。であったのが老人でということも稀にはあるのだとか。本来なら番以外とは結婚もしないらしいのですが、種族として存続しなければならないという問題があります。昔、それで滅びかけたので切実な話ですね。種族として間違った進化してないかというところはまあ、突っ込まない優しさは持ち合わせてますよ。


 番不在期間の後継者問題の解決法として、番が見つかるまでの仮の婚姻というものが出来ました。契約婚と呼ばれるのが一般的です。

 まず、番が現れたら即離婚。子供がいたら子連れで離婚。代わりに慰謝料は積むというものです。

 番の子を後継者にしたがるという悪癖がありまして、残しておくと危ないから子連れ離婚になります。でも、獣人の子は大事なので、きちんと養育しましょうという方針です。

 こういう奴らの配偶者になりたがるものは、それなりの事情があったりするものです。


 もちろん、私もそうでした。

 実家が、売りやがったんですよ! なんかおまえ、気持ち悪いって言われて! ふざけんなよ、後妻の子の分際で本家の長女を売るとか正気かっ!

 ……こほん。

 まあ、うちもそれなりに事業展開している企業でして政略結婚というものですねっ! この空を飛ぶ船があるようなこのご時世に寝ぼけたことを……。二百年前とろくにかわりもしないものです。


 その不本意な婚姻生活というものもある日突然終了を迎えました。


 ほどほどのイケメン眼鏡猫耳付きだった旦那様は、ある日、番を発見されました。その日からもう態度が激変。

 は? と唖然とする間に、本当にあっという間に家を出されました。都会の高級マンションに押し込まれ、どうかどうか、出てこないでくださいと拝まれてしまいましたね。


 獣人の彼らが言うには、番を見つけたばかりの獣人は手の付けようがないということです。高揚と本能で正気ではないと断言されるくらいにはアレらしいですね。あの状態を同族でも問題ある態度と認識していたということに私は驚くわけですが。実は昔からなのかここ最近の認識なのかはわかりません。むかしはもっと放置だったように思うので改善されてきているということなんでしょうかね。

 それはさておき、その場に他の女がいるのを許せないと殺されることもあったと過去の事例を出されました。さらにほんの僅かでも相手の方の詮索をしようものなら、逆鱗に触れること間違いなし。なにかあったら奥様のせいにされますといわれるくらい、だそうで。確かにそういう話も知ってます。

 というわけで、獣人のお付きの方々の配慮により、番の方が被害を受けないように監禁という建前で保護されました。


 なお、幸いというべきか婚姻期間は五年ほどで、子供もいません。そうなるとぽんと放り出しても問題なさそうですが、ここで対応を間違えそれが広まると契約婚をしてくれるものがいなくなるという切実な問題があるそうです。

 確かに約束守ってくれないなら、この理不尽に耐えるのは難しそうですね。前触れなく捨てていくとか。


「……奥様は落ち着いていますね」


「そうかしら。どうせこんな事になると思ってたから」


 怪訝そうな彼には理由を答える必要はないでしょう。


「これから大変ですよ。頑張ってください」


 代わりに励ましておきました。

 番を求める獣人を舐めてはいけない。私はそれを覚えているのですよね……。私には前世があってその前世で獣人の番になってしまったから。かれこれ二百年ほど前は契約婚もどうしても残さなければいけない家に限り許されたことであったりしたんですよね。結果、滅びかけてたんですが。

 現在のはるかに理性的な対応にうっかり感動していたくらいなんですが、番に全部持ってかれるのは変わらないようです。

 とりあえずは、今生は番などと無縁でいたいものです。ええ、言うとフラグが経ちそうだから言いませんけど。


「情はないのですか?」


「あったら面倒なのでは? 契約婚ですよ? いつか、捨てられるための結婚に何を期待してるんですか?」


 要は結婚ビジネスです。まあ、あの可愛い猫耳を愛でられないのは痛手ですが。でかい猫、惜しかったですね。長毛種に埋もれて毛だらけになる喜びを失うというのは……。

 なんだか泣けてきました。私のもふもふ返せ。


「……失言でした。申し訳ございません」


「猫が欲しいです。可愛い長毛種」


「手配いたします」


 勘違いされていると察しながらもこそっとおねだりしました。よしっ! 次の猫げっと。浮気者のでかい猫などもう知らないです。

 どうせ、旦那様は元旦那様になって私のことをすぐに忘れるのですから。


 あの変わり身の早さは引くほどですね……。相手の女性を少々気の毒に思います。二百年前は拉致監禁でしたからね。今それやったら犯罪らしいのですが、旦那様のおうちはそれなりに権力のある古い家でもみ消せるんじゃないかなんて……ないですよね。

