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真面目な魔王とポンコツ女神とクズ勇者と    ―お願い、魔王ちゃん。早く勇者を倒してください―

作者: デューク

いつの間にかこんなに長文なりました。


途中で出る言葉「神に誓う」は破れば死ぬの意味。


誤字脱字等あると思いますが、ゆるーい話なので少しでも笑ってもらえれば幸いです。



良し、今日も仕事が終わった。


いやー、今日も大変だった。うん。ほんとに。


俺はガルウィン・セドリック………じゃなくて、ガルウィン・ロウ・セドッリクだ。


何を隠そう超、超、超、貧乏くじの新任の魔王だ。


いや、誰が好き好んで自由奔放、単純脳筋、弱肉強食の魔族達の長になりたいよ。


ついでに人類からの絶大な人気(殺意)である。ワーイウレシイナー。


先代も「胃が痛い」「人間怖い」「魔族怖い」からの、「あー、明日までだわ、私の魔王の任期。うーん、そこのおまえ!明日から魔王として頑張って!私は隠居する」って言いやがった。


ご丁寧にすべて、引き継がされて魔王になった私はうれし涙でいっぱいだ。はっはっはっ、コンチクショ―!!


………まぁ、愚痴を言っても仕方ないので仕事はする。幹部が優秀じゃなきゃ実家に帰るとこれではあるが。


寝る!とりあえず寝る!寝なきゃやってられん。


ということでお休み。スヤー………










「おはようございます、今代の魔王」


まどろみの中後ろから声がする。なんかめっちゃきれいな声でイライラする。


「あのー、聞こえてますかー、ねぇ~、ねぇー聞ーこーえーまーせーんーかー。無視しないでほしいな~」


綺麗な声に間抜けな口調、しかもやたらこっちに絡んでくる。うざい。


「………何か用ですか」


後ろを振り返る。そこには見ていてイライラするほどの女がいた。

サラサラとした金髪、くりくりとした碧色の瞳、均整の取れたボディーライン、

美人としか言えない顔立ち。後光が見えて腹が立ってきた。


「はじめまして、今代の魔王。私は女神。女神のフィオーネ・ヴァン・エル・アスカ・ライト。フィオーネと呼んでいただいて構いません」


あ、やっぱ女神か。妙にこう、心を乱す雰囲気があるからまさかとはおもってたけど。


「はぁ、はじめまして。……で、人類代表のフィオーネさんは俺に何か用ですか?」


「折り入って頼みがあります」


はぁ?!こいつ頭おかしいだろ?!なんで女神が仇敵の魔王に頼み事?!


「………………………要件は?」


「はい、今回の勇者の早期討伐です」


………うん、確定だわ。こいつ頭おかしい。


「いや、あんた、人類のための女神だろ?いつの間に邪神になった」


「ちっ、違うのです。今回の勇者は頭おかしいんです」


いやー、あんたも大概だよ?初めて聞いたわ。魔王に勇者討伐頼む女神。


「……………まぁ、いずれは勇者と戦う身だから別に構わんが……」


「流石、魔王です!話が分かる!あいつはやばいから!」


「………なんでそこまで勇者がお嫌いで?」


「よくぞ聞いてくれました!………実はですね、勇者を選んでから、ちょっと勇者ちゃんのの様子を確認しようと今回のように夢の中であったんです。勇者ちゃん!頑張ってね、褒美も用意しておくから!って」


「…………」


「そしたら、―おー、おー、ありがと。ご褒美って、あんただよな―、って言ってきたんです!」


「褒美は聖女ちゃんとの仲をって言ったんだけど、―えー、いやいや、聖女ちゃんは俺もんしょ?褒美じゃなくない?―、って、ほざいたのですよ?」


「………」


「―つか、世界の女は俺のもんだからさ?あんたくれなきゃやる意味ねぇじゃん?めんどくせぇし―、って、勇者になるまであんなにいい子だったのに!」


…うわー、こいつもあれだけど、勇者もあれだな。


「だかね!お願い!はやく勇者を止めて!そのために邪神ちゃんに頼んで魔王に会わせてもらってるの」


「………、断る」


「?!えっ、断るの!魔王が?!」


「煩いな、こっちにも都合がある」


「えー、お願いよー。はやく勇者を倒してー」


「………今は、魔族の統治で忙しい。王都を攻めるにしてもまだはやい」


「今倒さないと危ないの!あいつ、時間かければかけるほど勢力つくから」


「………」


「協力してくれるならあいつの弱点とスキルを教えるわ」


「………(女神としていいのか?それ?実は邪神じゃないかな?)」


「あとね、勇者ちゃんね。勇者になって新しいスキルができたの」


「………(しかも、勝手にしゃべりだすし)」


「これ、魔王ちゃんも危ないんだよ?」


「………それを聞いてから考えてもいいか?」


「うん、実はね【変換】てスキルが発現したの。これね、本来は魔法力と生命力をコントロールするスキルなの」


「………(嫌な予感がする)」


「それでね?このスキル、聖女ちゃんから教えてもらったんだけど、魔物を女性化できるんですって」


「はぁ?!なんだそれ?!」


「しかもしかも、男を女にすることも出来るって」


「………なぁ、それってまさか……」


「そう、彼女から聞いたんだけど、―あーこれ、いいわー。しかも強い奴だとめっちゃ美人に出きるっぽいわー。よし、魔王も俺のハーレムに入れよう―、って」


「よしわかった、殺そう!すぐ殺そう!」


冗談じゃない!なんで勇者の手籠めにされなきゃいけないだ!


「そう、ありがとう………本当にありがとう」


「あぁ、一刻も早く殺さねばならん。で奴の弱点ともう一つのスキルは?」


「スキルは【扇動】。心をある程度好きな方向へと操作するスキルよ。感情を強くしたり、相手を擦り変えることができるみたい」


「………いや、それ………、本当にクズにもったいないスキルだな」


「ほんとにね!昔は一生懸命に魔王を討伐しようとしてたのに………あっ、今も一応魔王討伐しようとはしているわね」


理由がひどいけどな!


「弱点はー…………まぁ、分かる通り。頭が悪い。そして綺麗な女に弱い。胸がデカいとなおよし」


「うん、なんとなくそんな気がしていた」


「それじゃ、あとは任せてもいいかしら?」


「………別に人類がどうなろうと構わんが同胞の危機だ。しかも俺の貞操もやばい。早急に手を打つことを約束しよう」


「ありがとう!魔王ちゃん!」(ぶわっと、抱き着く)


「お、おい、やめろ!離れろ!」


「そう、そうなのね、こんな良い魔族もいるのね」


「わかった!わかったから離れろ!」


「?!あら、ごめんなさい。私ったらつい」


「………まぁ、いい。俺はおまえが嫌いだが今回は協力しよう」


「魔王ちゃん………なんていい子なの!昔の勇者ちゃんを思い出すわ……。それじゃお願いね。魔王ちゃん」


そして、私は夢から覚めようとしていた。











………うむ、あまりいい気分ではないな。


さて、どうするか。女のあては………そうだな、クズは変態だ。

魔族でもおそらく問題ないだろう。


今日の会議で奴に頼もう。


あとはヘンディア王都の動きも知っておいたほうがいいな。


よし、そうと決まればさっそく動くか!







結果から言おう。クズ、いや、あれは世界の敵だ。


まず、王都での奴の動きだ。


王女との結婚。これ、かなりきな臭い話だ。

なんでも、一夜を共にした責任を取って、結婚したらしい。

ただ、一夜を共にした日、街中で酔っ払ているのを見た人がいるらしい。

しかも、結婚したにしては城下町でよく見かけるみたいだ。


次に王都での活動した記録。


なんでも魔王討伐に向けて増税をしたそうな。

それが変な話だが、この王都からいつ魔王討伐にくるという噂がない。


後は王都の民の動き。


魔王討伐の意識が高く増税には積極的だったらしい。

だが、あまりにも魔王への怒りが強すぎる。

曰く、「増税したのは魔王が悪い」「魔王のせいで生活苦しい」「おっぱいは大きいのがいい」などなどだ。


そして聖女なのだが勇者の側近だそうだ。

ただ、一向に魔王討伐へと尽力しない勇者に辟易しているらしい。

なんでも勇者に無理矢理関係を迫られて断ったそうな。

それで魔王討伐に支障が出ているという噂があるくらいだ。


ついでに他の国の反応。


早く魔王討伐しろ。以上





なんだこれ?本当に勇者なのか?







