鮫でもなく虎でもなく獅子でもなく人でもない
初めての作品です。
レベル1の冒険者を見守る気持ちでお願いします。
1 人は覚め、虎子を得る
空にカモメが漂う。
海のさざなみが耳を漂う。
目の前には一面に広がる黒い空。
意識すら朦朧として宙を漂っていた。
しかし、その状態は長く続かなかった。
空が黒から白へオセロ盤のごとく変わっていったのだ。
初めて見る光に驚いた。
そしてそれに合わせて自分の意識もハッキリしてきた。
自分は砂浜に寝そべっていた。
右腕が痛い。
やっとその事に気づいて右腕に目をやるとそこには縞模様が特徴的なサメの姿があった。
自分と同じくらいの大きさのサメだ。
なぜだか小さく感じた。
そいつが自分の右腕に噛み付いていたのだ。
引き剥がして重い体を起こした。
何かと戦っていた気がする。
おそらくこいつだろう。
少し違う気がしたが、今はどうでもいい。
そんなことより
「ここはどこだ」
2 オセロ盤はここにはない
自分の名前はシシ。
簡単に言うと新人漁師だ。
また獅子にならないように自分語りをする。
この獅子になるというのは自分の精神病のことだ。
何故か夜になると寝床の上で吠えながら跳ねてしまう。
その時の記憶はない。
しかし自分で望んでやっている気もする。
最初は毎晩発病していたが最近は頻度も減ってきた。
おやっさんも心配してくれている。
あ、おやっさんというのは自分を拾ってくれた漁師組合の組長だ。
シシという名前もおやっさんが付けてくれた。
精神病のことと虎鮫の子を捕まえていたので、獅子だそうだ。
虎鮫というのは最近ここら辺に現れ、漁の邪魔をするようになったサメだ
黒の縞模様が特徴的だ。
大きなのが2匹、小さいのが1匹。
おそらく親子だろう。
小さいといっても自分の身長くらいある。
なんせ自分が捕まえたのがそいつだからだ。
自分はなぜか鮫の子と一緒に砂浜に打ち上げられていた。
その前の一切の記憶がない。
自分が誰だったか、どこに住んでいたか、全てがわからない。
オセロだけはわかった。
むしろこの漁村の中で自分以外知っている人はいなかった。
とにかく、自分はそこで漁に出ようとしていたおやっさんに見つけてもらった………
「おーい、シシ!漁に行くぞ!」
「はい!今行きます!」
3 女の目には注意
精神病治療もかねて、最近日記をつけている。
日記というか報告書というか。
今日はナミエさんについて。
おやっさんには1人娘がいる。
名前はナミエさん。
いつも夕飯を作って漁の帰りを待っていてくれている。
しかもとても美味しい。
そのほかの家事もこなして優しい、いい奥さんになるだろう。
いいことづくめだが、少し強気なところがある。
ご飯の時は妙に距離が近い。
最近夜は寒くないですか、と尋ねてくる(訪ねてくる)
そして常に目線を感じる。
もし男として見てくれているなら嬉しいかぎりだが、おやっさんにも悪いし、こんな流れ者が手を出していいものなのか。
なにより自分は精神病持ちだ。
この日記のおかげかかなり減ったが、まだときどき獅子になってしまう。
せめてこの病気が治ってから……
「シシさん、お風呂が沸きました」
「あ、わかりました」
「よければ、お背中を」
「嬉しいですが、またの機会に」
「はい♡」
4 メスの目には注意
今日はおやっさんに褒められた。
自分は素潜りが得意なようで、今では村の中でも1目おかれるようになった。
最初はやはり流れ者ということでよく思っていなかった人達も、認めてくれつつある。
みんな根はいい人達ばかりなのだ。
素潜りといえば、最近潜っていても視線を感じるようになった。
さすがにナミエさんではないだろう。
話は変わるが、自分が打ち上げられた日、虎鮫の子供と一緒に何故か一番大きい鮫も姿を見せなくなったらしい。
あれから2年半、残った1匹の鮫が暴れ続けている。
4ヶ月前も自分の弟分のミヤマが左腕を持っていかれそうになった。
自分も子鮫に噛まれていたから、痛がっているミヤマをとても心配した。
今では元気で、噛まれた跡どうしをくっつけてきて、本当の兄弟になれましたねって言う始末。
愛いやつめ。
話をもどすが、その残った1匹が自分に視線を向けているのではないだろうか。
確信はない。
考えすぎかもしれない。
まあ、注意しておけば大丈夫だろう。
「夜遅くまで日記ですか?」
「ええ、まあ。ナミエさんはどうしたんですか?」
「いえ、今日はとても冷えるので同じ寝床で」
「またの機会に……しかし、そのまま突っ返すのも申し訳ないので隣なら……」
「はい♡」
5 日は上り、影は縮む
昨日、漁師組合 現組長のクチキさんの息子さんが虎鮫に足を噛まれた。
船にのしかかってきたのだ。
今までは1匹になったしそのうちいなくなるだろうと野放しにしておいたが、7年経っても居なくならない上に、どんどん凶暴になっていく。
さすがに漁師組合のみんなで相談して、来週鮫を捕らえることにした。
来週末には自分も結婚式がある。
最近はほとんど獅子にならなくなり、頃合だと思い、申し込んだ。
この鮫の問題も結婚式前に片付けておきたい。
明日から忙しくなるので今日はここまで…
「シシさん……わたしと…」
「1週間早い!」
6 虎は眠る
結果から先に言うと捕らえることに成功した。
ミヤマは腕を捻り、他の何人かの漁師も怪我をした。
自分もまた右腕を噛まれた。
まあ、そんなことはどうでもいい。
捕まえ、吊り下げられた鮫を見て、全てを思い出したのだ。
自分はもともとあの虎鮫の一家の父親だったのだ。
うろ覚えだが、確かに覚えている。
自分はもともとここよりもっと北の海で生まれたのだ。
若くして両親とはぐれて、そこの漁師に育てられた。
その漁師がオセロが好きで自分の目の前でよくやっていた。
その時からだったか、自分が人間になりたいと思ったのは。
その後サメとしての一家を形成したが、その時には港から厄介者扱いされ、なくなく南下していったのだ。
そしてこの港で何故か人になってしまった。
急に人になった自分の親をみて息子は混乱したのだろう。
襲いかかってきたのだ。
そして取っ組みあっているうちに打ち上げられてしまったというわけだ。
精神病も自分の虎鮫の部分が戻ろうと足掻いた現れだった。
自分は獅子ではなく、まさしく虎だったのだ。
記憶の整理してまた、目の前の鮫を見た。
鮫の目は血走り、こちらを睨んでいた。
そんな鮫に自分はまわりを気にせず言葉を投げかけた。
「自分は鮫ではない。ただお前の息子を狩った忌々しい人間だ。」
その言葉を聞いた鮫はなにかを諦めたような顔をして、息を引き取った。
そのあとすぐからついさきほどまで宴をしていた。
捕らえた鮫が料理として出てきたが、自分は食べなかった。
おそらくこの日記はこれが最後となる。
夜は相手ができるだろうし、元々精神病を治すためにやっていたことだからやめるにちょうどいい。
名残惜しくもあるがこれで終わりとする。
「ついに明日ですね」
「そうだな……」
初めて小説を書きましたが、自分の中の衝動を溜めずにだすのは気持ちよかったです。
文を書くのが苦手で避けていましたが、書いてみてよかったです。