だから、面白い
夏の甲子園都道府県予選、西東京大会開幕。去年ベスト4大宮山、慶応に敗れる。
見出しはコレで良いだろうと、山之内は一息つき視線を手帳に移す。しかし、今年は面白くなってきたな。一年を初回から出すとは。
ーーー月宮香か。
「先輩。慶応、第二試合順調に勝ちましたよ」
ニヒルな笑みを浮かべていたら後輩の黒田が吉報を持って帰ってくる。
「で、どうたった?試合内容は」
「はい。やはり相馬クンは良い投手です」
「相馬クンは、一試合投げ続けたのか?」
「はい、見事なもんでしたよ。二年生とは思えない貫禄でした」
「ほう、後は?」
「後は、三年の堤クン。素晴らしい選手だと思いました」
「へえ?どんな風に?」
「なんとゆうか、隙がない完璧なバッティングと守備力」
「ほうほう、とりあえず纏めといてくれ」
「リョーカイしました、って先輩。お出かけですか?」
荷物を持った彼に黒田は「もしかして取材?」目を輝かせる。
「ああ、まあ」
「って、なんか、先輩、隠してません?」
「は?別に俺は」
「嘘だ!!って、先輩。それ慶応高校の校舎案内じゃ?」
しまった、と頭を抱えても既に後の祭り。コイツの感の良さには俺でも舌を巻く。
「はあ・・・分かったよ。着いてこい」
「やった!!リョーカイです!!」
仕方ないか。と、念願叶った慶応の取材にひよっこ新米を連れていく事にした。
「ーーーでは、邪魔にならないように取材、撮影させていただきます」
着いて早々、監督に挨拶を終え取材を開始。やはりとゆうかココは選手陣のレベルが高い為、監督はただ様子を見ているだけ。
「しかし、先輩。慶応、レベル高いっすねー」
「そうだな。俺も同じことを考えていたよ」
「とゆうか、選抜メンバーの気迫が凄いっすよ」
「ああ、あそこだけ別格だな」
「内野手、外野手、レベルたけー」
カシャッ、と、リズム良くシャッターを押す黒田。よほどテンションが上がっているのだろう、興奮している様子が嫌でも伝わってくる。
「あ、キミは外野手の日和知忠クンだね?」
と、早速、目の前を通った彼に声をかけ「二回戦、おめでとう。少し取材をいいかい?」握手を求めてみた。が、しかし、彼はつれない。
「すいません、練習したいんで。じゃあ」
そっけないな、チクショーめ。だが、こんな事でくじけないぞ!と、張り切ってブルペンに脚を運べば「月宮、もっかい投げろ。アウトコースギリギリな。あ、変化球よろ」雨野クンがそう叫んでいた。って、は?今、月宮って言わなかったか?俺は咄嗟に投手に視線を移し、絶句。
彼が、本当にアウトコースギリギリの球を変化球で投げていた。それはもう、ドンピシャなコントロールで。
「おいおい、マジかよ」
守備と攻撃が他の球児より勝ってると思った、が、投球までそつなくこなすとは。こんな高校生、見たことねーぞ。
「月宮、次はインコースギリギリでこーい。ストレートな」
「うーっす」
ヤル気があるのか分からない彼は気だるそうに言葉を放ち、またしても正確な球を投げるのだ。
ははは。だから、延び盛りの高校生は面白い。
「よーし、月宮。上がりにするぞ」
「ほーい」
「あ、ブルペン出たらストレッチな」
「え?もう終わりじゃなかったの?」
「投球練習が終わりなだけだ」
「マジっすか」
「大マジだ」
と、月宮はガックリと項垂れるのであった。




