昨日敵は今日の友
ーーーで?なにやってんの?
未だ腕を組んでいらっしゃる雨野先輩は固まったままの私をひっぺがし、荒々しい口調で「てか、怪我人は安静じゃなかったっけ?なにウロウロしてんの?」声を上げる。
「え、えっーとですねコレには深い理由がありまして」
「深い理由?つーかよ、これ以上悪化したらどうすんだ?」
「えーと、それは、そうなんですが」
雨野先輩があまりにもオコだったのでつい、モゴモゴと口ごもってしまう。と、それを見かねた五十嵐先輩が「これは、その俺が悪くて月宮は悪くないんだ。だから説教なら俺が聞く」助け船を出してくれた。が、しかし。
「あ?なに?玲太が連れ出したのか?」
「んー、まぁ。そうだな。俺が連れだした」
「はあ?怪我人と分かっててか?」
「ああ」
事態は思わぬ方向へ。これじゃあ、五十嵐先輩が悪者になっちゃう。私は意を決して「あの!抜け出したのは俺の意思です。ちょっと堤先輩とゴタゴタがあったので五十嵐先輩に相談してたんですよ。ね?五十嵐先輩?」話を合わせろ。とゆう視線を五十嵐先輩に向ける。
「え?でも、月宮」
「だから、五十嵐先輩は黙っててください」
「だからって」
と、視線を向けたはいいがーーー五十嵐先輩は困ったような顔をする。ダメだ、この人融通がきない。
「それより、もう遅いから玲太は部屋戻れ」
「え?でもまだ話が・・・」
「いいから、戻ってろ」
「っ、分かったよ」
チラリ、此方に振り向いた五十嵐先輩は「ごめんな?また、明日話そう」私の頭にポンっと、手を乗せる。その顔は申し訳なさそうで逆に此方が謝りたくなってしまう。そして、五十嵐先輩が居なくなった途端「月宮、オマエな・・・はぁ、怪我人のくせに」への字に眉を曲げるもんだから「本当にすいません」深々と頭を下げるしかできない。
「とゆうか、なんで堤先輩?なんかあったのか?」
「え?あ、そうですね。喧嘩しました」
「はああ?喧嘩?」
「ええ、まあ」
あえて五十嵐先輩の件は伏せたがやはり、不信な顔をしている。そりゃあそうだ。堤先輩と喧嘩するなんて思ってもみなかっただろう。だから、間抜けな顔で「理由は?」なんて聞かれても「不一致です」としか言えない。
あんなことーーーあまり言いたくないんだよね。
「不一致ってな、仮にも同じ選抜メンバーだぞ?気まずくなるとか考えなかったのか?」
「それは、そうなんですが」
「なら、なんで喧嘩なんてした?雰囲気が悪くなれば他の部員だって心配するんだぞ?」
「それはーーーそうですが、つい?」
「つい?ってなあ、オマエなに考えてんの?」
それはごもっともですが、あの時は無我夢中だったし。けど、私は間違ってないと思いたい。あのまま放置してたらもっと悪化してたと思うし。
「雨野先輩、ほんとすいません。とりあえず、なにもなかったように振る舞いますから」
「そうは言ってもなぁ」
「この件は俺がどうにかしますから、見守っててもらっていいですか?」
「はあ?まあ、なんかあれば手は貸す」
「え?マジで?」
「一人じゃどうしようもない時は言えよ」
なんだかんだ言って雨野先輩は優しいんだよね。だから、つい甘えてしまいそうになる。けど、これは自分の問題だ。
ーーーなんとかしなきゃ。
と、意気込んだ次の日。あろうことか朝早くから堤先輩と出会ってしまうのだが、シカトされた。それに堤先輩の側にいる数人の目が痛い。多分、堤信者だろう。ボソボソと聞こえてくる声に笑いが漏れそうになる。
「アイツ、邪魔だよな」
「うぜー。ケガももっと重症だったら良かったのにな」