今は私はヘンディア王都の宿屋にいる。



「よし、最終確認だ」



女の魔族に言う。

こいつが今回の作戦の要である。


「はぁ、なんで勇者と関係なんか持たなくちゃいけないのよ……」


黒髪のロングできりっとした紅い瞳は相手に気の強い印象を与える。

白くて邪神に愛されているようなその体形は人類も魅了しそうな勢いだ。

そして、胸。デカーい!説明不要!一歩、一歩と歩くたびに視線が向かうのは仕方ないことだ。うむ、仕方のないことなのだ。


「すまん、ニア。後でお礼は弾むから許してくれ」


彼女の名前はニーアライナ・フリート。魔王幹部である。

クズにはもったいない女だが、ニアが誘惑すれば瞬殺だろう。


「………わすれないでよね」


「いや、ほんとうにすまん。本当にニアはいい女だと思う」


「?!………本当に嫌なんだからね!あんた以外に………その……」


「まぁ、大丈夫だろう。クズに睡眠薬を盛る。」


「そして、クズに………はぁ、裸を見せて幻惑魔法と誘惑魔法をかける」


「あぁ、寝静まった頃に捕える。このアンチスキルのついた手錠を使って」


「………なんで、さっさとぶっ殺さないのよ」


「情報提供者の依頼だ。報酬は弾むそうだ」


「あんたほんとに魔族?そんなん破っちゃえばいいじゃん?」


「ただでさ、急な計画だ。今、人類に敵対視されるのはまだ早い。だが、あの勇者はまずい」


「まぁねー。勇者捕えて、依頼主と相談して、見届けるだけで報酬もらえるなら、そのほうが得よね」


「あぁ、報酬についてはできうる限りのものを用意してくれるそうだ」


「まぁ、金銭、あとは労働力でも要求すれば完璧だわ」


「だな。では明日決行だ」







ニアは勇者と接触した。


「いやー、俺としたことがこんないい女見逃すなんて。すまない、待たせたね」


「はい、旅の途中だったのですが魔王討伐の噂を聞いて、ぜひ、勇者様にお会いしたいと思っていました」


「いいね、いいね!きみ!見どころあるよ!しかも、運がいい、俺に出会えるなんて」


うっわーっきょしいわね、こいつ。胸しか見てないし。あいつの事でも考えてないと手が滑りそうだわ。


「ええ、本当に嬉しいですわ、しかも、噂以上に…………ッぽ……」


「うーん、素晴らしい。君は今までの中で一番の女性だ。私にはまぁ、婚約者がいる。が君を側室に迎えてもいい」


「本当ですか?その………婚約者は王女様でしたよね?わたくし、王女様ほどの魅力は……」


「何を言う!君のような素晴らしい女性を向けるのは勇者の役目、いや、義務だ」


「なんてもったいないお言葉でしょう。勇者様は寛大なお方ですのね」


……いや、本当にこいつ無理。いや、こいつに関すること全て抹消したいくらいだわ。


「どうだい、今すぐにでも王城に招待しようか?」


「えぇーと、その。はしたないのですが、もっと勇者様とお話がしたいですわ。王城ではきっと緊張してしまいますので」


「こんなに奥ゆかしいとはますます気にりました。あなたは聖女様と同じくらいに素晴らしい」


………ガル、はやくしてね、本当に殺しそうだから。







俺は王宮のとある一室へと向かう。

依頼者からのお願いのためだ。


ドアをノックする。


「あら、勇者様。今日は夕餉までも戻らないのではなかったですか」


凜っと、そして、透き通った声がした。


「失礼します。聖女様、とある依頼できた冒険者です」


がたっと、何かが動く音がした。

パタパタと音がしていたが、次第に静かになる。


「……どうぞ」


とても小さく、震えていた。


「失礼します」


ゆっくりとドアを開ける。

そこにいたのは、

そう彼女は聖女だ。名は確かアスカ・リオーネ。

サラサラとした金髪、くりくりとした碧色の瞳、均整の取れたボディーライン、

そう、女神と瓜二つの人類だ。


しかし、昼間だというのに下着や肌が目に入ってしまう薄く透けた服、まるで娼婦が閨に誘う時に着る服を着ていた。


「…………」「……………」


お互い沈黙が流れる。ひっじょーに気まずい。


「こんな姿でごめんなさい。修道服があるのですが………勇者様が来られる時にはこちらで迎えないといけなくて」


「?!いや!すまない!こちらもそんな恰好してるとは知らなくて、……その心の準備が……」


いや、いや、いや、聖女は女神側の者だぞ。俺!正気か!


とりあえず、失礼だが、顔を彼女のほうに向けないようにして、


「すまない、そのままだと私が落ち着かないので着替えてもらえないだろうか」


「しかし、勇者様は急に帰ってきてしまうこともあるので」


「今日は大丈夫だ、絶対に帰ってくることはない」


「なぜそんなことが?」


「私の………仲間に足止めしてもらっている。」


「その……女性………ですよね?大丈夫なのですか?」


「あぁ、心配ない。彼女は幻覚魔法が使える。それに強い」


「わかりました。では」


「?!そっ、外で待っているから終わったら声をかけてくれ」


「ふふっ、ええ、分かりました」


そう言って部屋を出る。

またパタパタ移動する音が聞こえる。

そして、


「どうぞ」


また、ゆっくりとドアを開けて入る。


そこには、


聖女。

その言葉が彼女という存在の本質を理解する。

清廉潔白、清らかさの極致に至るその姿は先ほどの娼婦ようないやらしい服より彼女のすべてを余すところなく表現しているようだった。

ごくりと唾を飲んだ。

まさか人類にここまで心を動かされることがあるとは思わなかった。


「……………はっ!すまない、本当にすまない!いつの間にか見とれてしまっていた」


「懐かしいですね、その反応は」


「あか、そうだろうな。さっきの服より露出は少ない。だが、聖女様とその服、それだけで国を落とすのに充分なものだ」


「あら、そこまで言われたのは初めてです。冒険者様は女性の扱いがお得意で?」


「いや、からかわないでくれ。もしそうだとしたら、着替えの時、出るはずないだろう」


「ごめんなさい、つい………私が女であることを久しぶりに自覚したもので」


「それは………そうか………」


「それで?ご用件というのは?」


「あぁ、陛下を助ける。そして、聖女、並びに王女も同様に助ける。そして、勇者を捕縛する」


「………」


「これの依頼者は………陛下だ」


「?!そう、では、あなたが女神の使いなのですね」


「それは……どういううことだ?」


「はい、私は女神様から、『近々、魔に堕落し勇者を僭称せし者を打つ、女神の使い、送り届けん』と信託があり」


………あの、ポンコツ恰好つけすぎじゃないか?


「………その方ができれば現れないことをお祈りしていました」


「………」


「勇者様も信託を受け、魔王討伐へと向けて修練を重ねていたのです」

「しかし、ある日、勇者様に雷が落ちました」

「その日からなのです。急に魔物を………その………人型にしたり、女性の胸ばかり見つめるようになったり、偉大な力を誇示するようになりました」

「そして、王国を乗っ取り、金銀を集め、盛大にふるまい、王女と婚約したのにも関わらず、城下へと遊びに出かける日々です。」


改めて聞くとまじひっでぇおい。あいつ、絶対、魔王だろ。

……いや、俺が魔王だけどさ!


「私は女神様と同じく、彼を救えないかとずっと悩んでおりました」

「神託が来た時、私は情けなくなりました。」

「私の信仰心は身近な方、そう、勇者様をお救い出来ないのかと」

「えぇ、そうなのです。私は聖女というには、些か烏滸がましい身なのです」


………いえねぇー、実は女神が匙投げて魔王に泣きついたって言えねぇー。

しかも、自分の身がかわいくなって、邪神にまで手を借りたとか。

大丈夫だ、女神様より清らかだよ。

なんかもう、魔王じゃなくてもいい気がしてきた。


しかし、この子、ある意味、勇者と同じくらいやべぇな。

こう、あいつが堕落なら、こっちは浄化に振り切ってやがる。

………足して二で割ればいい感じなのに。


「ですから、わたくしの事はアスカとでもお呼びください」


「えー、あー、うん。わかりました。アスカさん」


「ところで………こんな話をしてから、こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが………その………お名前、お聞きしていませんでしたね。教えていただけませんか?」


「ロイルです」


と、ガルウィンは言った。


「ロイル様ですね」


「あぁ」


「それではこれからどうなさるのですか」


「それは―」



ここで俺は計画の内容をある程度話した。



「………わかりました。一度陛下をお助けし、そのあと、私は勇者様が帰ってきてもいいようこちらで待機するのですね。」


「はい、そして俺は陛下を連れて王女の元へ向かいます」


「なるほど………ところで、ひとつ御聞きしてもよろしいでしょうか?」


「………答えられる範囲なら」


「なぜ、陛下は私と一番にされたのでしょう?わたくしはもう聖女として相応しくないのに」


「聞いていません。………ですが、おれ………私の推測でよろしければ」


「ふふ、大丈夫です。それに取り繕わなくてよろしいですよ。大変、言葉をお選びになっておられるみたいですので」


「では失礼します………ゴホン、陛下はアスカさんが一番真っ先に救われて欲しかったじゃないですかね?」


「…………わたくしが………」


「あぁ、その……さっきの娼婦みたいな恰好をみて、そして、今着ている修道服を見て思った」


「………」


「きっと、陛下に何度か陛下にあったんだだろうな。………もし、アスカさんと同じ立場なら絶対この場所に入れないと思う」

「堕落するか、逃げるか、神の元へ向かうか………耐えて、あいつの浄化を願うなんて無理だ」

「アスカさんが彼を救いたいといったが………俺は、アスカさんが一番救われて欲しいと思った」


「………」


「アスカさんは自分には聖女の失格と言った。…………でも、今まで見てきた人の中で一番清らかで強いと思う。その心の強さは俺よりも遥かな高みにある」

「だから」



「アスカ・リオーネは素晴らしき誇りを持った聖女であったと、そして、彼女ほどどこまでも高潔で純粋、潔白な人はいなかったとガルウィン・ロウ・セドリックが一生語り継ぐことを邪神様、そして女神様に誓う」



「………ロウ………」


あ、やべ!やっちまった。つい、聖女相手に本気の宣誓しちゃった。どうしよう!


