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悪夢

相馬が倒れた。


ソレを聞いたのは三時限目が終わって直ぐの事。倒れた理由を聞けば体育の授業でバスケをしていた時、ダンクをした人がバランスを崩して目の前に居た相馬先輩と接触。と、バランスを崩した生徒は相馬先輩と共に床へ倒れ込む。しかし、相馬先輩はツイてなかった。


先輩はそのまま仰向けに倒れてしまいーーー後頭部を強打してしまう。意識はすぐに戻ったみたいだが念のためと病院に向かったらしい。だから、その話を聞いて血の気が引いてしまった。もしかしたら相馬先輩は私のようにどこか知らないトコへ行ってしまうんじゃないか、と。


「おい、月宮、顔色が悪いぞ?」


キャプテンに肩を叩かれハッ、とする。


「古谷キャプテン、相馬先輩は?」

「相馬ならもう寮に戻ったんじゃないか?」


それを聞いた私は先輩に「ありがとうございます」とだげ告げ、走り出す。そして、自室に辿り着き勢い良く扉を開ける。と、ベッドで横になっていた相馬先輩と目が合う。


ーーーあんな想いは私一人で充分。


「お?月宮クン、どうしたの?じゅぎょ、っ、」


彼の言葉を待たずに私の足は動き出していて「良かった」変わらぬ姿を思いきり抱きしめていた。本当に私の名前を呼んでくれた事に感謝する。まだ幼い彼に私と同じ経験をさせるのは酷な話。だから、この想いは私だけでいいんだ。と、神様に感謝。


ありがとう。彼を連れていかないでくれて。


「つ、月宮?!」

「先輩、良かった・・・ほんと、良かった」


正直、相馬先輩を目にするまで怖かったのは事実。後頭部、強打と聞くと蘇ってくる「死」とゆう恐怖。


「お、おい。月宮、そろそろ太陽を離してやれ」


と、肩に掛かる重み。あれ?雨野先輩もいたんだ?無我夢中だったから気が付かなかった。


「あ、すいません」


私は相馬先輩から離れ、立ち上がろうとする。が、うまく力が入らなくて床に崩れ落ちてしまう。


ーーーあれ?おかしいな。


更に力を入れるが微動だにしない身体。とゆうか、こんなになるなんて思ってなかった。


「おい、月宮?どうした?」


雨野先輩が心配そうに此方を見下ろす。


「あ、えっと・・・」


私は思いきって「腰、抜けました」勇気を振り絞る。こんなの恥ずかしすぎるよ。と、下を向いてたら「ホラよ」雨野先輩が私の身体を支えてくれたのだ。


「とりあえず、俺のベッドに座ってろ」


私を抱えた先輩はゆっくりとベッドへと誘導。


「あり、がとう、です」


先輩にお礼を言うと相馬先輩は「月宮クン?どうしたの?ビックリしたよ」元気そうに笑っている。だから、その笑顔につい笑みが漏れてしまう。


ああーーー、情けないな。良い大人がこんなことで動揺するなんて。


「・・・っ」


また、胸が熱くなっちゃったよ。


「相馬先輩、大丈夫なんですか?」

「ん?大丈夫だよ、問題ないって言われたから」

「そうですか」


でも、暫くは安静だって。そう告げられた言葉にそろそろ限界を感じてしまう。


「もう、ほんと、っ、ムリ」


手の平で目元を覆う。心臓に悪すぎるよ、ほんと。


「月宮クン、ごめんね?」


と、聞こえてきた相馬先輩の優しい声。その声がまた私をダメにする。


「でも、大丈夫だから、ね?」

「・・・っ、はい」


このままココに居たらもっと迷惑かけてしまう。だから、思いきり力を入れて足を動かす。と、かろうじて動いてくれる身体。


「ちょっと、飲み物買って来ますね」


まくし立て、下を向いたまま部屋を出る。それから歩くスピードを上げ用具室の手前付近で一度、停止。思考を安定させようとするのだけど、どうしたものか。まだ、恐怖に怯えている自分がいた。


「ははっ、なさけ、ないっ」


ボロボロと溢れ出てくる涙。


いつになったら止まってくれるの?と、声を押し殺していたら「なんで、泣いてるの?」目の前で日和先輩が驚いた顔をしていた。


え?


