そうして人類は永遠の眠りについた。
書き出し指定のSF小説のコンテストがあって、書きだししたものの断念したもの。
うねうねうにょうにょするのが、人外だと思っている節は多分にあります。あと鱗付き。
そうして人類は永遠の眠りについた。
いつか、この身を苛む奇病を治してくれる奇跡を信じて、騙されたとも知らずに。
そして、やつらは旧人類と言われるようになった。
新生人類は宇宙に蔓延っている。
「ふぁあ、つまらん」
私は呟いた。同じような言葉はほかのものからも聞こえてくる。新しい学校に入学したという気分に水を差されたような気がしてきた。
この話は、どこの学部に入学しても聞かされるものだ。学部どころか幼等部にはいるころから聞かされている。物語の難易度は変わっても、内容はおおよそ同じ。
ある日突然、人類に蔓延した奇病。それを治そうとあらゆる試みがされ、その一つとしての遺物との混血。その結果の純血種の滅亡。
最後の純血人類は奇病を解決してくれる未来技術があると信じて永遠の眠りについた。
そして、目覚めない人類は、旧人類となり現在は博物館に飾られる置物となり果てている。
忘れぬようにと事あるごとに言い含めてくるお偉いさんは、旧人類が戻ってくるのを恐れているのであろうか。
あるいは、同じようにならぬようにと自戒しているのか。
一般人の範囲を外れない私には興味がない。他の生徒と同じように、またか、といううんざりした気持ちしかなかった。
その当時、生きているどころか一族すら存在しなかった。当時いたのは太古の種族とまではいかないものの相当古い。古くて滅びていなければ、結局お偉いさんなのでやはりこれはお偉いさんの趣味なのだろう。
「虐殺しなかっただけ我らの心が広かったと思えばよろしい」
この広い教室で、わざわざ隣に座っているイリは澄ました顔でそう言っている。
先ほどまで寝ていたやつとは思えない。蛇髪が寝ぼけたように鎌首を持ち上げ、きしゃーっと言いだす。
さすがにいらっとして私の指先の触手で相手をすれば、それは怯えたように縮こまっていく。
「おお、よしよし。怖がらせるのはどういう了見だね」
「ちょっかいをかけてきたのはそっちが先だ」
「吾輩の可愛い髪がじゃれただけであろう? まったく、ビーは心が狭い」
可愛い髪は普通、噛みついてこようとはしない。少なくともうねり髪仲間である植物系のアイラも液状化が常態のシンもそんなことはしなかった。
私の髪も二本ばかりある触手がうねうねするだけで大人しいものだ。
「心が狭いねぇ?」
「そうだとも!」
イリはそう意気込んでいる。蛇髪もそうだそうだと言いたげにしゃーっといいだしてなかなかに騒がしい。
「心が狭いので、課題は見せない」
「おおっ、心の友よ、いや、ほんとお願いします、留年したら次元船に載せるって脅されてるのでっ!」
「自力でなんとかしなよ」
偉そうな態度をかなぐり捨てて放っておけば土下座でもしそうな勢いのイリに溜飲を下げる。
気分が良くなったので、課題を見せてやる私もお人よしだ。先ほどの映像を見ていれば答えられる課題ではあるが、見ていなければわからないところもあっていじわるである。
映像を見る前に課題の設問を見ていたはずなのにイリは先ほどの話も全部、爆睡でスルーしたのだ。一事が万事この調子だから、優秀であるのに次元船に載せるといわれるのだ。乗せるではなく載せる。荷物扱いだ。人類扱いではない。
せっせと課題を写しているイリの横顔を見ながら私はほぅっと息をつく。中身はともかくイリの姿は麗しく、竜鱗もかくやといわれる肌の煌めきは、鑑賞に値する。
イリは一族の粋を集めて、デザインされた。しかし、残念ながら、性格は作り損ねたようだ。
私とは違うとは卑下しすぎかもしれない。
無性の分裂が主な増殖方法の一族において、両性を持ち合わせたイレギュラー。どれにもなれるがどれでもない。
祝福と呪いと言われるのが嫌で、辺境から大都会に研究されること込みで出てきた。中央都市では、混血が進み一族の特性がごちゃまぜになってしまっているだめだ。
田舎では一族ばかりが固まって生活することは多い。生活環境の維持はそれぞれ苦労する。それだけではなく、捕食関係も絡まるともなればお互い接しないほうが面倒がない。