「あ、いや、今のはその……」


「そうだったのですね。ロイド様は……いえ、ガルウィン様は魔王だったのですね」


「………」


「魔王とは………本当に恐ろしい人」


「………」


「優しく語り掛け、相手の心を見抜き、優しく語り掛け、当人さえも気付かぬような傷を抉る。そして、勇者の名も……聖女誇りさえも塵と変わらぬことを。万物は等しく幻想にすぎないことを知覚させる」

「知りませんでした」

アスカ・リオーネは救われる人の気持ちを初めて理解した。



「浄化とは、世界とは………こんなにも美しいのだったのですね」



その顔は雨にが降ったのだろう。

そこには聖女の化粧が流れ落ち弱く儚い少女の慟哭を、

世界でただ一人。魔王だけしか知らない。

アスカ・リオーネの本当の姿は彼しか知らないだろう。







「ごめんさいない、みっともないところをお見せしました」


「いや、こちらこそ悪かった。恰好つけすぎだった」


「ふふっ、ガルウィン様は聖女を堕落させた稀代の魔王とでも呼ばれますね」


「冷静に考えると恥ずかしいので勘弁してくれ」


「嫌ですわ。私はもう一生忘れられないです」


「はぁ、まぁ、この作戦が終わるまでの付き合いだ。わたしはこの作戦の間はロイドだ」


「そうでしたね。ロイド様」


「あぁ、少し長話をしすぎた。いくぞ、アスカ」


「えぇ、ガルウィン様」


そこには悪戯が成功した子供のような顔の一人少女がいた。








ヘンディア王城の牢屋の中


「ありがとうございます。ロイル様」


「いや、いい。これも依頼だからな」


「あぁ、すまないな。ロイル殿」


そして、目の前にいるのがハイネリア・ウィル・ヘンディア。この国の王様だ。

うむ、白の髪に赤のマント長く伸ばした髭。THE 王様という感じだ。

そして、俺が秘密裏に接触して例の依頼主でもある。


「いいや、おれは、冒険者だからな。報酬があればなんでもするさ」


「ふふっ、依頼であればこんな危険な依頼で儲けるのですか?」


「いや、普段は受けない。だが、俺は勇者が気に入らない。だから受けた」


「はっはっはっ、聖女様の前で大胆な発言だな。さすがはライネル殿と言いたいところかな」


「まったくですね。でも、彼も魔王討伐に真剣に取り組んでいたのですが」


「まぁ、アスカ……さんが気に病む必要はないだろ。いまのあいつはただの……クズだ」


「………ロイル様が勇者ならこんことには……」


「生憎だが興味ない。地位も名誉もいらない。俺が欲しいのは報酬だけだ」


「ふふ、本当に高くつきそうです」


「あぁ、本当にな」


「それじゃあ陛下。次は王女の所まで送るんでよかったな」


「頼む」


「ロイル様、陛下と………王女様をお願いします」


「まぁ、依頼だからな」









王女様の寝室の前



俺って魔王だよな?魔王で間違いないよな?

そんな疑問を抱きつつここまで国王を連れ来た。


「……ひっく………ぐす………お父様…………」


中で王女様が泣いているみたいだった。

慌てた国王はドアを強くたたいた。


「シルヴィエ、シルヴィエ!泣いているのか!」


「そっ、その声はお父様!どうしてここに!」


「今、私は隣にいる冒険者の方に依頼して牢を出た」


「牢屋!お父様は牢屋にいたのですか!」


「そうだ、奴に牢へと閉じ込められていたところ、冒険者のロイル殿に協力してもらった」


「そう、お父様、その………ロイル様とお話しさせてもらえませんか」


「今、そちらには一人か?」


「はい、わたくし、ひとりです」


「そうか……しかし……」


とこちらを見る。いや、人類に興味なんてない。


「大丈夫ですよ、手は出さないと神に誓いましょう」


「そう……か……よし、ロイル殿、むすめの話し相手になってもらいたい」


「別料金でつけておく」


「よろしく頼む、私は隣の部屋で待機させていただく」









「失礼する」


そして、寝室の中に入る。


そこにいたのは、まるで人形のような白い肌。金色に煌めく長い髪はさらさらとしていて光っているようにも見える。そして、アメジストが霞んで見えるほどの綺麗な色をした紫の瞳がこちらを見つめている。

シルヴィエ・ヘンディア王女。ヘンディア王国の国宝とまで言われる少女だった。

いや、聖女も王女もやばいな。人類も悪くない。



しかし、よほどつらかったのだろう。まだ、赤みがかった顔に少し涙が滲んでいた。

なので、


「失礼」


といって、ハンカチを懐からだしあまり顔を見ないようそっと、そしてゆっくりと近づき手渡した。

―聖女の件といい、今といい本当に魔王っぽくねぇな―


「?!……すいません、ありがとうございます……」


どんな顔しているのか気付いた彼女は慌てて顔をおさえハンカチで顔を拭う。

落ち着ついて彼女が話しだすのを待った。

そして、こちらに顔向ける。


「失礼しました、ロイル様。私はシルヴィエ・ヘンディア。この国の王女、そして………勇者と結婚した()()()()()()()者です」


おい、あいつ救いようがないな?!


「………彼は噂以上の人物なのだな」


「えぇ、結婚する前日に彼と会いました。その時はまるで王子様と出会えたようなとても嬉しかったのを覚えています」

「そして、私の生涯で一番忘れられない日になりました。―えっ、何この子?胸ちっさ。はぁ、萎えるわー。ごめん、出かけてくるわ―。えぇ、そう。時々、あの日を思い出してしまうのです。」


………あいつ、俺よりも魔王なんじゃないかな?俺もうね、ちょっと自信なくなってきた


「………まぁ、その、なんだ。あれは実は魔族なんじゃないかな。うん。いやごめん、たぶん魔族よりひどいと思う」


「ふふっ、ロイル様は優しい人ですね。わたしのためにそこめで言って下さるとわ」


「優しくはない。俺はそう思ったから言っただけだ」


「えぇ、わかっております。女としての魅力がないことも」


「………そこまで悲観するほどでもないぞ?」


「慰めは結構です。かえってつらいだけです」


「一応言っておくぞ。俺は嘘は言わない。俺が見てきた人、そうだな。あの聖女と比較しても見劣りのないほどの淑女だ。心も体も」


「?!」


そう言うと、彼女は口をパクパクとさせ、顔を真っ赤にした。

そいてさっき渡したハンカチで顔を隠した。


「………殿方ががそのようなことを言ってはダメです」

とても小さい声でつぶやく。


「?……続けるぞ?、確かに胸でだけでいうなら他をあたればいい。だが、顔立ち、髪、そして身体、全て王族に相応しい一級品だ。しかもあんな事件があった後も恨み言一つない。これで女失格だから他を探すとした時、俺だったらこの世を去ることくらいしか思いつかないぞ?」


「?!……これ以上は………勘弁………願います………」


「まぁ、ただの冒険者の言葉だ。あいつは規格外の人類、不幸な事故だ。」


「流石は冒険者ですね。お金のためなら口もよく回るみたいです」


「ふぅ……逆だ。ここで嘘をつく意味がない」


「………」


「しかもまた陛下と会う。その時にシルヴィエ様も話をする。万が一にでも口裏が合わなければ不敬罪。つまり、嘘の利点が皆無なわけだ」


「………私は不幸を撒く女です。彼の凶行は私からはじまり今や国は崩壊寸前」


「………」


「なるほど、不幸で王女として、一番愚かな存在と世界に響きわたるのです」


イライラしてきた。なんでこんな聖女といい、王女といい、人類の宝みたいな女があいつのせいで不幸になるんだ。


「なるほど、君はたしかに今の君なら王女失格だな」


「?!……あなたたも………そう思っているのですね」


「あぁ、失格だな。くだらない奴に誑かされて世界を知った気でいる」


「………」


「クズに世界を教えられた。ふむ、なるほどなるほど、確かにその点では不幸だ」

「しかし、シルヴィエは運がいい。全てを持っていると俺は思った」

「美貌も高潔さも地位も名誉も汚されず、婚姻も白紙のまま。」

「そして人を思いやる心とそれを支える賢さもある」

「なにより、あいつ気に入られなかった。ほら、最上の結果だ。素晴らしいな。」



「神に誓ってもいい。シルヴィエ・ヘンディアは王女として完璧である。と」



その時に本当に驚いたのかこちらに顔を勢いよく向け、目を見開きこの世で見たことこともないものを見つけたような顔をしていた。


「………あなたが勇者なら………いえ……お願いです、ロイル様。私のことをどうかシルヴィと呼んでいただけませんか?」


「ふむ、後で報酬はなしとは言わないか?」


「はい」


「シルヴィ」


「!………やっぱり、私は王女として失格です」


「まぁ、あとはシルヴィの問題だ。相談くらいは聞くがな?金額次第でだが」


「それが聞ければそれ以上に心強いことありません」


「よかった。もう陛下と変わっても大丈夫そうだ」


「えぇ、ロイル様ありがとうございます。あの日が地獄なら今日は天国です。あなたは………私にとっての勇者………いえ、魔王です。私の世界は壊されてしまいました」


「はははっ、やはりシルヴィは王女だな。じゃぁ、失礼する」


そう言って部屋を出た。背中が熱い気がする。

まぁ、特に支障はないだろう。

王にも朗報ができた。

報酬は弾むだろう。



そして、睡眠薬を料理人へと提供しに行った。



そしてニアに合図を送ったのだ。









あっさりと終った。まったく無警戒だったのだろう。

流石はニア。俺の自慢の幹部だ。

作戦は完ぺきに完了。手錠もばっちり。

あいつは牢屋にぶち込んでおいた。


聖女も王女もこれからの人類の希望となるだろう。

彼女たちとは私も協力を惜しむ気はない。

素晴らしき友人が出来てうれしい限りだ。



そして今は王城の客室。

まるで王族を招待するかのような歓迎を受けた。

俺、魔王なんだけどね!

