新しい友人?
あんな出来事があった後、私は落ち込んでいるであろう彼の元へ脚を運んでいた。果たして彼はどこにいるのだろう?と、探していると薄暗い灯りの下に座り込む姿が。
ーーー相当、落ち込んでるな。
「やぁ、大丈夫?」
ビクッと、震える彼の肩。突然話しかけたもんだから、とても驚いた顔をしていた。
「あ、アンタは」
「とりあえず、気になってさ」
「そっか、気にしなくていいぜ」
「え?でも」
「それに俺は、お前にヒドイ事言った」
「あー。それね、別にもう気にしてないよ?」
「だけ、ど」
「まあ、腹立つ人間くらい誰でもいるよ」
と、彼の隣に腰掛けて「キミ、名前は?二年だっけ?」首を傾げれば「五十嵐玲太、名前くらい覚えてろよ」睨まれてしまう。
「そっか、五十嵐先輩ね。覚えた」
「ったく。お前って良く分からんヤツだよな」
「え?そう?」
「そーだよ。てか、変わり者っぽいし」
「そんな事ないですよ?普通です」
ニッコリと笑えば、先輩も笑みを返してくれる。とゆうか、少しは元気を取り戻したのだろうか?
「それよりも、堤先輩ってば酷くないですか?あんな人間、久しぶりに見ましたよ」
「んー。でも、あながち間違ってないと思う。俺はーーー才能ないし」
「はあ?だからってそこで堤先輩の言葉を呑み込むんですか?俺なら考えられない」
「だけど、事実だし。それに堤先輩のアレは今に始まった事じゃないしな」
「どうゆう事ですか?」
意味深な言葉に疑問を投げれば「結構昔からああみたいで、自分の思うレベルにそぐわないと辞めさせようとするんだ。まあ、それに耐えられなくて何人も辞めていったけどな」頭を抱える羽目に。とゆうか、それはどんなんだろう。
それが本当なら、昔から誰も堤先輩を止めなかったって事だよな?え?なにそれ?みんなして酷くない?
「それって、あんまりじゃない?堤先輩の思い通りに事が進むだけじゃん」
「そーだな。だけど、プレーでは堤先輩の方が格段に上だから誰もなにも言えなくてな」
「いやいやいや、それは間違ってるよ。いくらプレーが上手いからって、そんなのあんまりだ」
「けど、慶応は実力主義だからよ」
「だけど、なんでそんな冷静なの?もしかしてヤル気無くしちゃったとか?」
ズイっと、彼に近付けば「まあ、あそこまで言われたら自信無くすわ。努力したって無意味な事くらいあるだろ?」さも当たり前の様に言うもんだから「バカじゃないの?そこは見返すとかじゃないの?」久しぶりに声を張り上げていた。だって、そんなのおかしいじゃない。堤先輩に言われたから自信を無くすとかあり得ないし。それに、努力をバカにしないで欲しいと思ったから。
「五十嵐先輩、頑張りましょうよ。あんなヤツ見返してやればいいんです。練習ならいつでも付き合いますよ?苦手分野ーーーは、フォローします。多分」
「ふっ、ありがとうな。だけど、後一年も耐えれるかわかんねーよ」
「それは、その、俺がなんとかします!五十嵐先輩のご卒業まで見守らせていただきます」
胸を張ってそう告げれば先輩の肩が小刻みに震え「お前、ほんと変わり者だわ」頬が緩んでいる。その顔はとても穏やかで、此処に来て良かったと思わされる。あのまま放置してたら本当に辞めていたに違いない。
「五十嵐先輩は、その、別に悪いとは思いませんよ?」
「ん?なにが?」
「えっと、部活も真面目に取り組んでると思うし、プレーだって文句はないと思います。ただ、堤先輩のレベルが高いだけだと思います」
「真面目にって、俺のプレー見たことあんの?」
「そりゃあ、ありますよ。名前は知らない人が多いけど部員全員の顔は覚えてるつもりです。これでも顔を覚えるのは得意なんで」
「なんだそれ、やっぱり変わってんな」
「てか、それは良いとして。五十嵐先輩?辞めませんよね?辞めたら呪いますよ?」
「おいおい、随分と物騒だな」
「だって、努力をバカにされたんですよ?おめおめ退散するのってないと思います」
「まあ、バカにされたのは腹立つけどよ。これ以上なにを頑張ればいいんだ?」
「それは分からないですが、兎にも角にも!ヤル気だけは捨てないでください」