 うん、力強く生きてくれたまえ。残念ですが、相手の女性に近づいた瞬間、抹殺される身の上なのです。心の中で応援する以外をすると生命の危機に直結します。


 さて、紆余曲折色々あって、離婚が成立しました。なお、紆余曲折あったのは旦那様と番の女性との間のことです。既婚者とか無理とか振られたと聞いて笑いをこらえるのが大変でしたね。そこから契約婚の話で誤解を解くつもりが、さらに冷たくあしらわれたと続報を聞いて即ベッドルームに引きこもりましたね。枕に顔を押し当てて、爆笑ですよ。

 なお、この対応になるのは、獣人の方々的には不幸ですねという対応だったからです。


 その時点でようやく旦那様は、まずは離婚と思ったようです。それに気がつくまで2週間! 確かに正気じゃないなとしみじみと思いますね。

 まず、離婚届だけが届いたので、約束の慰謝料と財産分与と書いて突っ返しました。先にその書類を整えろということですね。

 その次は弁護士がやってきました。温情としてこの住まいを提供するだけで話をすまそうとしたので、契約婚の説明をして、正当に払われないのであれば友人知人に相談してしまうかも、実家にもと話をしておきました。

 頭が痛いと言いたげに弁護士は帰っていきましたね。


 お金は大事です。住処も大事ですけどね。ろくに職務経験もない女を用済みだからと放り出すなと言いたいですよ。

 そこからまあ、金の亡者めとか何とか言われましたけど、それなりにもぎ取って離婚は成立しました。


 で、なぜか、今、弁護士先生に求婚されてます。


「……なぜ?」


「うん? 君の闘志に惚れた。あと、俺も結婚しろって煩く言われている。

 君は実家に帰りたくないと言っていたので、身元引受人としても夫がいたほうがいいのでは?」


「それをすると私の乗り換えが早すぎるって話になるのでは?」


 結婚の申し出は利害関係の一致というやつですか。

 確かにしょっちゅうあってましたね。アリバイとしては成立するかもしれませんが、離婚の話をまとめる途中に他の相手を見つけたというのも問題ありでは。

 と思ったんですが、彼は肩をすくめています。


「未練はないだろう。ただの猫好き」


「うちのかわいいエカテリーナちゃんは特別ですっ」


 猫吸いすると迷惑そうな顔をするけど、逃げないいい子なんですっ! ツン全開でも愛しい。そういうものです。


「うちにも猫がいて」


「え」


「三毛とぶち」


 そう言って彼が見せてきたスマホを強奪しました。眩暈がしました。ぶさかわとあざとさを極めていますっ! うちのエカテリーナちゃんを加えれれば楽園がすぐそこに。


「結婚しましょう! 猫ちゃんたちを幸せにします!」


 そして、私も幸せになります! 添え物の旦那がいるかもしれませんが、些細なことです。


「……とりあえずはそれでいいことにするか」


「あ、ついでに言っておきますけど、別に私を幸せにする必要はありません。

 人に頼る幸せは儚い」


 死なないと思っていた前世の旦那様は私よりも早く亡くなり、私は一人ぼっちになりました。そりゃあ、人生の半分くらいを監禁されていたら知人も友人もいないし、子供すら遠ざけられていたら懐きもしませんね。あれは日常一気に崩壊のどん底でしたね……。

 そこから好き勝手しましたけどね。若いうちにしたかったとは思いますよ。体力の目減りが半端ないので。


「猫は?」


「猫はいいのですっ! 下僕になる幸せをかみしめたい」


「わからんでもないが。ちょろすぎないか?」


「猫様のまえではちょろくてよいです。

 あ、離婚後は再婚禁止期間もありますのでそのあとに婚約しましょうか。それで、いつ、同居します?」


「まてまて、話が早い。まずは、うちの子と面会してだな」


「そうですね……。気に入ってくれると良いのですけど」


 しゅんとした私に慌てたように大丈夫だからと声をかけてくれる彼はいい人です。猫好きに悪い人はいませんからね。


「で、いつ会います?」


「普通にデートとかしないのか?」


「貢物を選ぶための買い物なら妥協します」


 仕方ないなぁと言いたげなため息をつかれましたが、気にしません。


「あ、でも、お留守番させたことないから同伴でよいですか?」


 渋々頷かれたのは納得がいきません。うちのお嬢様をほかの誰かの手にゆだねるなんてっ!


