どのタイプ?
彼女が欲しい。
そんな発言を期に、次々と集まりだす部員の本音。だが、甲子園を目指す者にとってそれは夢のまた夢。
朝練をして授業を受けて夕方には直ぐさま部活。の、繰り返しで女子と話すヒマなど皆無。しかし、部員達はカップルを見ると歯痒い気持ちになるらしい。
ミーティングを終えた部員たちは各々、ちょっとした夢を語り始める。だが中には彼女がいる者がいる為、とんでもない質問攻めを喰らっていた。
醜い嫉妬だ。と、傍観しつつも己の今後を見つめ直す。男である以上、将来を考えて女子と結ばれなくてはならない。だが、元は女子。
正直、女を好きになれるのか不安で仕方がない。だけど、両親はきっと孫をみたい。とか言い出すのであろう。そう考えて頭を悩ます。
はてさて、どうしたものか。物思いに更けながら部員たちを見つめる。
「いいなー、彼女、でも今は野球一本でいくわ」
「だよな。欲しいけど、野球がな」
「それな!」
「両立出来そうにねーわ」
なーんて言う部員に賛成の意を示したい。日々、野球と向き合っているから彼女なんて出来たら大変だと思う気がする。それに私と野球どっちが大事なの?なんて言われた日には彼女をぶん殴っているに違いない。なにせ、私は女々しいヤツが大嫌いだから。
ボーッと、そんな事を考えていたら「あれ?まだ部屋に戻ってなかったの?」視線の先に日和先輩が立って居た。
「あ、はい。動くの面倒で」
私がそう言えば「香クンらしいね」って、目の前に腰掛けて笑う。
「日和先輩は戻らないんですか?」
「うん。スコアブックの手伝いしてるからね」
「へえ、もう終わったんですか?」
「ううん、ちょっと休憩」
一息したくてね、そう言って伸びをする先輩。
ーーー大変そうだな。
「お疲れさまです」
とりあえず深々と頭を下げてみたら笑われた。
「香クン、頭、下げすぎだよ」
「え?あ、すいません」
「謝ることはないけど、そんな遠慮しないで」
ひどく困った顔をされた。でも、そんな顔も画になっててすごく癒される。やはり、イケメンは何をしても許されるのであろう。
「けど、周りが騒がしいね」
静かに休憩したかったよと、先輩は苦笑い。
「ですよね、みんな浮かれ過ぎなんですよ」
「かもね。毎日、野球だからどこかで癒しを求めたくなるんだよ」
「え?先輩もそう思ったりするんですか?」
「たまーにね、ほんとたまに、だけど」
意外だった。先輩もそんな事思ったりするんだ。
「へえ、癒し系な子が好き、とか?」
「うーん、そうとは言えないけど、あんまりうるさい子はムリかな」
ーーーあ、終わった。
私、ガッツリうるさい系じゃん。と、気落ちしてたら「なんの話?」堤先輩が歩み寄ってくる。
「好みの話かな?」
日和先輩はそう笑って堤先輩に視線を移す。
「好みのって、なんの?」
「女の子、だよ」
「ああ、なるほど」
と、堤先輩は腰を下ろして「知忠の好みのは?聞いた事なかったな」興味津々。
「俺の好みの?」
「うん、どんなのが良いの?」
「落ち着いてる子?」
「なんで疑問系なんだよ」
「だって、あまり考えたことないから」
照れくさそうに笑う日和先輩は「それより、戻るね」立ち上がって早々、作業に戻ってしまう。そのせいで次の標的は私だと確信。
「月宮は?」
やっぱり、そうなるのね。
「知ってどうするんですか?」
「どうもしないよ」
「なら、きかないでくださいよ」
「ええ?だって、気になるじゃん?」
そんな事を言われてもまともに回答できる言葉が見当たらない。好みなんて考えたことないし。
「うーん、よく、わかりません」
「なにそれ、面白くない」
堤はあからさまにふて腐れる。と、月宮はため息を吐いて呟く。
「仕方ないじゃないですか、思い当たらないんだもん」
過去の恋愛を思い返してもたいした言葉は出てこない。元々、好みとかなかったような気がするし。そんな残像をほじくり返してると「ココでも好みの話?」雨野先輩が呆れた顔をしていた。
「そうだよ、で?真一はどうなの?」
早速、私から雨野先輩に標的を変えた先輩は「まあ、座って語ろうよ」彼を促す。ちゃっかり者ですね。
「はあ?なんで教えなきゃいけないんすか?」
「いやー、たまにはこうゆうのもいいじゃん?」
「たまには、って」
ポリポリと、頬をかきながら雨野は腰を下ろした。
「じゃあ、逆に聞きますけど堤先輩は?どんなのがタイプ?」
「えー?質問を質問で返すの?」
「先輩が教えてくれたら、教えます」
「俺?」
「そうです。先輩の好みのはやっぱり、同類ですか?」
「ケンカ売ってるの?」
同類とは腹黒、の事だろう。
「ジョーダンですよ」
「まあ、今のは許す」
「ははは、ありがとーっす」
雨野先輩、怖いものなしだな。
「んー、好みかー」
と、唸る先輩に視線を移せば「強いて言うなら、月宮みたいな子」バズーカをぶっ放してきたので「は?」思わず声が出てしまった。
仕舞いには「いや、なんか、こう、月宮って面白いじゃん?」ケロッとした態度でそう、言い放つ。とゆうか、面白いだけの理由で名前を挙げないで欲しい。
「堤先輩、変わってますね」
ホラ、雨野先輩が呆れ返っているじゃないか。
「変わってるかな?だけど、俺は好きだよ。月宮」
堤先輩、そんな真顔で言わないで。顔が熱くて仕方がないです。熱のせいか私は居たたまれなくなり「では、俺、部屋に戻ります」マッハでその場を後にした。これ以上は身が持たない。
それから自室に戻った私は直ぐさまベッドへダイブ。顔に集まる熱を冷まそうと目を瞑る。アレは流石の私でも恥ずかしかった。堤先輩、破壊力がありすぎる。




