邪魔者
六月、照りつける太陽はどんどん私の体力を奪ってゆく。本当に干からびそうだ。日差しに未だ慣れないのでスポーツサングラスを掛けて、ユニフォームに袖を通す。
しかし、あぢーよ。コンチキショー。
グラウンドに向かえば更に太陽が攻撃してくるのでキャップを深く被り、日差しをカット。
「あ、月宮、カッケー」
同じ一年がゲラゲラ笑うもんだから、無性に腹立って腹部にパンチをお見舞いしてやった。
滅せよッ!!
「お、月宮、ヤル気満々だな」
と、近くにいた古谷キャプテンは「今日も頑張ろうな」そう言って走り込みを始める。相変わらず、元気ね。
「月宮、ちょっと、コッチ来い」
走り込むキャプテンを眺めてたら山下監督が手招きをする。
「なんでしょーか?」
「月宮、今日はバッターボックスに入れ」
「うーす」
「相馬と大島田の投球を受けてもらう」
「うーす、って、え?!」
あの豪速球をっ?!
「さ、バッターボックスに入れ」
「いや、ちょ、待てよ」
「キ○タクはいい、早く入れ」
「拒否権は?」
「ない」
山下監督、優しそうにみえて結構ドエスだよな。
「はあ、分かりました」
渋々、バッターボックスに入れば相馬先輩が此方を凝視していた。多分、サングラスを見ているのだろう。そう思ってあえてシカト。そしたら「カッケーな」笑ってた。どーでもいいから早く投げろよ。日差しのせいで私のテンションはサゲサゲ。
「お、月宮、初めてバッターボックス入るな」
視線を下に向ければ雨野先輩がニヤニヤした面で私を見ていた。だから「はあ、まあ、成り行きで?」軽く返しておく。すると先輩は「太陽の球、受けれんのかねー」茶化される。
と、待てよ?そういえば相馬先輩、名前が太陽だったな。
ーーーよし、敵とみなす。
「まぁ、ガチのスイングかましますんで。シクヨロ」
バットを地面に叩きつけ、雨野先輩を挑発。
「はっ、言ってろ」
と、挑発はしたはいいが本当に打てるのだろうか?今の今まで素振りしかした事がない。なので、ボールを捕らえられるか不安。だが、とりあえず一球目は様子を見よう。
私はバットを軽く構え、一球目を待つ。と、相馬先輩が振りかぶったーーーって!はやいよ!!おいッ!!
振りかぶったと同時にミットに収まるボール。流石は豪速球様。だがしかし、見えない事もない。
私は香クンのポテンシャルを信じて、二球目をじっくり観察。手元でカーブするその瞬間、カキーーン!!良い音を放ったボールはそのままフェンスに直撃。
いわゆる、ホームランってやつだ。
「はあああ?!」
それを見た雨野先輩が大声を上げるが、打ってしまったものは仕方ない。香クンのポテンシャルに敬意を示したまえ。
「おまっ、はあああ?!あんな無理なカーブ打つか?」
「雨野先輩、うるさい」
「だけどよ、なんだそのフォーム」
「仕方ないじゃん、届くように手を伸ばしたんだから」
「だからって、無茶苦茶すぎんだろ」
悔しそうな雨野先輩。それに相馬先輩は「すげーっ、打った、すげー」しか連呼していない。
と、それを見かねた監督が「相馬、ガンガン投げろ」なんて言うもんだから、私はガンガン打ってやった。あれやこれやと変化球を投げてくるけど、そんなのお構い無しだ。
それから相馬先輩の後に大島田先輩の球を受けた。先輩の球はクセ球で狙いにくかったけど、なんとかぶちかます事ができた。なんでかな?香クンは反射と目と腕力がすごいみたい。
ある程度落ち着いてきた頃、雨野先輩は「オマエ、天才かよ」呆然としていた。
「いやー、月宮、運動神経は良いと思ってたが、バッターとしての素質はピカイチだな!!ヤル気はなさそーだけど!!」
