幽霊に襲撃されたのですが。
「おらぁっ!」
寝ているときにみぞおちに文鎮が落ちてきました。
「げふぅ」
「起きろ。なんなんだ、あれは」
目を開ければ、美人さんが目の前にいました。びっくりするほど透けてます。
「は?」
「あんな駄作に私を出すな」
……どちらさまで?
僕はただの学生で、劇作家の見習い。仲間内で集まって、今度劇をすることにしたんだ。みんなが知っているお話しが楽ちんだよねとその話を選んだに過ぎない。
前に見たことのあるところをかいつまんで、いいとこどりして、今時の演出すればいいかなって。
「グランディ様、ですか」
死ぬまで幽閉された王子様です。ざっくり二百年前にお亡くなりになったはずですが、二百年たっても当て馬として有名です。
婚約者振って、平民の子と結婚しようとして、元婚約者にクーデター喰らって乗っ取られーの幽閉されえーのって話です。彼の視点から言えば、ですが。
婚約者振らなければ、それなりに生活出来たんではないですかね。
「あの女と一生とか無理だから。どこかで吐血して死ぬし、なんなら毒殺されるし」
「……なかなかエキサイティングですね。でも、旦那様との仲睦まじい話しか残ってませんが」
「好きなものしか好きじゃない、ってヤツだな。探せばえげつない話は山ほど出てくるはずだ」
「嫌われていたと」
「断罪されて幽閉されるって言い続けられていた気持ちをおもんばかると良い」
ふてくされたような顔の王子様。透けてます。
「それで何の用ですか」
「呪いがかかってるんだ。なんと、国立劇場で上演される俺が出てくる劇を全て鑑賞すべしという呪いが」
「……は?」
「俺も最初は、は? と思った。死後に発動する呪いってなんなのとは思った。幽閉の条件がそれでなにも考えず了承した。さっさと死ねば良かった」
「ええと王家主催で年末に毎年上演されていますね」
「おう。全部俺が出来るくらい見たな。一週間くらいの昼夜公演とか嫌がらせか」
……正しく嫌がらせでしょうね。
「で、出来が悪すぎて抗議しにきた」
朝方まで正座で幽霊に駄目出しをくらいました。
これが僕とグランディ様の腐れ縁の始まりだったんですよね。
年末にやるじゃないですか。赤穂浪士。あんな感じで毎年毎年、自分のやったことを脚色されて上映されるのを強制鑑賞させるざまぁ。期間は劇場が存在する限り。
そんなのが頭の中をよぎっていったのです。
主人公は演劇やら色々なものに詳しくなってしまったグランディ様と二人三脚で、劇作家のスターダムにのし上がるのか、安楽椅子探偵始めちゃうのか、はたまた、平凡な人生を歩むのか。未定です。
 