一応、私とニア、別の部屋へと案内してくれた。


そして、目の前には邪神すら怯えて逃げ出しそうな形相を作り、

あいつへの愚痴を大声で俺に向かって吐き出すように吐き出した。

因みに王城の部屋はかなり防音性が高いらしく、あまり音は漏れないから安心して良しといわれた。

ドアの前で耳を澄まさなければ、と付け加えられた。


「いや!あれ!なによ!」


「おうおう、落ち着け落ち着け」


「い!や!よ!ほんとに、一刻もはやくこの世から抹消してやりたい!」


「うん、まぁ、あれは世界の敵だわ」


「ええ!あいつを殺すためなら人類と手を組むのすら躊躇わないわ!」


「だよなー。俺、逆に自分が勇者じゃね?って思ったから、シルヴィと話してて」


「そうね、ガルが聖人と言われても違和感ないわ」


「今回の件で、色んな人見てきたけれど、俺が頑張る必要性感じなくなっちゃた」


「あぁー、そうね。あれ、女神様より嫌いなものできると思わなかった」


「………なぁ、ニア、君に話しておくよ」


「何かしら?」


「実はさ、王様よりも前に依頼を受けていたんだ」


「あー、なんか、急に勇者討伐しようとか言い出したね。めっちゃ嫌そうな顔しながら」


「あぁ、あれな。実は女神から依頼されたんだ」


「…………はっ?」


「だろ。そうだろう?なんで女神が魔王に頼むの?って、馬鹿じゃないの?ってなった」


「…………続けて」


「最初はさ、依頼受けたふりして無視すつもりだった。まぁ、調べるくらいはしとこうかなくらい」


「んで、調べたら俺も引いたわ。女神側、満場一致だった。各国に勇者殺しても大丈夫?って聞くとぜひともお願いしますって言われて」


「極めつけはこれ。王都があいつのスキルの影響が無くなった瞬間に勇者をぶっ殺せって騒ぎになる」


「やっぱ、人類も滅ぼしたほうがよくね?って思ったんだわ」


「でもさ、王様やアスカさんやシルヴィと話して、こんなに強くて綺麗な奴もいるんだなって思った」


「もし、シルヴィみたいなのが勇者として戦い、負けたのなら悔いはないなと」


「………勇者と魔王、人類と魔族、俺は今回の事であっちとも協力してもいいと思った」


「あっ、今回の勇者はカウントしないから」


「あれは、世界の敵よ、えぇ、あれは」


「完璧には無理でも、無理に張り合わずに生きていきたい。これが俺の目標」


「ガルって、ほんとに運が悪いよねー。勇者なら英雄だったろうに」



「あぁ、だからさ。まだ、全然な俺だけどさ、一緒にそんな世界目指してくれない?」



「…………それ、プロポーズ……よね?」


「えっ?」「えっ?」


「………」「………」


「確かに!………ニア好きだ。だからこれからもよろしくお願います」


「………私もガルの事好きよ……………てか、告白遅すぎじゃない!」


「えっ、うん」


「私、てっきり魔王になったって、聞いた時、告白してるかも!って待ってたのに!」


「………」


「しかも、最初の頼みごとが勇者の誘惑って、どういうつもり!」


「………ごめんなさい」


「はぁ、まぁいいわ…………?ねぇ?」


「はい!」


「さっき、アスカさんって言ってなかった?あと、シルヴィって?」


「うん?言ったよ?」


「それってさ、もしかして………」


「えぇーと………その………」


「確か聖女の名前がアスカ・リオーネ。そして、王女がシルヴィエ・ヘンディア」


「………」


「(にっこり)……遺言はあるかしら」


「彼女たちは人類です」


「人類と共存、目指すのよね?」


「素晴らしき友人だと思っています」


「二人とも魔族ですら美しいと思える人類だったよね?」


「………」


「もう一度聞くわ?遺言はある?」


「ありません」


「そう……」


そういって、ニアはゆっくりと近づく。

俺は全く動けなかった。そして思う。

―あれ、俺、魔王だよね―

そして、ニアはあの囚人用の手錠を俺の手首にかける。


そして―





朝が来た。俺はベッドにいる。隣にはニアがいる。

お互い裸になっていた。



ふぅ、なんて清々しい。朝なんだろう











ヘンディア王都、中央の大闘技場




俺は来賓席へと案内されている。

ニアも近くにいる。

そして、NA、ZE、KA、右側に聖女、左に王女がいる。

これは、檻かな。うん、そうだ。

後ろには猛じゅ………………ではなく、麗しの彼女がいるが。


「なぁ、アスカさんもシルヴィも無理に見なくていいと思うぞ?」


「平気です」「大丈夫ですわ」


うん、女ってやっぱり強いと思う。うん。

魔王………うん。


陛下が会場全体に宣言する。


「これより、勇者を僭称し、我が国の宝ともいえる王女に対し婚姻をしていたと国民へと嘯き、聖女、並びに、国王である私を軟禁した。そして、私が動けないことを利用して勝手に国の法を変え、さらには国民の血とも言える金銭で私腹を肥やす始末。国への被害は甚大であり、もはや救いがたき罪人である。よって、国賊の自称勇者、サイフォン・アグリアは即刻処刑する」



あれだけの大事件はあっけなく終わる。


彼の死体の周りには、まるで嵐が去った後のようなゴミの山と。

彼の罪を示すような空気は、きっとこれを見たものが罪を犯す愚かさを自覚させるために邪神の降臨という噂まで流れていたと語られている。





ここは王座の間である。しかし、人は全くいない。

いや広さに対して圧倒的に人が少ないというのが正しい。


王座に座っている、現国王ハイネリア・ウィル・ヘンディア。

その右隣にいる、王女シルヴィエ・ヘンディア。


それの正面階段の下りた先にいる。

俺、冒険者ロイルとなっている、現魔王、ガルウィン・ロウ・セドリック。

右隣、同じく冒険者ニアを名乗る、魔王幹部の一人、ニーアライナ・フリート。

左側には、聖女こと、アスカ・リオーネ。


この五人である。


「頭は下げなくてよい、そのための人払いだ」


「はい、冒険者として、私は依頼を全うしたです。地位も名誉もいりません」


「はっはっはっ、それはもちろんいらないだろう。人間の地位など」


「………どういう意味ですか?」


「いやいや、よい。……違うな、わかりやすくいこう。魔王ガルウィン」


この場で一人だけ目を見開いているものがいる。

まぁ、シルヴィの事だが。


「………知っていたのですか?」


「ただの勘だ。材料はないが確信だけはあった」


「えらく不用心なことで」


「わざわざ始末するなら、勇者を放置しておけばいい」

「それに依頼とはいえ、あそこまで律義に仕事をこなしていた」

「そんな相手を疑うという選択は愚策としかいえん」


「盤面をすべてひっくり返されても良かったのですか?」


「いやはや、余り虐めないでいただきたい。こっちは全面降伏以外の手段は、かの勇者の行動と等しい」


「………もう、いいか。んじゃ、報酬の件について」


「ふむ、それが困ったことになってな」


「まぁ、そうだろう。かなりの量を返してもらわなければ釣り合わない」


「言い訳は不要だな、今出せるのは資金と魔族の奴隷の開放そして、人間側の奴隷、そして、畑や牧場、経営並びに他の技術提供。これを国が安定するまでは少しずつ、安定してから優先的に提供する。そして、我が国は魔王領との友好宣言。申し訳ない、この程度が限界なのだ。許してほしい」


「(それこの国全てじゃねえか)………それで問題ない」


いや、良かった良かった。労力よりだいぶ多くのものをもらった気がするわ。

よし帰ろう、すぐ帰ろう。なんか嫌な予感がする。


「ではこれで失れ……」


「ガルウィン様よろしいですか」「提案があります、魔王様」


アスカとシルヴィが同時に発言した。

右隣から威圧感がどんどん沸いてきている。

………あ、これ。あかんやつや。


「ふむ、では聖女様からどうぞ」


「ありがとうございます、陛下。この度はわたくしは聖女をおりるつもりです」


「………あまり愉快な提案ではない。して、その理由は?」


「はい、わたくしは今後魔王ガルウィン様のもとで、人類と魔族、その共存のために尽力したいと存じます」


増えた。殺気にも似た気配がまた一つ増えた。

帰りたいです。邪神様。


「………お父様、じつは私も同じ提案をするつもりでした」


「?!シルヴィ!どういうことだ!」


助けて、全員から殺気を感じるんです。

お願いです。女神様でもいいので助けてください。


「ガルウィン様は確かにまおうのようですね。………ですが、ガルウィン様は高潔なお方です。その志や智慧を学び、王国の発展へと尽力したいと思っています」


「………彼が素晴らしい人物なのは認める。しかし、シルヴィを………それに聖女までもが魔王の元へ向かうのは流石に………」


「………」


沈黙が……重いです……



救世主が手をあげる。ニアだ。

流石、我が幹部であり側近、できる女だ

頼む、丁重に断ってくれ。


「発言してもよろしいですか」


「………ニア嬢だったかな?発言してくれ」


「はい、僭越ながら申します。片方を一日、それを交代しつつというのは、いかがでしょう?」


「なるほど、両方を連れて行かれるより遥かに良い条件ではある」


「お互いに専用の転送部屋を作る。そして、要件があれば手紙を責任者へと渡す」


「………なるほど、連絡手段も取れるか。しかし、聖女と王女を伝令にもする。本当に波乱の連続だな」


「よろしいのですか」


「言ったであろう?出せるものは出す。それにな……反対しても二人の意志は固い。なら、ある程度こちらも把握できるほうがいくらかマシだ」


「………」


「はっはっはっ、そちらもそのつもりでの提案であろう。いや待て………ふむ、こちらの呼び出しを優先しくれるなら二人がそちらにいることも吝かではないな」


「「「「?!」」」」


「毎日生活が変わるのは大変である。二人は立派な志日も仕事が終わった。


いやー、今日も大変だった。うん。ほんとに。


俺はガルウィン・セドリック………じゃなくて、ガルウィン・ロウ・セドッリクだ。


何を隠そう超、超、超、貧乏くじの新任の魔王だ。


いや、誰が好き好んで自由奔放、単純脳筋、弱肉強食の魔族達の長になりたいよ。


ついでに人類からの絶大な人気(殺意)である。ワーイウレシイナー。


先代も「胃が痛い」「人間怖い」「魔族怖い」からの、「あー、明日までだわ、私の魔王の任期。うーん、そこのおまえ!明日から魔王として頑張って!私は隠居する」って言いやがった。


ご丁寧にすべて、引き継がされて魔王になった私はうれし涙でいっぱいだ。はっはっはっ、コンチクショ―!!


