俺様、何様、堤海琥様
只今の時刻、十九時半。誰も居ない室内にてボーッと時間を潰すだけの私、ちなみに雨野先輩と相馬先輩は未だ自主練中。しかし、なにもする事がなくてツラい。せめて動き回りたいのだが、如何せんこの脚だ。無理に動き回ってたら先輩達になにを言われるか。
だが、暇なのはしょうがない。だから少しだけウロウロしても良いよね?怒られないよね?と、扉の部屋をゆっくり開けてーーー頭を抱える。その理由は一つ“扉なんて開けなければ良かった”だ。
だって、目の前で繰り広げられている光景を目の当たりにしたら嫌でも扉を閉めたくなってしまう。
「てゆうか、キミいつまで部活に出てくるつもり?いい加減目障りなんだけど?」
「はあ?なんでそんな事先輩に言われなければいけないんですか?」
「え?だってキミ、足手まとい」
バサリと、切り捨てるような言葉を告げるのは堤先輩だった。しかし堤先輩の顔、酷く冷たい。そんな顔で睨まれたら此方まで身震いしそうだ。
しかし、どうしたものか?
いつも穏やかな雰囲気は一切見受けられない。それに、黒いオーラはもう黒いってもんじゃなくてダークを醸し出している。一体彼になにがあったのだろう?と、先輩の側に居る人物に目を向けて頭を悩ます。
確か、彼は過去に私を罵倒した人物では?忘れもしない顔に面食らった時「てゆうかさ、努力してもヘタだしセンスないしやってて楽しいの?とゆうか、努力してもムダな人ってウケる。キミ、なにが楽しくて野球してんの?」強烈な言葉を彼に吐き捨てる先輩。だが、そこまで言わなくてもいいのでは?なんて心の声も虚しく「俺さ、ムダな事してるヤツが目障りなんだよね。だから目の前から消えてよ」彼の暴言は更に続く。
「そもそも、ヘタくそのくせに良くでしゃばれるよね。勘違いも甚だしい」
「・・・っ」
「だからさ、目障りなの。ほんと辞めてくんないかな」
クルクルと髪を弄り、先輩は鼻で笑う。だけど、そこまで言う必要はあるのか?と、私は疑問を抱く。ヘタだからと言って、先輩がそこまで言うのはどうなのだろ。とゆうか、ヘタな人は堤先輩から見て目障りな存在なのだろうか?だとしたら、私がその立場だったら同じ暴言を浴びせられたのだろうか?そう考えて嫌な汗が頬を伝う。
しかし、ちょっと言い過ぎではないのだろうか?
彼に対してはーーーまぁ、過去に罵倒されて腹が立ってたけど今は違う。なぜか彼が可哀想に見えて「堤先輩、言い過ぎだと思います」思わず口を滑らせてしまう。だから、その鋭い視線は私に向けられる訳であって「ん?なにか言った?」黒いオーラが更に増す。
だけど、ここで怯んでは私の気が済まない。
「だからですね、ヘタだからと言ってそこまで言わなくてもいいんじゃないんですか?彼だってもっと努力すればきっと」
「てゆうか、月宮。盗み聞きは良くないと思うよ?」
「いや、部屋の前で騒いでるそっちが悪いのでは?」
ズイっと、先輩に近付けば「は?なに?コイツの味方?」馬鹿にしたような表情で此方を見下ろす。
「ん?味方?先輩、頭は大丈夫ですか?私が言ってるのはそんな事じゃないですよ?」
「じゃあ、なに?」
「堤先輩はそんな事言えるほど偉いんですか?何様ですか?俺様ですか?そもそも、ヘタだからと言って目障りとかはどうかと思います」
「俺は事実を言ったまでだけど?」
「だからって彼にそこまで言う必要あります?」
「はっ、なにが?目障りなヤツが居たら邪魔なのは排除するでしょ?」
ーーーダメだこりゃ。
堤先輩はどうも性格が少し、ねじ曲がっているようだ。とゆうか、どうゆう環境で育てばこんな風になるのだろうか?
「話になりませんね。てゆうかキミもうどっか行った方がいいよ?」
「え?」
「堤先輩はわた・・・じゃなくて、俺が食い止めとくから。だから、ほら」
と、彼の背中を押して「気にするなよ、だから早く行け」その場から離れるように誘導。すると観念したのか彼は「すいません」そう言って走り出す。しかし、最後に見た彼の瞳は潤んでいたな。相当ダメージを喰らっていたのだろう。なんてボーッと、小さなくなる背中を見つめていたら「なんのつもり?」低い声に思わず肩が震える。
「な、なんのつもりって。彼に助け船を出しただけですか?」
「は?」
「堤先輩、少し冷静に話をしませんか?」
「俺はいつでも冷静だよ?」
とは言うものの、先輩の目は笑っていない。それに先程より視線が鋭くなった気がする。
「はあ、分かりました。けど・・・さっきの発言はどうなんですかね?頑張ってる彼にそんな事言えるなんて、神経どうかしてるんじゃないんですか?」
「ん?頑張ってるからと言って目障りなのは目障りなんだよね。努力すればなんとかなる、なんて笑わせる」
「ちょ、なんでそんなひねくれてるんですか?」
「は?俺は嫌いだからそう言っただけ」
「だからって、もっとこう・・・オブラートに包めばいいじゃないですか」
「無理なものは無理。生理的に無理」
「だとしても、それは言うべきではないと思います。それにもし俺がどんくさくてヘタで、足手まといな存在だったら彼と同じ暴言を俺に吐くの?」
「は?」
「だから、俺が努力してもムダな存在だったら同じ言葉を俺に浴びせるの?さっきみたいに」
思わず視線が下を向いてしまう。もし、邪魔だとか言われたらきっとーーー泣きたくなるから。だから、少なからず先輩を信じていたのだけど、そんな私の希望は「当たり前じゃん、邪魔なヤツは誰だって排除するよ」簡単に打ち消される。
ーーー少しでも希望を抱いた私がバカだったみたい。
「そう、ですか。堤先輩って人間終わってたんですね」
「どうゆう意味?」
「ほんと、最低な人」
と、小さく言葉を吐いて彼の頬に目掛けて手を弾く。バチンーーーと、乾いた音と共に「どんな環境で育ってきたかは分かりませんが、先輩。人間として終わってますよ?もう少し大人になったらどうですか?てゆうか、ほんと何様なの?そんなに自分が偉いんですか?あんな事を言えるほど人として出来上がってるんですか?てか、元々の性格がかなり歪んでるから自分では分からないとか?だとしたら、この先不安ですね。そんな性格じゃ誰も近寄ってはくれませんよ?」捲し立てる。
「そもそも、堤先輩って他人を思いやる。って言葉をご存知ですか?」
「・・・」
「ああ、その顔は知らないみたいですね。それよりも、言いたい事を言うのは悪いとは言いません。が、最低な人間に変わりはないのでその性格を変えた方が良いですよ?とゆうか、幻滅しました」
元々、堤先輩は性格が悪いとは思っていたがーーーここまで悪いとは思ってなくて落胆。人を人として見ていない瞳に思わず涙腺が緩みそうになる。だが、私はなにも悪いことを言ったつもりはない。先輩の事を嫌いじゃないからそう告げたのに「お前、嫌いだわ」こんな事を言われる始末。だから「そうですか、少しでも信用してた俺がバカをみましたね」鼻で笑ってやる。
だけどもーーー心が痛いのはなぜだろう?