「うちのは大きいから連れていけない」


「お留守番できるなんて偉いですね。二匹なら寂しくないんでしょうか」


「煽りあってけんかはする」


「あらあらあらー」


 ぜひとも鑑賞したいですね。彼はそういえばといって、ペットカメラの映像を見せてくれました。

 卒倒しそうでした。


「うにゃ、うにゃう」


 エカテリーナちゃんが不満そうに膝に乗ってきて、覗き込みたしたしと画面を叩くさまは愛らしく尊い以上の言葉が必要です。

 そのでれでれな私をなんだかおもしろい生物のように見ていたのですよね。気がついていて気がつかないふりをしてましたけど。


「ところで一つ大事なことを聞き忘れていたのですが、貴方、獣人ですか?」


 彼らは同族で集まる習性があります。群れを作らないものですらその傾向があります。

 そして、他種族に対して威圧的態度をとることもあります。上限関係を明確にしたがる影響でしょうね。

 その獣人が彼には丁重に対応していたのですから、疑いますよね。


 おやと言いたげに眉をあげたところを見ると気がついていないと思っていたようです。

 

「獣人ではないね」


「別種の異形ですか。ちなみに年齢は?」


「百を超えたあたりで数えるのをやめた。今年何年だったかな」


「紅心歴1495年です」


「百四十五歳くらい」


「ほぼ二百歳ですね」


 納得いかんという表情で見返されましたが、私は24なんですけどといったら黙りましたね。高校卒業と同時くらいに結婚させられての現状ですから。結婚五年目でもまだまだ若いですよ。

 ちなみに番の子は30歳だそうです。元旦那様は28歳。剛腕才女にぶん回されてます。なにそれ面白そうという感想しか出てきませんね。

 番? うるせぇな俺は仕事したいんだよ。などといわれたとか。お付きの獣人の方々がおいたわしいと嘆いていたのですがね。あの旦那様に口説き落とせる気がしません!


「ロリコンといわれるだろうか」


 真面目な顔で何を考え込んでいるのかと思えば、想定の斜め上どころか迷子になるくらいの事を言われました。


「一般的に人間女性の適齢期なので、人間感覚で良ければ普通ですよ」


 ただし、別種族の感覚ではわかりません。時々、ペットか何かと思ってるんじゃないかというときがありますからね。

 え、あんなペットと結婚すんの? という目で見られる可能性はあります。


「君にそう思われないなら良しとしよう。

 日程の調整ができたらまた連絡する」


「お待ちしています」


 がしっとビジネスな握手をして彼は立ち去りました。


「……さて、エカテリーナちゃん。あっちのおうちのイケメンはどうですか? 侍らす女王様目指します? 姫扱いの、あ、いらない。わかりました。では最高待遇のお部屋を用意しましょう」


 うにゃうにゃと合いの手を入れてくるエカテリーナちゃんのご要望の通りの家を探すことにしましょう。

 新居については同額出せば口出しできるでしょうし。それができる慰謝料も財産分与もありがたいものです。途中から、彼は弁護士という立場を超えて元旦那様に苦言を呈していたようですし。

 恋情ではないにせよ好意はありましてね。そうじゃなければ猫様がいてもお断りしたでしょうし。でもお友達にはなったかもしれませんが。

 かわいい子はいいものです。そして、猫は全部可愛いのです。


「わわっ、なんですか、甘え時ですか」


 エカテリーナちゃんが突進してきたので思い切り撫でてみますが、不満顔をされてしまいました。


 人間と人外と猫三匹の生活はこうして始まったのでした。

その後、断固拒否の番の女性を拾ったり、元旦那を調教したりと忙しい日々を送る羽目になる二人と三匹のお話。なお、猫は猫なので獣人ではありません。クーデレ、甘えんぼ、ツンデレと揃っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫が三匹いてそんなみごとなラインナップならもう最高なのでは…?!? 長毛種をブラッシングしてあの毛並みをモフる時こそ最高の時間ですもんね…!!そりゃ仕方ねぇ~!!
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