………まぁ、愚痴を言っても仕方ないので仕事はする。幹部が優秀じゃなきゃ実家に帰るとこれではあるが。


寝る!とりあえず寝る!寝なきゃやってられん。


ということでお休み。スヤー………










「おはようございます、今代の魔王」


まどろみの中後ろから声がする。なんかめっちゃきれいな声でイライラする。


「あのー、聞こえてますかー、ねぇー、ねぇー聞ーこーえーまーせーんーかー。無視しないでほしいなー」


綺麗な声に間抜けな口調、しかもやたらこっちに絡んでくる。うざい。


「………何か用ですか」


後ろを振り返る。そこには見ていてイライラするほどの女がいた。

サラサラとした金髪、くりくりとした碧色の瞳、均整の取れたボディーライン、

美人としか言えない顔立ち。後光が見えて腹が立ってきた。


「はじめまして、今代の魔王。私は女神。女神のフィオーネ・ヴァン・エル・アスカ・ライト。フィオーネと呼んでいただいて構いません」


あ、やっぱ女神か。妙にこう、心を乱す雰囲気があるからまさかとはおもってたけど。


「はぁ、はじめまして。……で、人類代表のフィオーネさんは俺に何か用ですか?」


「折り入って頼みがあります。」


はぁ?!こいつ頭おかしいだろ?!なんで女神が仇敵の魔王に頼み事?!


「………………………要件は?」


「はい、今回の勇者の早期討伐です」


………うん、確定だわ。こいつ頭おかしい。


「いや、あんた、人類のための女神だろ?いつの間に邪神になった」


「ちっ、違うのです。今回の勇者は頭おかしいんです」


いやー、あんたも大概だよ?初めて聞いたわ。魔王に勇者討伐頼む女神。


「……………まぁ、いずれは勇者と戦う身だから別に構わんが……」


「流石、魔王です!話が分かる!あいつはやばいから!」


「………なんでそこまで勇者がお嫌いで?」


「よくぞ聞いてくれました!………実はですね、勇者を選んだ時に今回のように夢の中であったんです。勇者おめでとう!頑張ってね、褒美も用意しておくから!って」


「…………」


「そしたら、―おー、おーありがと。ご褒美って、あんただよな―、って言ってきたんです!」


「褒美は聖女ちゃんとの仲をって言ったんだけど、―えー、いやいや、聖女ちゃんは俺もんしょ?褒美じゃなくない?―、って、ほざいたのですよ?」


「………」


「―つか、世界の女は俺のもんだからさ?あんたくれなきゃやるいみねぇじゃん?めんどくせぇし―、って、勇者になるまであんなにいい子だったのに!」


…うわー、こいつもあれだけど、勇者もあれだな。


「だかね!お願い!はやく勇者を止めて!そのために邪神ちゃんに頼んで魔王に会わせてもらってるの」


「………、断る」


「?!えっ、断るの!魔王が?!」


「煩いな、こっちにも都合がある」


「えー、お願いよー。はやく勇者を倒してー」


「………今は、魔族の統治で忙しい。俺ぐらいしか王都を攻めれん」


「今倒さないと危ないの!あいつ、時間かければかけるほど勢力つくから」


「………」


「協力してくれるならあいつの弱点とスキルを教えるわ」


「………(女神としていいのか?それ?実は邪神じゃないかな?)」


「あとね、相次勇者になって新しいスキルができたの」


「………(しかも、勝手にしゃべりだすし)」


「これ、魔王ちゃんも危ないんだよ?」


「………それを聞いてから考えてもいいか?」


「うん、実はね【変換】てスキルが発現したの。これね、本来は魔法力と生命力をコントロールするスキルなの」


「………(嫌な予感がする)」


「それでね?このスキル、聖女ちゃんから教えてもらったんだけど、魔物を女性化できるんですって」


「はぁ?!なんだそれ?!」


「しかもしかも、男を女にすることも出来るって」


「………なぁ、それってまさか……」


「そう、彼女から聞いたんだけど―あーこれ、いいわー。しかも強い奴だとめっちゃ美人に出きるっぽいわー。よし、魔王も俺のハーレムに入れよう―、って」


「よしわかった、殺そう!すぐ殺そう!」


冗談じゃない!なんで勇者の手籠めにされなきゃいけないだ!


「そう、ありがとう………本当にありがとう」


「あぁ、一刻も早く殺さねばならん。で奴の弱点ともう一つのスキルは?」


「スキルは【扇動】。心をある程度好きな方向へと操作するスキルよ。感情を強くしたり、相手を擦り変えることができるみたい」


「………いや、それ………、本当にクズにもったいないスキルだな」


「ほんとにね!昔は一生懸命に魔王を討伐しようとしてたのに………あっ、今も一応魔王討伐しようとはしているわね」


理由がひどいけどな!


「弱点はー…………まぁ、分かる通り。頭が悪い。そして綺麗な女に弱い。胸がデカいとなおよし」


「うん、なんとなくそんな気がしていた」


「それじゃ、あとは任せてもいいかしら?」


「………別に人類がどうなろうと構わんが同胞の危機だ。しかも俺の貞操もやばい。早急に手を打つことを約束しよう」


「ありがとう!魔王ちゃん!」(ぶわっと、抱き着く)


「お、おい、やめろ!離れろ!」


「そう、そうなのね、こんな良い魔族もいるのね」


「わかった!わかったから離れろ!」


「?!あら、ごめんなさい。私ったらつい」


「………まぁ、いい。俺はおまえが嫌いだが今回は協力しよう」


「魔王ちゃん………なんていい子なの!昔の勇者ちゃんを思い出すわ……。それじゃお願いね。魔王ちゃん」


そして、私は夢から覚めようとしていた。











………うむ、あまりいい気分ではないな。


さて、どうするか。女のあては………そうだな、クズは変態だ。

魔族でもおそらく問題ないだろう。


今日の会議で奴に頼もう。


あとはヘンディア王都の動きも知っておいたほうがいいな。


よし、そうと決まればさっそく動くか!







結果から言おう。クズ、いや、あれは世界の敵だ。


まず、王都での奴の動きだ。


王女との結婚。これ、かなりきな臭い話だ。

なんでも、一夜を共にした責任を取って、結婚したらしい。

ただ、一夜を共にした日、街中で酔っ払ているのを見た人がいるらしい。

しかも、結婚したにしては城下町のほうでよく見かけるみたいだ。


次に王都での活動。


なんでも魔王討伐に向けて増税をしたそうな。

それが変な話だが、この王都からいつ魔王討伐にくるという噂がない。


後は王都の民の動き。


魔王討伐の意識が高く増税には積極的だったらしい。

だが、あまりにも魔王への怒りが強すぎる。

いわく、「増税したのは魔王が悪い」「魔王のせいで生活苦しい」「おっぱいは大きいのがいい」などなどだ。


そして聖女なのだが勇者の側近だそうだ。

ただ、一向に魔王討伐へと尽力しない勇者に辟易しているらしい。

なんでも勇者に無理矢理関係を迫られて断ったそうな。

それで魔王討伐に支障が出ているという噂があるくらいだ。


ついでに他の国の反応。


早く魔王討伐しろ。以上





なんだこれ?







