行ってきます
とある、夜。
未だ慣れない両親と晩御飯を食べていた時の事だった。ふと、父と目が合うと「香、そろそろ学校に行くかい?学校には話はしてあるから今週からでも入寮可能だそうだ」ニコニコ笑っている。
「あー、学校かぁ」
曖昧な反応だったのだろうか?俺の返事を聞いた瞬間、母の表情が曇り「あら、やっぱり不安かしら?高校入ったら野球楽しみとは言っていたけど。やっぱり事故の後だから身体が心配なの?」本気で心配し始める。
いや、心配してくれてるのはありがたいのだが正直、寮に入るのはなんかーーー嫌だ。色んな意味で疲れそうだし。
「俺、って、さ。野球、上手だった?」
何気ない質問を投げ掛ければ、両親は凄い勢いで首を縦に振る。しかし、そんなギラギラした眼差しいらない。香クン、なんで野球やってたの?と、項垂れる彼に父は「なに、言ってんだ。いつも俺の夢を叶えるって言ってたじゃないか。甲子園に行くってな」懐かしそうに微笑む。
「え?俺、そんな事言ってたの?」
多少記憶が曖昧と話しているので両親はああ。と、相槌を打ち母が「そうそう、お父さんは昔、高校で野球やってたの」丁寧に教えてくれた。
「それでね、野球やってたのはいいけど甲子園行く手前で肩を壊して出場出来なかったのよ。ちなみにお父さん、もう二度と野球ができないって言われたのよ」
「え?それって」
「そう、ケガのせいでもう二度と野球ができない。って宣告されたのよ」
「そーなんだ」
と、父を見ると「まぁ、俺のせいでお前は野球をもっと好きになったんだからな。なんか、悪かったな」残念そうに声を漏らす。だから「いや、それって俺が父さんの代わりに甲子園行く。って言ってたって事に謝ってるの?」首を傾げる。
「ああ、父さんの夢を代わりに叶えるってな」
そう言う父に思わず笑みが漏れた。やはり香クンは優しい子なんだな、と改めて感心させられる。
「へぇ、俺って、すげー優しいヤツじゃん」
つい口に出た言葉に母は「なーに、他人事みたいに言ってるのよ」クツクツと笑う。
しかし、香クンは父の為に野球をしているんだよね。ある意味すごいわ、年下のくせになんか負けた気がする。彼は本当に親孝行者だ。
「俺、すげーなー」
「なに言ってるのよ、変な子ね」
「いや、ほんとにすげーわ」
ケラケラ笑う俺に母は「なんか、香がそんなに笑うの久しぶりに見たわ」嬉しそうに微笑む。
「そうなん?」
「そうよ、あなた、中学時代は友達もつくらないで野球の毎日だったから、話す時間もなくてね」
「え?俺、友達居ないの?」
「それは分からないけど、家に一度も友達を連れてきた事はないわ」
と、母はまた笑う。
つーか、ボッチじゃねーか。俺。
「でも、野球してるときの香、お母さん惚れそうだったわ」
「なに、息子に発情してんだよ」
「だってー!!スポーツサングラスがかっこよくて!!」
「それ、サングラスのおかげだろ」
「でも、香のユニフォーム姿もキュんキュんしたわー」
「それは制服効果で目がやられたんだって」
とんでもねー母だ、息子に向ける目じゃねーぞ。
「まあまあ、母さん、落ち着いて」
俺が恐怖に怯えていたら父さんが助け船をだしてくれた。
「それより、香。学校はどうする?」
その言葉で現実に引き戻される。
「うーん、とりあえずは・・・行くよ」
「本当か?!」
「受かってるし、学校にも待ってもらってるんだろ?」
本当は嫌だけど、もし元の世界に戻れた時にこの子の人生を変えてたら嫌だしね。それに私もそこまで鬼じゃない、この両親は良い人そうだし。
「そうか、そうか」
父は嬉しそうに微笑む。すると母さんは「もしあんたが、甲子園出ることになったら応援行くわ」どこから出してきたのか分からないメガホンを振りかざしていた。
ーーー・・・なんだかんだで、この両親には勝てないような気がする。けど、自分の体力や野球経験に不安がある。
だから、ウィキで検索。
初心者の野球を読んでみた、のは良いけど、読んでるだけじゃ分からない事ばかり。とりあえずは頭に入れたけど、やってみないと分からないんだよね。
めちゃくちゃ不安だ。と、そんな気持ちが芽生えつつも着実とその日が迫っていた。
「行ってきます」
両親に見送られて、俺は東京にある慶応高校へ向かう。
さーて、オバチャンだった私がどこまでやれるのかなー。てか、女子高生と話、合うのかな?って、俺、男子だから女子との接点ないとか?
幸先不安だ。