堤先輩の思い通りなんて正直、面白なくない。だから頑張ってヤル気を出させようとするのだけど、うまい言葉が見当たらない。頑張って!とは簡単に言えるけど、五十嵐先輩の気持ちを持ち上げる言葉など検討もつかなくてーーー普段使わない頭をフル回転。
「俺、マジで応援します。もし、落ち込んだ時とかは直ぐに言ってください。なんでもします。それに、折角こうやって話すようになったんだから居なくなるのは寂しいです」
と、フル回転したはいいが、こんな言葉しか思い付かない。果たして彼はどんな反応をしてくれるんだろうと返答を待っていれば「ありがとうな、それに暴言吐いたのはほんと悪かった」何故か謝罪される。なので「別に、あの時はまあ落ち込んだけど謝ってくれたので気にしてないです」思った事を伝えれば「いいヤツだな」彼は照れ臭そうに笑う。
「いいヤツではないと思うけど、謝ってきて許さない人間は居ないと思いますよ?」
「ふっ、そうだな。ほんとありがとうな」
「いえいえ、本当に気にしないでください」
「ああ、分かった」
「それよりも明日の応援、一緒に観ませんか?」
「え?」
「俺、ケガで出れないから明日は観客席で観ようかなって思ってて。良ければご一緒にどうです?」
「一緒にって、お前はベンチだろ?」
「いや、無理矢理にでも観客席に居座るつもりです」
「それって監督知ってんのか?」
「知らないですよ。俺は部屋で安静だけど暇だから観戦に行くんです。だからコレは二人だけの秘密です」
「な、おまっ!」
「仕方ないから一緒に観ましょう。秘密は共有し合うものですよ?」
「はああ?しかも上から目線かよ。つーか、それがバレたら俺だって」
「それ以上は言うな、です。さて、明日は楽しみですね?」
「拒否権は?」
「ありません」
ニッコリと微笑んで彼を見つめれば「返事はえーよ」項垂れていた。だけど、これでまたヤル気を取り戻してくれれば一石二鳥だ!なんて思ってたら「はあ、明日は彼女と観に行こうと思ってたのに」摩訶不思議な言葉を耳にしてしまう。え?聞き間違い?そう思って「か、彼女?」目を見開けば「そーだよ。部活辞めようと思ってたから彼女作った」なーんて、笑えない。
彼女ーーーだと?
「え?いつから付き合ってるの?」
「三日前くらい?告られたからよ、付き合う事にした」
「なにそれ!そんなの聞いてない!」
「言う筋合いねーだろが!つーか、まあ、顔も好みだったからオッケーしたけど。てか、なんでそんなグイグイくるわけ?」
「そりゃあ、野球部員は彼女とか作らないとおもってたから驚いて」
「まあ、部活してたらそれどころじゃないしな。けど、辞める気だったからな。俺」
「だけど!そんなのあんまりじゃないか!今すぐ彼女と別れろ」
「何でだよっ!」
「だって、野球続けるんでしょ?」
「んーまー、そうだけど。付き合って直ぐに別れるとかねーだろ?」
「それは、そうだけど。両立できるの?もし、私と野球どっちが大事なの?なんて言われたらどーするの?」
「オカンかよ。つーか、それは言われたよ。野球してたら会う暇ないんじゃない?って。だから、辞めるから大丈夫とは言った」
「ホワッツ?!俺なら殴ってる」
冷ややかな視線で先輩を見つめれば「俺の彼女だから殴んな」もっともな意見いただきました。しかし、彼女がいるとはーーー驚いた。ちょうど良いタイミングで告白してきたんだろうな、まさかオッケーもらえるとは思ってなかっただろうに。
「クッソー、リア充爆発しろ」
「お前、それはねーんじゃねーか?寧ろ、おめでとうとか言えないワケ?」
「うーん、それはーーーなんか嫌」
「んだよ、それ」
「しかし、顔が好みで良く付き合えたね?俺なら無理だけど?」
「誰も月宮の好みを聞いてねーよ。まあ、可愛いは正義だ」
「うっ、それを言われるとなにも言えない」
「可愛いげがあればなんだって許されるんだよ」
可愛いげ、か。そう言われると女(元)としての本能が目覚めるワケであって「俺の為に別れてよ?」上目遣いで先輩を抱き締めてみる。すると「おまっ、なにして!」あまりにも可愛い反応をするもんだから調子に乗ってしまいそうになる。
「ダメ?俺じゃダメなの?俺ならもっと幸せにできるよ?」
瞳を麗せて彼を見上げれば「お前、なにしてんの?」背後にただならぬ気配が。私は恐る恐る後ろを振り返るーーーと、雨野先輩が腕を組んで私を凝視していた。