とか、ほんと小学生並みの嫌がらせ。しかも、それを平然と傍観している堤先輩もーーークズだ。相当なクズだ。今時そんなことしても流行らないよ?とは言えず、彼らを通り過ぎてバス停に向かう。もちろん、五十嵐先輩を待つ為だ。それから暫くして「待ったか?」約束通り来てくれた彼、約束を守るとか可愛いじゃないか。
「ちゃんと来てくれたんですね」
「来なかったら呪われそうだったなしな」
なんて悪態をつくけどそれも可愛いと思えてしまう。
「バスはあと二十分くらいで着きますよ?」
「そっか。それより昨日大丈夫だったか?」
五十嵐の言う昨日とは雨野先輩の事だろうか?だから大丈夫だったよと告げれば安堵の表情をみせる。
「そっか、けど、なんかごめんな?」
「五十嵐先輩、昨日から謝りすぎですよ」
「それはそうだろ?オマエには迷惑かけすぎたしな」
「ふふふ、なんか五十嵐先輩のイメージ変わりましたよ」
「俺もオマエのイメージ変わったけどな」
「それは良い方向に?」
「ああ、案外良いヤツってな」
「それはそれは嬉しい限りです。昨日の敵はなんとやらですね」
「友な。けど、このままで大丈夫なのか?同じ選抜だろ?堤先輩と今後どうすんの?」
と、急に真面目になるもんだから「それは、まだ考え中です」未定を告げれば「俺のせいだよな。ほんとごめんな?」また謝られる。
「だから五十嵐先輩は気にしないで下さいよ。これは俺自身が納得できなくて、こんな事になっただけですから」
「でもよー。俺が言われてなければオマエは堤先輩に目をつけられる事もなかったんだぞ?」
「それはそうだけど、後悔してないし」
これは本音、後悔なんて全くしていない。むしろ、アッチが悪いに決まってるだから謝罪くらいして欲しいものだ。もちろん、堤先輩に。
「とりまあ、五十嵐先輩は見守っててくれるだけで良いですよ」
「ほんとにそれでいいのか?」
「だーかーら、良いって言ってるじゃん」
ニッコリと微笑んでも、どこか浮かない表情の彼。そりゃそうか、昨日の今日でほっとくなんて出来ないんだろうな。
「それよりも五十嵐先輩、一つ聞いていいです?」
「ん?なんだ?」
「彼女はどうしたんですか?約束してたでしょ?」
「あ?あー、それな。うん、まあ、断った」
「折角のデートだったのに?」
「それはそうだけど、オマエには迷惑かけてるしな。彼女は後回しだ」
「うわあ、彼女かわいそう」
「どの口が言ってんだ!別れとか散々言ってたくせによ」
「え?そんな事言ってましたっけ?」
「オマエ、良い性格してんな」
「ありがとうございます」
「ほめてねーよ」
頭を小突かれ、ため息を吐かれたのだけどーーーどうしてかな?なんだか少し心が暖かくなる。あれだけ私の事を嫌ってたのに今はそんな素振りすら見受けられない。まるで別人みたいだ。
「しかし、彼女さんには悪いことしたな」
「ん?オマエが気にするような事じゃないぞ」
「そうですが、約束破らせちゃったしな。今度お詫びに折菓子持って行った方がいい?」
「折菓子って、ババアかよ。そんなのいらねーよ。彼女も納得してたし」
「そう?ならいいけど?こんな事で別れるとかなったら後味悪いし。それに、俺のせいとかも嫌だな」
「別れたとしても誰もオマエのせいにしねーよ」
「えー?ほんとに?」
「そこまで性格悪くねーよ」
「なら良かった。別れても俺に文句言わないでね?」
「言うか、ボケ」
そしてまた小突かれる。
「ふふふ、なんかコントみたいですね」
「なにがだよ」
呆れる先輩に「いやあ、楽しいなって思って。友達ってこんな感じなんですかね?」笑みを漏らせば「ん?え?オマエ、友達いねーの?」目が点になっていた。