バレないようにしましょう。
友達がいないのか?なんて、そんな訳ないじゃないか。と、笑って誤魔化せば「目が泳いでるぞ」ピシャリと言い放つ。そして「つーか、何してんだ?」ギョッとしている彼に「変装?」そう告げれば「ここで着替えんなよ、つーか女装って」げんなりとされる。
あれ?そんなに女装、似合ってなかったのかな?
「え?だって監督にバレたくないし?女装だとバレないと思って」
格好を再度眺めながら告げれば「だからって女装はねーだろよ?つか、外で着替えるとかあり得ないんだけど?」呆れていた。溜め息を吐かれる位だからやっぱり似合ってないのかなあ?と、落胆していたらちょうど良いタイミングでバスが到着。落ち込む気持ちを押さえながら一番後ろに乗り込めば、先輩も隣へと腰掛ける。しかし、気になるのは自分の格好で「折角、制服着たのになあ」ブツブツと文句を呟いていたら「誰から借りたんだよ?女子の制服だぞ?」チラリと此方に視線が。
「マネに借りた」
「よく貸してくれたな」
「でしょ?即、オッケーくれたよ」
借りたのは桃川チャン。頼み込めば即座に承諾してくれ、仕舞いにはカツラまで貸してくれる始末。演劇部に友達がいるからとの理由だったが、正直有難い。カツラでも被ってなければ誰にバレるか分かったもんじゃないからな。
「どう?女っぽく見える?」
「オマエにそうゆう趣味があったとはな」
「だから!変装だってば!」
「あーはいはい」
「でも、これだったら誰にもバレないと思いません?」
「ったく、最初から監督に頼み込んで見学届け出してもらえれば良かったんじゃないのか?わざわざ女装しなくて済んだだろうに」
「それは無理だったんですよ。何度頼んでもダメで。だからこうするしかなかったんです」
ピースサインを向ければ「ああ、そう」素っ気ない態度にまた落胆。やっぱり似合ってない?と、詰め寄れば「うるせーよ、降ろすぞ」何故かキレられる。意味が分からない。
「けど、スカートってスースーするなぁ」
久しぶりのスカートに多少の気まずさを感じる。なんだか昔に戻ったみたいで己の年齢を忘れそうになってしまう。しかし、JKの格好しててもモノホンのJKには勝てないんだよな。あのピチピチ感がどうしても出しきれない。なんて自己嫌悪していたら「男なのにスカートとかきめぇな」五十嵐の野郎、鼻で笑いやがった。
「失礼だよね、五十嵐先輩」
「あん?失礼なのはオマエだよ。男の夢を崩すな、脚を閉じろ」
言われて、脚をおっぴろげていた事に苦笑。おっといけない、いつもの癖で全開だったぜ。男らしく、と言い聞かせてたもんだからついつい。
「うへ、パンティ見た?」
「見てねーよ、見る気もねーよ。しかもパンティとか言い方が古いんだよ」
「ええ?古いの?死語じゃないよね?」
「死語じゃねーけど、JKがパンティとか言わないと思うぞ」
「そうなの?そうか、じゃあ、おパンツ?」
「お、をつけるな。お、を!」
「ちょっと上品に言ったつもりなんだけど?」
「そんな上品いらねーよ」
ぐったりとする彼に「ごみんなさい」と舌を出せば「死語だな」一括された。それからも私達はくだらない会話をし続け、仕舞いには目的地に到着する頃に二人して意気消沈。なぜなら、どーでもいい会話ばかりでツッコミに疲れたからだ。
「五十嵐先輩、試合前から疲れたんですけど」
「それはコッチのセリフだよ。オマエ、ぶっ飛ばすぞ?」
「そんなぁ、こんなか弱いレディをぶっ飛ばすなんて。ヒドイ人」
「きめぇ、激しくきめぇ!!」
「ちょ!そこまで言われると傷付くんですけど?!」
と、彼に掴み掛かろうとした瞬間「五十嵐、お疲れ。もしかして彼女?」背後に聞き覚えのある声が。私は慌てて下を向き顔を隠す。
「日和、今日は頑張れよ」
「ふふふ、ありがとう。それより彼女連れて来るとかズルいなぁ」
「え?あ、コイツはそんなんじゃなくて」
途端、口ごもる五十嵐先輩のシャツをクイっと引っ張る。私は背後が見れないので視線だけを五十嵐先輩に向ければ「なに?」冷たい視線を頂く事となる。なぜだ?いや、今はそんな事より「はやく、いこ」少し高めの声で彼を促す。すると五十嵐先輩は「日和、集合しとかなくていいのか?」日和先輩を遠ざけようと話題をすり替える。
「そうだね、そろそろ行かなきゃ」
「応援してるからな」
「うん、ありがとうね」
優しい日和先輩の声にホッとしたのも束の間、それよりも気になるな・・・彼女。なーんて言うもんだなら背中に冷たーい汗が流れ始める。本気でやめて欲しい。今バレれば全てが水の泡。
「だから、日和。彼女じゃないって」
「えー?そうなの?てか、なんで顔見せてくんないの?」
「それはコイツ、恥ずかしがりやで」
頑張れ五十嵐、その調子で日和先輩をどっかにやってくれ。心の中で声援を送りながら彼が居なくなることを切実に願う。しかし、なかなか身を引いてくれないので「トイレ」ボソッと呟けば「日和わりぃ、コイツをトイレに連れてかないといけないからまたな」強制的に私の手を引っ張る五十嵐先輩。よし、これで逃げられる!そう思った瞬間には二人してその場から早足で立ち去る。
変なとこで日和先輩は勘が良いのでこれ以上は私の心臓が持たない。ごめんね、日和先輩。