ハハハ!!と、笑う山下監督。ヤル気がないのはいつもの事ですよ。
しかし、だ。対して本気でやったワケでもないのに他の部員達から浴びせられる視線が痛い痛い。もう、穴が空いちゃうぞー!って、くらい見つめられている気がする。練習に集中て欲しいものだ。
「山下監督、もう、このくらいでいいですか?」
「ああ、ありがとうな、月宮」
「じゃあ、ちょっと水分補給してきます」
「おう、小まめにとれよ」
視線に耐えられなくなった私は駆け足でベンチに向かう。すると「お疲れ様、月宮クン、凄かったよ!!感激した!」ベンチに居た桃川チャンがボトルを手渡してくれた。ああ、やっぱり癒されるわー。
「ありがとう、桃川チャン」
「いえいえ、マネの仕事ですから」
テヘヘと、笑う彼女はやっぱり天使だ。
「でも、ビックリしたよ。月宮くんバッターだったの?」
「ん?俺は守り専門だよー」
「そうなの?バリバリ打てて守るって、カッコ良すぎだよ」
「あはは、あんがとーね。でも、」
「ん?でも?」
「いや、なんでもないよ」
でも打てても今は楽しくはない、な。その言葉を呑み込んだ。こんな言葉、言うべきではないから。と、苦笑してたら「ふざけんなよッ!!」後方から聞こえてくる声に振り向く。すると部員の一人が私を凄い顔で睨んでいた。
え?なに?
「なんだよ、オマエ、いつもヤル気ねーくせに」
ああ、なるほど。気に食わない系ですか?
「何が、テキトーに頑張ります!!だよ、コッチは真剣にやってんだよ!!練習もオマエの何倍もやってんだよッ!!なのに、あんな簡単そうに打ちやがって!!俺たちの事バカにしてんのか?!あ?!」
私の口癖が気に入らないのだろう。彼は私の胸ぐらを掴み更に罵倒。
「てめぇ、いつも部屋に籠って自主練すらしねーし、先輩に対する態度はでけーし、何様だよ。こちとら、本気で甲子園狙ってんだ、夢を叶えるんだ、軽く野球で遊びたいなら他に行けよ!!オマエと仲間だなんて思いたくねーよ!!」
シーンと静まり返ったグラウンド。だけど、他の部員は止めようとはしない。それはつまり、そいつらもそう思っているから。
「悪いが、俺はオマエを認めてねーからな、ゴッコ遊びは他でやれ」
最もだな。それは私も、そう思っている。
仲間?あんたらと仲間になったとは思ってない。チームワーク?なんのこっちゃ。会話?数人しかした事ない。野球?とりあえずの部活。ヤル気?サラサラないよ。生意気?そんなの、上等。
じゃあ、なんで私はこの世界に来たの?そう考えた瞬間、身震いがした。
ヤバい、急になんか怖くなった。震える手をギュッと握り、胸ぐらを掴む彼に視線を向ける。
じゃあ、教えてよ。なんでこの世界に私は呼ばれたの?転生ってなに?来たくて来たんじゃないんだけど?出来ることなら帰りたいんだけど?どうやったら帰れるの?あと何日待てばいいの?ねえ?教えてよ。私はまだ、あっちの世界で生きていたかったよ?叶うことなら直ぐにでも戻りたい。ねえ、どうやったらいい?って、言えたらどんだけ楽か。
「おい、やめておけ」
と、見かねたキャプテンが彼の手を離し「頭を冷やしてこい」そう告げる。すると彼は不満を持ちながらもキャプテンの指示に従う。
「月宮、すまない」
彼ではなく、キャプテンに謝られたってなんて言えばいい?本当の事だから反論できないよ?
「とりあえず、月宮、ベンチに座ってろ。酷い顔だ」
そう言われて初めて気付く、唇を強くを噛んでいた事に。駄目だな、ポーカーフェイスをしていた意味がないじゃないか。