節度ある距離を保ちましょう
最近、常々思うことがある。三年のオーラが凄まじくヤバい事に。
それは、夏が終われば引退もあるのだけど試合に向けての姿勢が下級生とは比べ物にならなくて息が詰まりそうになる。正直、同じ空気を吸うのが場違いなんじゃないかと勘違いするくらい。
甲子園とゆう響きが少し、疎ましく思えてしまう。
「では、以上で解散」
監督の声で練習が終わるが、大半の部員は残って自主練習。と、そんな様子を眺めていたら一軍と二軍が集まってなにやら軽く試合を始めようとしていたのだ。だから、私は咄嗟に隠れる。だって、これ以上死にたくないから。
瞬時に身を隠せた為、バレる事なく試合に視線を移す。
ーーーまずは二軍の大島田先輩が投手、同じく二軍の古谷先輩が捕手で始まる。
バッターは一軍の坂口先輩。
大島田先輩は得意の変化球を投げるもののやはりとゆうか、三年間の重みかな?坂口先輩は甘い球を難なく打ち返す。その目は二年の大島田には負けない、と言った感じだ。
続いて一軍の進藤先輩がバッターボックスに入る。塁が出ているせいか、楽しそうにバットを振っていた。と、進藤先輩はヒットを放ち走り出すのだがセカンドにいた戸高先輩にボールが捕まり、一死。
ワンナウト、一塁。
ーーーって、なんで私隠れて見てるんだろ?
自室に帰るつもりが、いつの間にか見学。己の行動に苦笑してたら「月宮クン?なにしてるの?」天使の声がその場に響き渡る。
「桃川チャン?」
視線を横に向ければその場に座り込む彼女の姿が。
「月宮クンは、練習しないの?」
「え?あ、今日はいいかな?」
「そーなんだ」
ち、近い。
改めてみると桃川チャン、ものすごく至近距離に座っているもんだから内心ヒヤヒヤ。こんな近くに可愛い子がいると正直、緊張。
「月宮クン、上手いから参加すればいいのに。もったいない」
「ははは、そんな事ないよ」
「えー?めちゃくちゃ応援してるのにー」
と、少し頬を膨らます彼女。そんな仕草さえ可愛いくて、堪らない。って、私はオッサンかよ!
「だけど、凄いよね月宮クン」
「ん?なにが?」
「メンバーに選ばれたの、一年で月宮クンだけじゃん?」
「あ、ああ」
「私、同じ一年として感動すらしてるんだよ?」
「え?」
つい、間抜けた声が出てしまった。だが、桃川は「ほんと、カッコいいや月宮クン。私なんてドジしてばっかで」途端ーーー表情が曇る。
「マネの仕事好きだけど、失敗続いてて」
更に表情が曇るもんだから「誰にだって、失敗はあるよ?」フォローを放つ。が、ちょっと落ち込んでます。なーんて舌を出して笑うもんだからつい頭を撫でたくなるーーーとゆか、撫でてしまった。
「つ、月宮クン?」
「大丈夫だって、失敗は成功のもと」
手を離して笑いかければ、彼女の顔はみるみる赤くなる。つい撫でてしまったとはいえ、桃川チャンのこんな顔は正直ーーーヤバいと思った。
クソ、可愛いじゃねーか。
「桃川チャン、自信もっていいと思うよ。俺は頑張ってる桃川チャンの姿、好きだけど?失敗しても、めげない所とかね」
ウィンクして彼女を励まそうとすれば「もう月宮クン。それ、反則」更に頬を染める。
うはっ!やばすっ!めっちゃ、かわええ。と、デレデレしてしまいそうになる顔を引き締めて「俺はいつでも相談にのるよ」キメ顔。
うん、これは決まった!!なーんて、自分の行動をぶん殴ってやりたい。
「月宮クンは、いつも優しいよね」
彼女の瞳が憂いを帯びたのを見てしまったーーーと、後悔。この目はなんとなく知っている目だ。直感でこれ以上は危険だと信号が鳴り響く。
「とりあえず、明日からまた一緒にがんばろ」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、俺は戻るわ」
「うん、お疲れさま」
「桃川チャンもお疲れ」
それだけ言うと私は慌ててその場から立ち去り自室へと避難。
あれ以上はヤバかった。流石にない、よな。
冷や汗を拭い、とりあえず風呂に入ろう!そう決めてマッハでシャワーを浴びる。兎に角、焦ってるのは確か。だが、ここは一旦落ち着こうじゃないか。と、誰に言う訳でもなく私は風呂場を後にし、また自室へと避難。そして、椅子に座り込んで脱力。
「あれは、マジで、ヤバかった」
そんなつもりはなかったのだけど、あの瞳を見たら何も言えなくなってしまう。
とゆうか、今までどーやって彼女に接してきたのか?と、己を悔やむ。が、それはもう無意味な話なのでこれから先を慎重にしていこう。
そうだよ。間違いがあってはならないって、まてよ?今は男だから問題はないのか?いや、でも元は女。しかし、どーしてもソッチ系しか浮かばない自分に苦笑。私の思考、死んでしまえっ!!