真意
怪我をした翌日、監督に呼ばれた私は重たい脚をゆっくりと進めながらとある部屋を訪れていた。目の前にどん、と座っている監督と視線が合わせられず「怪我をしてすみませんでした」頭を下げるしかできない。しかし、そんな私をよそに監督は「大事にならなくて良かったな」やんわりと笑うもんだから、拍子抜けだ。本当はもっと怒られるもんだと思っていたので気が抜けてしまった。
「しかし、数日は安静なので・・・試合には出れないと思います」
「おう、分かっている。それよりも月宮、安静にしていろよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
さてはて、どうしたものか?
なんだか穏やか過ぎて逆に気持ちが悪い。とゆのも、あまりにも監督の表情が柔らかいのでなにかを企んでいるのではないか?だの、怪我をしたからこの先試合には出してもらえないのか?だの、余計な思考が頭をチラつく。だが、監督はそんな様子すらみせず「明後日の試合には出させないが、次に進めたら試合には出す。覚悟しておけ」また笑う。とゆうことは、このまま普通にしてていいんだよね?と、解釈した私はもののついでに気になる事を思いきって口にしてみた。
「監督、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「あの、以前見てしまったんですが。あの白い袋ってーーー処方箋ですよね?」
と、口にしたはいいがどうやら間違ってたみたいだ。みるみる監督の表情が曇るもんだから私は慌てて「あ、すいません。気になってたもので、気を悪くしたらすいません」頭を下げる。すると監督は「いや、いい」小さく言葉を吐き出す。チラリ、と監督に視線を向ければどことなく沈んだ表情。
しまったな。なんて後悔したとて口にしてしまった以上は彼も大人だ、どんな言葉を私に向けるのかと思えば「少し風邪をこじらせてな、オマエが気にする事じゃない」想像以上の返答に目を見開いた。
そんなワケないじゃないか。
「すみません、監督」
「どうした?」
「いえ、もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「監督は今後も慶応の監督を続けられるのですか?」
「どうゆう意味だ?」
「えっと、その、もし俺達が卒業しても会いに来ていいですか?」
「ん?会いにとは?」
「それは、監督に会いにとゆう意味です」
瞬間、監督の目が見開きそして伏せられる。それはどう解釈すれば良いのだろうか?しかし、その真意は分からず仕舞い。なぜなら監督は「話は以上だ。オマエも部屋に戻れ」私に返答をくれなかった。
それから自室に戻ってみても寝付けなかったのでグラウンドに脚を運べば「歩いて大丈夫?」桃川チャンが掛けよってくる。
「うん、少しなら大丈夫かな?」
「だけど無理しないでね?ほらほらベンチに座る」
「ふふ、ありがとう」
私をベンチへと誘導する彼女に笑みが漏れる。アタフタしながらも気遣うその心に先程までの緊張が段々と解されてゆく。
「とりあえず、絶対そこから動かないでね?」
「大丈夫だよ。動かないって」
クスリ、と笑えば「ドリンク配ってくるね」彼女は走り出す。しかし、如何せん彼女はおっちょこちょいだ。コケないかと心配していだが、やはりコケそうになってて吹き出してしまう。と、そんな彼女を目で追っていたら「見学?」堤先輩が此方に近付いてくる。
「はい、見学です」
「ケガはそんなに悪くなかったみたいだね」
「おかげさまで」
「良かった、良かった」
と、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる先輩。
「でもまー、心配したよ」
「す、すみません」
「他の部員も心配してたよ?」
「うう」
「ふふ、別に責めてないから安心しなよ」
「だけど堤先輩が言うと二割増しです」
「ん?どうゆう意味かな?」
途端、黒いオーラが見えたのでそれ以上は言うまいと思った。