今は私はヘンディア王都の宿屋にいる。



「よし、最終確認だ」



女の魔族に言う。

こいつが今回の作戦の要である。


「はぁ、なんで勇者と関係なんか持たなくちゃいけないのよ……」


黒髪のロングできりっとした紅い瞳は相手に気の強い印象を与える。

白くて邪神に愛されているようなその体形は人類も魅了しそうな勢いだ。

そして、胸。デカーい!説明不要!一歩、一歩と歩くたびに視線が向かうのは仕方ないことだ。うむ、仕方のないことなのだ。


「すまん、ニア。後でお礼は弾むから許してくれ」


彼女の名前はニーアライナ・フリート。魔王幹部である。

クズにはもったいない女だが、ニアが誘惑すれば瞬殺だろう。


「………わすれないでよね」


「いや、ほんとうにすまん。本当にニアはいい女だと思う」


「?!………本当に嫌なんだからね!あんた以外に………その……」


「まぁ、大丈夫だろう。クズに睡眠薬を盛る。」


「そして、クズに………はぁ、裸を見せて幻惑魔法と誘惑魔法をかける」


「あぁ、寝静まった頃に捕える。このアンチスキルのついた手錠を使って」


「………なんで、さっさとぶっ殺さないのよ」


「情報提供者の依頼だ。報酬は弾むそうだ」


「あんたほんとに魔族?そんなん破っちゃえばいいじゃん?」


「ただでさ、急な計画だ。今、人類に敵対視されるのはまだ早い。だが、あの勇者はまずい」


「まぁねー。勇者捕えて、依頼主開放して、見届けるだけで報酬もらえるなら、そのほうが得よね」


「あぁ、報酬についてはできうる限りのものを用意してくれるそうだ」


「まぁ、金銭、あとは労働力でも要求すれば完璧だわ」


「だな。では明日決行だ」







ニアは勇者と接触した。


「いやー、俺としたことがこんないい女見逃すなんて。すまない、待たせたね」


「はい、旅の途中だったのですが魔王討伐の噂を聞いて、ぜひ、勇者様にお会いしたいと思っていました」


「いいね、いいね!きみ!見どころあるよ!しかも、運がいい、俺に出会えるなんて」


うっわーっきょしいわね、こいつ。胸しか見てないし。あいつの事でも考えてないと手が滑りそうだわ。


「ええ、本当に嬉しいですわ、しかも、噂以上に…………ッぽ……」


「うーん、素晴らしい。君は今までの中で一番の女性だ。私にはまぁ、婚約者がいる。が君を側室に迎えてもいい」


「本当ですか?その………婚約者は王女様でしたよね?わたくし、王女様ほどの魅力は……」


「何を言う!君のような素晴らしい女性を向けるのは勇者の役目、いや、義務だ」


「なんてもったいないお言葉でしょう。勇者様は寛大なお方ですのね」


……いや、本当にこいつ無理。いや、こいつに関すること全て抹消したいくらいだわ。


「どうだい、今すぐにでも王城に招待しようか?」


「えぇーと、その。はしたないのですが、もっと勇者様とお話がしたいですわ。王城ではきっと緊張してしまいますので」


「こんなに奥ゆかしいとはますます気にりました。あなたは聖女様と同じくらいに素晴らしい」


………ガル、はやくしてね、本当に殺しそうだから。







俺は王宮のとある一室へと向かう。

依頼者からのお願いのためだ。


ドアをノックする。


「あら、勇者様。今日は夕餉までも戻らないのではなかったですか」


凜っと、そして、透き通った声がした。


「失礼します。聖女様、とある依頼できた冒険者です」


がたっと、何かが動く音がした。

パタパタと音がしていたが、次第に静かになる。


「……どうぞ」


とても小さく、震えていた。


「失礼します」


ゆっくりとドアを開ける。

そこにいたのは、

そう彼女は聖女だ。名は確かアスカ・リオーネ。

サラサラとした金髪、くりくりとした碧色の瞳、均整の取れたボディーライン、

そう、女神と瓜二つの人類だ。


しかし、昼間だというのに下着や肌が目に入ってしまう薄く透けた服、まるで娼婦が閨に誘う時に着る服を着ていた。


「…………」「……………」


お互い沈黙が流れる。ひっじょーに気まずい。


「こんな姿でごめんなさい。修道服があるのですが………勇者様が来られる時にはこちらで迎えないといけなくて」


「?!いや!すまない!こちらもそんな恰好してるとは知らなくて、……その心の準備が……」


いや、いや、いや、聖女は女神側の者だぞ。俺!正気か!


とりあえず、失礼だが、顔を彼女のほうに向けないようにして、


「すまない、そのままだと私が落ち着かないので着替えてもらえないだろうか」


「しかし、勇者様は急に帰ってきてしまうこともあるので」


「今日は大丈夫だ、絶対に帰ってくることはない」


「なぜそんなことが?」


「私の………仲間に足止めしてもらっている。」


「その……女性………ですよね?大丈夫なのですか?」


「あぁ、心配ない。彼女は幻覚魔法が使える。それに強い」


「わかりました。では」


「?!そっ、外で待っているから終わったら声をかけてくれ」


「ふふっ、ええ、分かりました」


そう言って部屋を出る。

またパタパタ移動する音が聞こえる。

そして、


「どうぞ」


また、ゆっくりとドアを開けて入る。


そこには、


聖女。

その言葉が彼女という存在の本質を理解する。

清廉潔白、清らかさの極致に至るその姿は先ほどの娼婦ようないやらしい服より彼女のすべてを余すところなく表現しているようだった。

ごくりと唾を飲んだ。

まさか人類にここまで心を動かされることがあるとは思わなかった。


「……………はっ!すまない、本当にすまない!いつの間にか見とれてしまっていた」


「懐かしいですね、その反応は」


「あか、そうだろうな。さっきの服より露出は少ない。だが、聖女様とその服、それだけで国を落とすのに充分なものだ」


「あら、そこまで言われたのは初めてです。冒険者様は女性の扱いがお得意で?」


「いや、からかわないでくれ。もしそうだとしたら、着替えの時、出るはずないだろう」


「ごめんなさい、つい………私が女であることを久しぶりに自覚したもので」


「それは………そうか………」


「それで?ご用件というのは?」


「あぁ、陛下を助ける。そして、聖女、並びに王女も同様に助ける。そして、勇者を捕縛する」


「………」


「これの依頼者は………陛下だ」


「?!そう、では、あなたが女神の使いなのですね」


「それは……どういううことだ?」


「はい、私は女神様から、『近々、魔に堕落し勇者を僭称せし者を打つ、女神の使い、送り届けん』と信託があり」


………あの、ポンコツ恰好つけすぎじゃないか?


「………その方ができれば現れないことをお祈りしていました」


「………」


「勇者様も信託を受け、魔王討伐へと向けて修練を重ねていたのです」

「しかし、ある日、勇者様に雷が落ちました」

「その日からなのです。急に魔物を………その………人型にしたり、女性の胸ばかり見つめるようになったり、偉大な力を誇示するようになりました」

「そして、王国を乗っ取り、金銀を集め、盛大にふるまい、王女と婚約したのにも関わらず、城下へと遊びに出かける日々です。」


改めて聞くとまじひっでぇおい。あいつ、絶対、魔王だろ。

……いや、俺が魔王だけどさ!


「私は女神様と同じく、彼を救えないかとずっと悩んでおりました」

「神託が来た時、私は情けなくなりました。」

「私の信仰心は身近な方、そう、勇者様をお救い出来ないのかと」

「えぇ、そうなのです。私は聖女というには、些か烏滸がましい身なのです」


………いえねぇー、実は女神が匙投げて魔王に泣きついたって言えねぇー。

しかも、自分の身がかわいくなって、邪神にまで手を借りたとか。

大丈夫だ、女神様より清らかだよ。

なんかもう、魔王じゃなくてもいい気がしてきた。


しかし、この子、ある意味、勇者と同じくらいやべぇな。

こう、あいつが堕落なら、こっちは浄化に振り切ってやがる。

………足して二で割ればいい感じなのに。


「ですから、わたくしの事はアスカとでもお呼びください」


「えー、あー、うん。わかりました。アスカさん」


「ところで………こんな話をしてから、こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが………その………お名前、お聞きしていませんでしたね。教えていただけませんか?」


「ロイルです」


と、ガルウィンは言った。


「ロイル様ですね」


「あぁ」


「それではこれからどうなさるのですか」


「それは―」



ここで俺は計画の内容をある程度話した。



「………わかりました。一度陛下をお助けし、そのあと、私は勇者様が帰ってきてもいいようこちらで待機するのですね。」


「はい、そして俺は陛下を連れて王女の元へ向かいます」


「なるほど………ところで、ひとつ御聞きしてもよろしいでしょうか?」


「………答えられる範囲なら」


「なぜ、陛下は私と一番にされたのでしょう?わたくしはもう聖女として相応しくないのに」


「聞いていません。………ですが、おれ………私の推測でよろしければ」


「ふふ、大丈夫です。それに取り繕わなくてよろしいですよ。大変、言葉をお選びになっておられるみたいですので」


「では失礼します………ゴホン、陛下はアスカさんが一番真っ先に救われて欲しかったじゃないですかね?」


「…………わたくしが………」


「あぁ、その……さっきの娼婦みたいな恰好をみて、そして、今着ている修道服を見て思った」


「………」


「きっと、陛下に何度か陛下にあったんだだろうな。………もし、アスカさんと同じ立場なら絶対この場所に入れないと思う」

「堕落するか、逃げるか、神の元へ向かうか………耐えて、あいつの浄化を願うなんて無理だ」

「アスカさんが彼を救いたいといったが………俺は、アスカさんが一番救われて欲しいと思った」


「………」


「アスカさんは自分には聖女の失格と言った。…………でも、今まで見てきた人の中で一番清らかで強いと思う。その心の強さは俺よりも遥かな高みにある」

「だから」



「アスカ・リオーネは素晴らしき誇りを持った聖女であったと、そして、彼女ほどどこまでも高潔で純粋、潔白な人はいなかったとガルウィン・ロウ・セドリックが一生語り継ぐことを邪神様、そして女神様に誓う」



「………ロウ………」


あ、やべ!やっちまった。つい、聖女相手に本気の宣誓しちゃった。どうしよう!


「あ、いや、今のはその……」


「そうだったのですね。ロイド様は……いえ、ガルウィン様は魔王だったのですね」


「………」


「魔王とは………本当に恐ろしい人」


「………」


「優しく語り掛け、相手の心を見抜き、優しく語り掛け、当人さえも気付かぬような傷を抉る。そして、勇者の名も……聖女誇りさえも塵と変わらぬことを。万物は等しく幻想にすぎないことを知覚させる」

「知りませんでした」

アスカ・リオーネは救われる人の気持ちを初めて理解した。



「浄化とは、世界とは………こんなにも美しいのだったのですね」



その顔は雨にが降ったのだろう。

そこには聖女の化粧が流れ落ち弱く儚い少女の慟哭を、

世界でただ一人。魔王だけしか知らない。

アスカ・リオーネの本当の姿は彼しか知らないだろう。







「ごめんさいない、みっともないところをお見せしました」


「いや、こちらこそ悪かった。恰好つけすぎだった」


「ふふっ、ガルウィン様は聖女を堕落させた稀代の魔王とでも呼ばれますね」


「冷静に考えると恥ずかしいので勘弁してくれ」


「嫌ですわ。私はもう一生忘れられないです」


「はぁ、まぁ、この作戦が終わるまでの付き合いだ。わたしはこの作戦の間はロイドだ」


「そうでしたね。ロイド様」


「あぁ、少し長話をしすぎた。いくぞ、アスカ」


「えぇ、ガルウィン様」


そこには悪戯が成功した子供のような顔の一人少女がいた。








ヘンディア王城の牢屋の中


「ありがとうございます。ロイル様」


「いや、いい。これも依頼だからな」


「あぁ、すまないな。ロイル殿」


そして、目の前にいるのがハイネリア・ウィル・ヘンディア。この国の王様だ。

うむ、白の髪に赤のマント長く伸ばした髭。THE 王様という感じだ。

そして、俺が秘密裏に接触して例の依頼主でもある。


「いいや、おれは、冒険者だからな。報酬があればなんでもするさ」


「ふふっ、依頼であればこんな危険な依頼で儲けるのですか?」


「いや、普段は受けない。だが、俺は勇者が気に入らない。だから受けた」


「はっはっはっ、聖女様の前で大胆な発言だな。さすがはライネル殿と言いたいところかな」


「まったくですね。でも、彼も魔王討伐に真剣に取り組んでいたのですが」


「まぁ、アスカ……さんが気に病む必要はないだろ。いまのあいつはただの……クズだ」


「………ロイル様が勇者ならこんことには……」


「生憎だが興味ない。地位も名誉もいらない。俺が欲しいのは報酬だけだ」


「ふふ、本当に高くつきそうです」


「あぁ、本当にな」


「それじゃあ陛下。次は王女の所まで送るんでよかったな」


「頼む」


「ロイル様、陛下と………王女様をお願いします」


「まぁ、依頼だからな」









王女様の寝室の前



俺って魔王だよな?魔王で間違いないよな?

