秘め事
あの後、私はボーッと考えていた。
彼が言ってた事は間違ってはいない、それに私はこの世界に来て曖昧な日々を過ごしていた。それは彼らにとって確かに軽率な行動だったと思う。だが、なぜそんなにも曖昧な日々を送っていたかとゆうと「戻れる」とゆう僅かな希望を抱いていたから。
しかし、もしかしたらあちらは二度と戻れないんじゃないか。とか、あっちに戻ったとしても既に死んでたりとか色んな感情が渦巻いて精神的ダメージを喰らう。ほんと、コッチの世界に来てからメンタルが弱くなったなような気がする。あっちに居る時はさほど変わらない感情がコッチでは一瞬にして崩れそうになる。と、目頭から鼻の辺りにかけてツンとした痛みが走る。
ーーー・・・久しく、忘れていた感情。
ジワリ、ジワリと目の前が霞んでゆく。これが泣くって感情だったっけ?頭からタオルを被せているから誰も見ることはない。だから、少しだけ今の感情に浸ってもいいかな?
「・・・っ、う」
何年か振りに味わうこの感じ、悪くはないけど心が痛くなる。それはキュッと、心臓を捕まれるような痛み。これはヤバい、本格的に私は弱くなっている。罵倒された言葉がどんどん染みてくる。
ごめんね、熱くなれなくて。ごめんね、口悪くて。ごめんね、不真面目で。誰に謝ってるのか分からないけど、どうしようもない気持ちが私を締め付ける。いつかあちらに帰れるから。と、調子に乗ってこのザマ。
だけどそれは仕方のないこと。私はなんの根拠もなしに知らないフリをずっと決め込んでいた。ほんとは戻れる希望なんて、最初からなかった。だって、聞いちゃったんだ。意識を手放す瞬間「二度と戻ることは出来ない」とゆう声。だけど、あの時は必死だったから夢?とかもしかして!とか望んじゃってて、浮かれていた。だから聞こえていないフリをして嘘だと忘れようとしたんだ。
一言で言えば、そんな一時の感情に甘えていたバカな女。
「・・・っ」
本当にもう戻れないんだ。それを再確認したらまた、涙が止まらなくなった。だから私はベンチから離れ、人影の無いとこへ足を進める。理由は誰にも見られたくないから、だ。
「っと、バカだな、私は」
大きめの木にもたれ掛かり、ズルズルと腰を下ろす。
この先、どうやって生きていこう。このまま野球を続けて良いのか?それとも、別の道を歩むのか?だけど、父親の顔が頭から離れない。嬉しそうに笑う母親が離れてくれない。
「どーしろってんだ」
今、この世界に居る両親を悲しませるのは気が引ける。
なぜなら、私は生まれながらの孤児。ずーっと一人で生きていた私に、こんな私にこの世界は家族をプレゼントしてくれた。転生ってゆうオマケつきだったけど・・・嬉しかったんだ。家族ってこんな感じなんだと、恥ずかしいけど私はこの世界に少なからず感謝をしている。
そんな二人の顔を思い返していたら「大丈夫か?」聞き覚えのある声に肩が跳ねる。どうしてキミはいつも突然現れるのだろうか?私の前でしゃがみ込む彼は「アイツ、説教しといたから」そう言って笑う。
ああーーー・・・ほんとに、厄介だ。
「まあ、アイツの言った事は気にすんな」
一方的に喋る彼に返答などしない。だって、今は見られたくないから。
「えー、っと、その、あれだ。マジ、気にすんな」
うん、気にしないようにするよ。だからどっか行って。
「月宮の「ヤル気がない」は挨拶みたいなもんだよな」
いや、それは無理があるんじゃ?って、そうじゃない。頼むからどっか行って欲しい。
「あと、口が悪いのは仕方ないぜ、多分」
多分かよ。とゆうかいつまでも此処に居るの?本当にどっか行って欲しい。
「不真面目ってゆうけど、オマエ、毎日ググってもんな。だから真面目だと思うぞ」
って、いつ見たの?油断も隙もないなコイツ。じゃなくて、振り出しに戻るようだけど切実に願う。どこかに行ってくれないかな?
「まぁ、アレだ。オマエはクセが強いだけだ」
それ、褒めてる?けなしてる?どっちにしろ嬉しくねーよ「ほんと、っぷ・・・くっ・・・」気が抜けた。クスクスと笑う私に「やっと喋った!!」ク○ラが立った!くらいの勢いで喜ぶ先輩。
「おい、いい加減顔を見せろよ」
「断る」
「返事はえーよ」
そう言いながらもタオルを奪おとするからつい、力を込めてしまう。
「ちょ、力強すぎ」
「先輩が取ろうとするから」
「それは、だな・・・」
モゴモゴと口ごもる先輩。だけど、この顔は見せられない。こんなの恥ずかしすぎで、死ねる。
「まあ、とにかく元気出せ!!よなっ!!」
「ちょっ!!」
ーーー瞬間、油断した。
頭に乗せていたタオルは先輩の手によって奪われてしまう。
「はーーー?え?おまっ・・・」
目が合った瞬間、先輩の目が見開く。しまったーーー見られた。
「はああ、なんとでも言ってください」
下を向き言葉を待つが、先輩は何も言ってこない。気になってチラリと、視線を上げればまた目が合う。
「雨野先輩、なんか言って下さいよ」
そう呟いても、先輩は何も言おうとしない。仕舞いには「わりぃ」と言ってタオルをかけ直してくれた。
なんだってんだ?!
「え?なんですか?気持ち悪い」
「はあ?それは、だな、その・・・」
「なんですか?俺がなんですか?」
「いや、月宮も・・・泣くんだな」
言われて、顔の中心に熱が集まる。
「なっ!!」
ヤバい、これは恥ずかしすぎる。途端、私は恥ずかしすぎて顔を隠す。
「月宮、オマエ、案外・・・可愛いな」
「う、うるさいっ!!」
「照れてんのか?」
「ち、違うしっ!!」
ほんと、調子狂う。
「隠さんでもいいーのに」
「だから、うるさい!」
「ハハハっ、ヤバい、ツボりそう」
「失礼の極みだな、先輩は」
「言っとけ」
まだ笑ってるし。ほんと、失礼な人だ。
「それより、先輩、部活戻らなくていいんですか?」
「ああ、オマエを連れてこいって言われてるからな」
「なるほど、ちょっと顔を洗ってくるので先に行ってて下さい」
「は?大丈夫なのか?」
「はい、スッキリしたので、大丈夫です」
「そうか、分かった」
私は先輩に「また後で」と伝え、水道へと向かう。そして、ぐちゃぐちゃの顔を洗う。
ーーー水が冷たくて気持ちいい。
それから洗い終えて、グラウンドに戻る。けど、やっぱり皆の視線が痛い。私は物珍しい動物か?と、彼らを睨んだ瞬間「月宮、戻ってきたな」監督が優しく迎えてくれる。
「はい、すいませんでした」
「いや、それより練習再開できるか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「そうか、ならば、次はノックを受けてこい」
「分かりました」
私は言われた通り、ノックへと向かう。しかし、やはり部員の視線は変わらぬまま。
ーーー見せ物じゃないつうの。