表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

こんなサプライズはいらない

とある日。珍しく真面目に部活を取り組んでいたせいか、山下監督から笑顔で「作戦を練るぞ」強制連行される。作戦とは?と、言いかけたが監督の目がマジだったので素直に着いて行くことにした。そして、監督はベンチに向かい「じゃあ、始めるぞ」と言って収集された部員に声を掛ける。


収集された部員は一軍と二軍の捕手と投手、合わせて四人。プラス、私。


「大会のトーナメント表が発表された。目を通せ」


山下は手に持っていた用紙を五人に配り「初戦から厄介な相手だ」視線を伏せる。と、相馬は「あちゃちゃー」なにかを察したのか盛大に溜め息を吐き出した。


「こればかりは仕方ないが、俺達は勝たねばならん。分かってるな?」


監督のそんな言葉を聞きながら私の視線はグラウンドへ。正直、相手を知らないから何を言えばいいのか分からない。皆さんは対戦したことあるらしく苦い顔をしている。しかし、作戦を練るぞ!と意気込んでた割には皆さん静か。各々、思う所があるなかな?なーんて、ふと、監督に視線を向ければ私の直感が僅かに反応。その直感、とゆうのは“もしかして監督体調悪い?”だ。


いや、でも元気そうにみえるけど?とは思ってみても私は違和感を覚える。こうゆう時の私は冴えていて意外と当たったりするのだ。だから、その直感的感覚が怖い時がある。しかし、監督は平然を装おっているのでなんとも言い難い。と、暫く意見の出し合いをしていたらいつの間にか作戦会議は終盤へ。


さほど意見を出していない私だが、それは他の部員がカバーしてくれた。そしてある程度話終えた所で「よし、戻れ」監督の一声が飛ぶ。だけど、私はなんだか戻る事ができなくて監督を目で追ってしまう。だからだろうか?良くないモノに目を奪われる。


ほんとーーー自分の直感的感覚が大嫌いだ。


ベンチから腰を上げ監督に歩みを進め「落としましたよ」白い袋を拾い上げて手渡す。と、監督は少し目を見開いて「ああ、すまない」それだけ言ってその場から立ち去る。だけど手渡した際、私は上手に笑えていたのだろうか?急激な不安を覚える。それに、手は震えてなかったかな?なんて柄にもなく胸が熱くなってしまう。


私はどちらかとゆうと山下監督は“好き”だ。それはラブではなくライク。こんな友人いたら飽きないだろーな、とゆう感じ。少なからず監督に対して好意を抱いているから、流石に参っている。


そんな気持ちでグラウンドを眺めていた時、ふと脳裏に過った記憶に苦笑。


“幸せになれよ”


今も忘れられないあの笑顔。最期までアナタは私を残酷に突き放す。


ーーー健祐(ケンスケ)。私は前に進めてるのかな?


と、どーやら私は独り言を口に出していたらしい。背後から「前も、その名前呼んでたよな?」雨野先輩が近付いてくる。しまったーーーそう思っても遅すぎた。


「な、んで・・・泣いてんだ?」


覗き込む彼と視線など合わせられず、呼吸の仕方さえ忘れそうになるほど私の胸は締め付けられる。だから、精一杯の言葉を絞り出して「大丈夫です、コンタクトがズレただけです」笑顔を向けた。だけど「オマエ、コンタクトしてたっけ?」声のトーンが下がる。


「最近、カラコン始めたんで」

「はああ?カラコン?」


途端、眉間にシワを寄せる先輩。そんな先輩が言ってた“監督を甲子園に連れていく”その言葉がフラッシュバックしてきて息を飲む。


ああーーー、そうだった。他の部員も監督を甲子園に連れていくと叫んでいたっけ?


「雨野、先輩」

「ん?」

「甲子園、行きましょう」

「は?」


間抜けた面に「だから、甲子園!!行きましょう!!」叫んでしまった。そしたら先輩は目を見開いて「変なもん食ったか?」心配そうに私の肩を揺らす。


「つーか、どーしたよ?珍しく目が輝いてんじゃん?」

「今、決めたんです」

「ん?は?なにが?」

「だから、精一杯頑張るって今、決めたんです」

「はああ?それって、なにか?健祐?だっけ?ソイツが関係してんの?」

「え?ってか、なんでその名前?とゆうか、前も、と、仰いましたよね?」

「ああ、それはこないだオマエが寝言で呼んでたから」

「え?寝言で?」

「おう、すげーツラそうに呼んでたぞ」


苦笑いする先輩に言葉を無くす。寝言で呼んでたってものすごく恥ずかしい人じゃん、私。


「まあ、どっちにせよ、オマエがヤル気出してくれんならいいけどな」

「どーゆう意味ですか?」

「そのままだよ。オマエは戦力だからな」


と、はにかむ彼。だけど、そう決めた私の動機は不純だから素直に喜べない。だけど、後悔はしたくない。


「雨野先輩、俺、今年は絶対甲子園行きたいです」

「おう、俺もだ」

「だから、ご指導宜しくです」

「ははは、まさかオマエの口からそんな言葉が聞けるなん」

「茶化さないで真面目に聞いてください」


彼の言葉を遮って真剣に向き合う。多分、もう二度とないだろうけど「試合で、俺を使えるだけ使って下さい。雨野先輩が見放さない限りは全力でやります。戦力外だと思ったら直ぐに外してくれてかまいません。俺は野球経験浅いし、分からない事だらけですが先輩のプレーや戦略は素晴らしいと伺ってます。プロ並みとも伺ってます。だから、未熟者の俺全部を先輩に預けます。だから!!俺を雨野先輩が思うように染めてください、全力で応えます」頭を下げる。


こんな事しか言えないけど、待ってはくれない時間に怯えるのはもう御免だ。だから、今の精一杯を告げれば「は?」とだけ返ってくる腑抜けた声。


「だから、ご指導宜しくお願いします」


再度告げ、先輩に視線を向ければ彼の目は点になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