そんな疑問を抱きつつここまで国王を連れ来た。


「……ひっく………ぐす………お父様…………」


中で王女様が泣いているみたいだった。

慌てた国王はドアを強くたたいた。


「シルヴィエ、シルヴィエ!泣いているのか!」


「そっ、その声はお父様!どうしてここに!」


「今、私は隣にいる冒険者の方に依頼して牢を出た」


「牢屋!お父様は牢屋にいたのですか!」


「そうだ、奴に牢へと閉じ込められていたところ、冒険者のロイル殿に協力してもらった」


「そう、お父様、その………ロイル様とお話しさせてもらえませんか」


「今、そちらには一人か?」


「はい、わたくし、ひとりです」


「そうか……しかし……」


とこちらを見る。いや、人類に興味なんてない。


「大丈夫ですよ、手は出さないと神に誓いましょう」


「そう……か……よし、ロイル殿、むすめの話し相手になってもらいたい」


「別料金でつけておく」


「よろしく頼む、私は隣の部屋で待機させていただく」









「失礼する」


そして、寝室の中に入る。


そこにいたのは、まるで人形のような白い肌。金色に煌めく長い髪はさらさらとしていて光っているようにも見える。そして、アメジストが霞んで見えるほどの綺麗な色をした紫の瞳がこちらを見つめている。

シルヴィエ・ヘンディア王女。ヘンディア王国の国宝とまで言われる少女だった。

いや、聖女も王女もやばいな。人類も悪くない。



しかし、よほどつらかったのだろう。まだ、赤みがかった顔に少し涙が滲んでいた。

なので、


「失礼」


といって、ハンカチを懐からだしあまり顔を見ないようそっと、そしてゆっくりと近づき手渡した。

―聖女の件といい、今といい本当に魔王っぽくねぇな―


「?!……すいません、ありがとうございます……」


どんな顔しているのか気付いた彼女は慌てて顔をおさえハンカチで顔を拭う。

落ち着ついて彼女が話しだすのを待った。

そして、こちらに顔向ける。


「失礼しました、ロイル様。私はシルヴィエ・ヘンディア。この国の王女、そして………勇者と結婚した()()()()()()()者です」


おい、あいつ救いようがないな?!


「………彼は噂以上の人物なのだな」


「えぇ、結婚する前日に彼と会いました。その時はまるで王子様と出会えたようなとても嬉しかったのを覚えています」

「そして、私の生涯で一番忘れられない日になりました。―えっ、何この子?胸ちっさ。はぁ、萎えるわー。ごめん、出かけてくるわ―。えぇ、そう。時々、あの日を思い出してしまうのです。」


………あいつ、俺よりも魔王なんじゃないかな?俺もうね、ちょっと自信なくなってきた


「………まぁ、その、なんだ。あれは実は魔族なんじゃないかな。うん。いやごめん、たぶん魔族よりひどいと思う」


「ふふっ、ロイル様は優しい人ですね。わたしのためにそこめで言って下さるとわ」


「優しくはない。俺はそう思ったから言っただけだ」


「えぇ、わかっております。女としての魅力がないことも」


「………そこまで悲観するほどでもないぞ?」


「慰めは結構です。かえってつらいだけです」


「一応言っておくぞ。俺は嘘は言わない。俺が見てきた人、そうだな。あの聖女と比較しても見劣りのないほどの淑女だ。心も体も」


「?!」


そう言うと、彼女は口をパクパクとさせ、顔を真っ赤にした。

そいてさっき渡したハンカチで顔を隠した。


「………殿方ががそのようなことを言ってはダメです」

とても小さい声でつぶやく。


「?……続けるぞ?、確かに胸でだけでいうなら他をあたればいい。だが、顔立ち、髪、そして身体、全て王族に相応しい一級品だ。しかもあんな事件があった後も恨み言一つない。これで女失格だから他を探すとした時、俺だったらこの世を去ることくらいしか思いつかないぞ?」


「?!……これ以上は………勘弁………願います………」


「まぁ、ただの冒険者の言葉だ。あいつは規格外の人類、不幸な事故だ。」


「流石は冒険者ですね。お金のためなら口もよく回るみたいです」


「ふぅ……逆だ。ここで嘘をつく意味がない」


「………」


「しかもまた陛下と会う。その時にシルヴィエ様も話をする。万が一にでも口裏が合わなければ不敬罪。つまり、嘘の利点が皆無なわけだ」


「………私は不幸を撒く女です。彼の凶行は私からはじまり今や国は崩壊寸前」


「………」


「なるほど、不幸で王女として、一番愚かな存在と世界に響きわたるのです」


イライラしてきた。なんでこんな聖女といい、王女といい、人類の宝みたいな女があいつのせいで不幸になるんだ。


「なるほど、君はたしかに今の君なら王女失格だな」


「?!……あなたたも………そう思っているのですね」


「あぁ、失格だな。くだらない奴に誑かされて世界を知った気でいる」


「………」


「クズに世界を教えられた。ふむ、なるほどなるほど、確かにその点では不幸だ」

「しかし、シルヴィエは運がいい。全てを持っていると俺は思った」

「美貌も高潔さも地位も名誉も汚されず、婚姻も白紙のまま。」

「そして人を思いやる心とそれを支える賢さもある」

「なにより、あいつ気に入られなかった。ほら、最上の結果だ。素晴らしいな。」



「神に誓ってもいい。シルヴィエ・ヘンディアは王女として完璧である。と」



その時に本当に驚いたのかこちらに顔を勢いよく向け、目を見開きこの世で見たことこともないものを見つけたような顔をしていた。


「………あなたが勇者なら………いえ……お願いです、ロイル様。私のことをどうかシルヴィと呼んでいただけませんか?」


「ふむ、後で報酬はなしとは言わないか?」


「はい」


「シルヴィ」


「!………やっぱり、私は王女として失格です」


「まぁ、あとはシルヴィの問題だ。相談くらいは聞くがな?金額次第でだが」


「それが聞ければそれ以上に心強いことありません」


「よかった。もう陛下と変わっても大丈夫そうだ」


「えぇ、ロイル様ありがとうございます。あの日が地獄なら今日は天国です。あなたは………私にとっての勇者………いえ、魔王です。私の世界は壊されてしまいました」


「はははっ、やはりシルヴィは王女だな。じゃぁ、失礼する」


そう言って部屋を出た。背中が熱い気がする。

まぁ、特に支障はないだろう。

王にも朗報ができた。

報酬は弾むだろう。



そして、睡眠薬を料理人へと提供しに行った。



そしてニアに合図を送ったのだ。









あっさりと終った。まったく無警戒だったのだろう。

流石はニア。俺の自慢の幹部だ。

作戦は完ぺきに完了。手錠もばっちり。

あいつは牢屋にぶち込んでおいた。


聖女も王女もこれからの人類の希望となるだろう。

彼女たちとは私も協力を惜しむ気はない。

素晴らしき友人が出来てうれしい限りだ。



そして今は王城の客室。

まるで王族を招待するかのような歓迎を受けた。

俺、魔王なんだけどね!