どうして先輩が、ココに?


「なにか、あった?」

「だ、だいじょう、ぶで、す」

「嘘言ったら、ダメだよ」


と、先輩の手が伸びてきた瞬間ーーー大きな身体に包み込まれる。


「泣きたい時は泣きなよ」


頭を撫でられ、暖かい気持ちが心を満たす。


「せんぱ、はな、して」

「なんで?」

「な、んで、って、男同士、だ、からっ」 

「うん、でも、ほっとけないよ」


日和先輩はそう言って更に力を込め「弟が泣いた時、こうやればすぐ、泣き止むんだ」優しく笑う。だけど、先輩?私はアナタの弟じゃないよ?と、言葉を掛けようとした時「月み・・・や?」後方から響く声。


「と、なんだ、知忠じゃん」


あ、この声は堤先輩だ。


「二人でなにして、って・・・」


近付いてきた足音がふと、止まり「え?なにこれ?」先輩と視線が絡む。


「えー?なに?知忠、泣かせたの?」

「違いますよ、既に泣いてたんです」

「じゃあ、なんで、抱き締めてんの?」

「泣き止む方法、これしか思い付かなかったから」

「ふーん」


と、堤先輩が「とりあえず、その手、離そうか」声のトーンを下げれば、日和先輩はその声を聞き「分かりました」私を離してくれる。


「つか、月宮、すごい顔だな」


プッと、笑う堤。


「う、それは・・・」


口ごもると「とりあえず、話は聞くけど。なに?転んで泣いたとか?」堤先輩は斜め上をいく。


「違います、ただ、相馬先輩の安否が・・・」

「ああ、なるほど、ね。でも、大事には至らなかったんだろ?なら、なんで?」

「え?あ、安心したら、止まらなくなって」

「ははは、マジかよ。月宮、心配性?」

「いや、そうゆうワケではなくて」


目を擦りながら返答すれば「腫れるから、やめろ」堤先輩の手がそれを制する。


「す、すいません」

「ん、でも、驚いたな。月宮を抱き締めてんだもん」


と、堤先輩は日和先輩に視線を向ける。


「え?ダメだったかな?」

「まあ、ココは誰も見てないから良いけど、校舎ではやめろよ。そーゆーの」

「ははは、気を付けるよ」

「ホントに分かってんのか?」

「うん、分かってますよ」


ポリポリと頬を掻き、なんかごめんね?と、こちらに苦笑いを向ける。


「いえ、お二人とも、ほんと、すいません」


こっちがごめんなさいだよ。


「とにかく、だ。今は授業に戻るぞ」


堤はそう言って月宮の背中を押す。そして日和には「お前もはやく戻れ、相馬の事は雨野がついてるから大丈夫だ」優しく笑う。


「そーするよ、まあ、部活の時に顔出せばいいか」

「だな、じゃあ部活で」

「うん、部活で。香クンも後でね」


と、手を降って日和先輩は教室へと戻ってゆく。


「さーてと、次は月宮な」

「う・・・」

「駄々こねるなよ」

「は、い」

「俺はもう戻るけど、ちゃんと教室行けよ」

「あ、うん」


まあ、あんま考えすぎんな。と、頭を撫でる先輩は「じゃあな」その場から立ち去る。と、ポツン。その場に残された私はどうしようか悩む。


このまま教室行くのもな・・・あ、そうだ。飲み物買ってくるって言ったまま飛び出したんだった。


肝心の事を思いだしてUターンすると雨野先輩が壁に寄りかかって腕を組んでいた。いつからそこに?と、近付けば「泣き虫」視線だけが此方に向けられる。


「泣き虫じゃないです」

「ウソつけ、そんな心配だったのか?太陽のこと」

「それは・・・まあ」

「すごい血相だったもんな」

「そ、それは・・・」

「まあ、相馬も気にしてるみたいだし、部屋戻るぞ」

「・・・はい」


ああーーー、相馬先輩になんて言おう。己の行動を思い返して自己嫌悪。とりあえず、抱き付いてごめんなさい。と、謝ろう。そう誓って部屋に戻るのであった。

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