一応、私とニア、別の部屋へと案内してくれた。


そして、目の前には邪神すら怯えて逃げ出しそうな形相を作り、

あいつへの愚痴を大声で俺に向かって吐き出すように吐き出した。

因みに王城の部屋はかなり防音性が高いらしく、あまり音は漏れないから安心して良しといわれた。

ドアの前で耳を澄まさなければ、と付け加えられた。


「いや!あれ!なによ!」


「おうおう、落ち着け落ち着け」


「い!や!よ!ほんとに、一刻もはやくこの世から抹消してやりたい!」


「うん、まぁ、あれは世界の敵だわ」


「ええ!あいつを殺すためなら人類と手を組むのすら躊躇わないわ!」


「だよなー。俺、逆に自分が勇者じゃね?って思ったから、シルヴィと話してて」


「そうね、ガルが聖人と言われても違和感ないわ」


「今回の件で、色んな人見てきたけれど、俺が頑張る必要性感じなくなっちゃた」


「あぁー、そうね。あれ、女神様より嫌いなものできると思わなかった」


「………なぁ、ニア、君に話しておくよ」


「何かしら?」


「実はさ、王様よりも前に依頼を受けていたんだ」


「あー、なんか、急に勇者討伐しようとか言い出したね。めっちゃ嫌そうな顔しながら」


「あぁ、あれな。実は女神から依頼されたんだ」


「…………はっ?」


「だろ。そうだろう?なんで女神が魔王に頼むの?って、馬鹿じゃないの?ってなった」


「…………続けて」


「最初はさ、依頼受けたふりして無視すつもりだった。まぁ、調べるくらいはしとこうかなくらい」


「んで、調べたら俺も引いたわ。女神側、満場一致だった。各国に勇者殺しても大丈夫?って聞くとぜひともお願いしますって言われて」


「極めつけはこれ。王都があいつのスキルの影響が無くなった瞬間に勇者をぶっ殺せって騒ぎになる」


「やっぱ、人類も滅ぼしたほうがよくね?って思ったんだわ」


「でもさ、王様やアスカさんやシルヴィと話して、こんなに強くて綺麗な奴もいるんだなって思った」


「もし、シルヴィみたいなのが勇者として戦い、負けたのなら悔いはないなと」


「………勇者と魔王、人類と魔族、俺は今回の事であっちとも協力してもいいと思った」


「あっ、今回の勇者はカウントしないから」


「あれは、世界の敵よ、えぇ、あれは」


「完璧には無理でも、無理に張り合わずに生きていきたい。これが俺の目標」


「ガルって、ほんとに運が悪いよねー。勇者なら英雄だったろうに」



「あぁ、だからさ。まだ、全然な俺だけどさ、一緒にそんな世界目指してくれない?」



「…………それ、プロポーズ……よね?」


「えっ?」「えっ?」


「………」「………」


「確かに!………ニア好きだ。だからこれからもよろしくお願います」


「………私もガルの事好きよ……………てか、告白遅すぎじゃない!」


「えっ、うん」


「私、てっきり魔王になったって、聞いた時、告白してるかも!って待ってたのに!」


「………」


「しかも、最初の頼みごとが勇者の誘惑って、どういうつもり!」


「………ごめんなさい」


「はぁ、まぁいいわ…………?ねぇ?」


「はい!」


「さっき、アスカさんって言ってなかった?あと、シルヴィって?」


「うん?言ったよ?」


「それってさ、もしかして………」


「えぇーと………その………」


「確か聖女の名前がアスカ・リオーネ。そして、王女がシルヴィエ・ヘンディア」


「………」


「(にっこり)……遺言はあるかしら」


「彼女たちは人類です」


「人類と共存、目指すのよね?」


「素晴らしき友人だと思っています」


「二人とも魔族ですら美しいと思える人類だったよね?」


「………」


「もう一度聞くわ?遺言はある?」


「ありません」


「そう……」


そういって、ニアはゆっくりと近づく。

俺は全く動けなかった。そして思う。

―あれ、俺、魔王だよね―

そして、ニアはあの囚人用の手錠を俺の手首にかける。


そして―





朝が来た。俺はベッドにいる。隣にはニアがいる。

お互い裸になっていた。



ふぅ、なんて清々しい。朝なんだろう











ヘンディア王都、中央の大闘技場




俺は来賓席へと案内されている。

ニアも近くにいる。

そして、NA、ZE、KA、右側に聖女、左に王女がいる。

これは、檻かな。うん、そうだ。

後ろには猛じゅ………………ではなく、麗しの彼女がいるが。


「なぁ、アスカさんもシルヴィも無理に見なくていいと思うぞ?」


「平気です」「大丈夫ですわ」


うん、女ってやっぱり強いと思う。うん。

魔王………うん。


陛下が会場全体に宣言する。


「これより、勇者を僭称し、我が国の宝ともいえる王女に対し婚姻をしていたと国民へと嘯き、聖女、並びに、国王である私を軟禁した。そして、私が動けないことを利用して勝手に国の法を変え、さらには国民の血とも言える金銭で私腹を肥やす始末。国への被害は甚大であり、もはや救いがたき罪人である。よって、国賊の自称勇者、サイフォン・アグリアは即刻処刑する」



あれだけの大事件はあっけなく終わる。


彼の死体の周りには、まるで嵐が去った後のようなゴミの山と。

彼の罪を示すような空気は、きっとこれを見たものが罪を犯す愚かさを自覚させるために邪神の降臨という噂まで流れていたと語られている。





ここは王座の間である。しかし、人は全くいない。

いや広さに対して圧倒的に人が少ないというのが正しい。


王座に座っている、現国王ハイネリア・ウィル・ヘンディア。

その右隣にいる、王女シルヴィエ・ヘンディア。


それの正面階段の下りた先にいる。

俺、冒険者ロイルとなっている、現魔王、ガルウィン・ロウ・セドリック。

右隣、同じく冒険者ニアを名乗る、魔王幹部の一人、ニーアライナ・フリート。

左側には、聖女こと、アスカ・リオーネ。


この五人である。


「頭は下げなくてよい、そのための人払いだ」


「はい、冒険者として、私は依頼を全うしたです。地位も名誉もいりません」


「はっはっはっ、それはもちろんいらないだろう。人間の地位など」


「………どういう意味ですか?」


「いやいや、よい。……違うな、わかりやすくいこう。魔王ガルウィン」


この場で一人だけ目を見開いているものがいる。

まぁ、シルヴィの事だが。


「………知っていたのですか?」


「ただの勘だ。材料はないが確信だけはあった」


「えらく不用心なことで」


「わざわざ始末するなら、勇者を放置しておけばいい」

「それに依頼とはいえ、あそこまで律義に仕事をこなしていた」

「そんな相手を疑うという選択は愚策としかいえん」


「盤面をすべてひっくり返されても良かったのですか?」


「いやはや、余り虐めないでいただきたい。こっちは全面降伏以外の手段は、かの勇者の行動と等しい」


「………もう、いいか。んじゃ、報酬の件について」


「ふむ、それが困ったことになってな」


「まぁ、そうだろう。かなりの量を返してもらわなければ釣り合わない」


「言い訳は不要だな、今出せるのは資金と魔族の奴隷の開放そして、人間側の奴隷、そして、畑や牧場、経営並びに他の技術提供。これを国が安定するまでは少しずつ、安定してから優先的に提供する。そして、我が国は魔王領との友好宣言。申し訳ない、この程度が限界なのだ。許してほしい」


「(それこの国全てじゃねえか)………それで問題ない」


いや、良かった良かった。労力よりだいぶ多くのものをもらった気がするわ。

よし帰ろう、すぐ帰ろう。なんか嫌な予感がする。


「ではこれで失れ……」


「ガルウィン様よろしいですか」「提案があります、魔王様」


アスカとシルヴィが同時に発言した。

右隣から威圧感がどんどん沸いてきている。

………あ、これ。あかんやつや。


「ふむ、では聖女様からどうぞ」


「ありがとうございます、陛下。この度はわたくしは聖女をおりるつもりです」


「………あまり愉快な提案ではない。して、その理由は?」


「はい、わたくしは今後魔王ガルウィン様のもとで、人類と魔族、その共存のために尽力したいと存じます」


増えた。殺気にも似た気配がまた一つ増えた。

帰りたいです。邪神様。


「………お父様、じつは私も同じ提案をするつもりでした」


「?!シルヴィ!どういうことだ!」


助けて、全員から殺気を感じるんです。

お願いです。女神様でもいいので助けてください。


「ガルウィン様は確かに魔王のようですね。………ですが、ガルウィン様は高潔なお方です。その志や智慧を学び、王国の発展へと尽力したいと思っています」


「………彼が素晴らしい人物なのは認める。しかし、シルヴィを………それに聖女までもが魔王の元へ向かうのは流石に………」


「………」


沈黙が……重いです……



救世主が手をあげる。ニアだ。

流石、我が幹部であり側近、できる女だ

頼む、丁重に断ってくれ。


「発言してもよろしいですか」


「………ニア嬢だったかな?発言してくれ」


「はい、僭越ながら申します。片方を一日、それを交代しつつというのは、いかがでしょう?」


「なるほど、両方を連れて行かれるより遥かに良い条件ではある」


「お互いに専用の転送部屋を作る。そして、要件があれば手紙を責任者へと渡す」


「………なるほど、連絡手段も取れるか。しかし、聖女と王女を伝令にもする。本当に波乱の連続だな」


「よろしいのですか」


「言ったであろう?出せるものは出す。それにな……反対しても二人の意志は固い。なら、ある程度こちらも把握できるほうがいくらかマシだ」


「………」


「はっはっはっ、そちらもそのつもりでの提案であろう。いや待て………ふむ、こちらの呼び出しを優先しくれるなら二人がそちらにいることも吝かではないな」


「「「「?!」」」」


「毎日生活が変わるのは大変である。二人は立派な志を持って向かうのだ。寛大な魔王、ガルウィンはそんな彼女たちを無下にはすまい」


意訳「二人お願い。他の目的もあるのは知ってる。そんな二人送ったこの国、大切。OK?」


おい!強かすぎるだろう!この王様。

しかも、断れないことわかってて要求してきやがる!

全部全部、あのポンコツ女神に関わってからだ!あんにゃろー!


「………これ以上の事は要求酷であろう、それでいい」


「「「ガルウィンガル、これからもよろしくお願いしますね」」」



こうして、今回の騒動は決着した。


ただ、この日から魔王城では賑やかな日々がになることはここにいる皆が理解したであろう。









とある世界の果て



「おい、ポンコツ女神?俺に言うことはないか」


目の前にいは威厳など皆無な女神が視線を泳がせている。


「あの日、俺に依頼した日からどうなったか知ってるよな?」


「~~~~~♪(口笛)」


「よし、おまえも勇者と同じところに送ってやろう、そうしよう」


「ご、ごめんね?魔王ちゃん、でも許してくれるよね?勇者ちゃん放置できなかったでしょう?」


「………」


「そ、そういえば、邪神ちゃんも褒めてたよ~。自慢の魔王だって~」


「………」


「でも、良かったわ。これで邪神ちゃんとも仲良く遊べるし、今度は事故もないだろうし」


「………おい、ポンコツ女神。今、聞き捨てならな言葉が聞こえたんだが?」


「ふぇ、私気に障ること言ったかしら~?」


「“事故”って、なんだ?」


「~~~~~♪(口笛)?!いっ痛いわ!叩かないで、頭叩かないで~!」



曰く、邪神様とポンコツ女神は遊んでいた。

曰く、ちょっとテンションが上がって魔力が暴走して止めようとした邪神ちゃんの魔力も混ざる。

曰く、その流れ弾が不幸にも勇者に流れ込む。

曰く、勇者の事が心配になり会ってみた。



つ、ま、り、



「まじで全部お前のせいじゃねぇか!このポンコツ駄女神!!!!」


「ごっ、ごめんね!魔王ちゃん~!」
















いや、本当に長くなりました。


もっと短い予定だったんです。本当に。


書いてる内に楽しくなっちゃってどんどん増えて、いつの間にかこんなに長くなりました。


まだまだ初心者ですが、また気が向いたら新しいのを書くと思うので、ご縁がありましたらよろしくお願いします。

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