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作者: あばら2号

風がすべて教えてくれる世界。

太陽と星と僕だけしかこの世界をしらない、みんなほかの時間帯と同じように、普通に過ごしているが、昼休みの三十分だけは世界が変わっている。

そこに気づいているのは、僕と星と太陽だけ。

「今日は最高の世界になりそうだ。」

思わず声が出てしまった。

特にカラッと晴れた冬の日は最高だ。からっとした空気はなんだが軽い、軽ければ軽いほど風音がよく聞こえる気がするし、寒いから肌で風を感じる。風を皮膚で感じられるこの感覚はたまらない。太陽も夏ほど自己主張が強くない。冬のどっしりとした、落ち着いた太陽は大好きだ。

 今日は一年のなかでも最も良い風を感じることのできる日のはずだった。途中まではそうだった。しかしそんな僕の日常をいや、日常の中でも最も素晴らしい日を奴はぶつ壊しやがった。

「いやーいい天気ね。」

そいつは普通に屋上に続く階段からドアを颯爽と、開け、かつ堂々と僕の領土いや世界そのものを侵略してきた。

侵略者は、階段のドアの前で、立ち止まっているようだ。足音がしない。ただ人の気配がする

風の動きがさっきまでと微妙に変わっている。

風は何でも教えてくれる。

そこに侵入者がまだいることを

「誰だよ;;;」

僕は不機嫌な声で侵入者に尋ねた。

「だれかいるの?」

侵入者は僕の方向に歩き始める。風が気配を映し出す。

「カツカツカツ」

その音は、僕の横で聞こえなくなった。ぼくは不機嫌なまま仏頂面な顔を上げた。そこには、黒髪で髪の長い女性がただ一点を見つめて立っていた。

「あれ、岸谷君なんでここにいるの?」

彼女は、キョトンとした顔でこっちを見ている。

「悪いか?」

「悪いのは悪いでしょ。そんな開き直られても。」

ここ東山中学では、屋上の立ち入りは禁止なのだ。

「あんたが言える立場かよ」

こいつは僕に説教しに来たのかよ。最高の一日を邪魔するなんて許せない。

「なんでそんなに不機嫌なのよ。」

そこに、立っていたのは楠だった。1年D組僕と同じクラスだ。

僕は即答する。

「あんたと会話したくない早く教室に帰れよ。」

彼女は困惑した顔をしている。確かに、何も説明していないので分かるはずもないか。分かってほしいわけではないが一応説明してやることにした。

「この時間帯風が変わるんだよ。それで、風を感じてる。ここは僕だけの世界なんだ。邪魔しないでくれ。」

僕はそうどや顔で説明してやった。

「はー?まーいいわ。」

どうやら、この風の良さを理解できるのは僕しかいないようだ。残念だ。彼女はそのまま回れ右をした。分かってもらえなかったが、僕の意思が伝わったならそれでいいか、そう安心した。その矢先

「もし、岸谷君がここに明日来れば、この屋上は私の世界になるから。来なかったら、多分誰のものにもならないよ。あと私の名前は楠恵よ」

「あんたじゃないから、く・す・の・き・め・ぐ・み」

「わかった?岸谷修平君」

 そう彼女は言い残して、屋上から消えってた。

「何だったんだろう。」

そう誰もいない、屋上で一人呟いた。上から太陽に笑われてる、そんな気がした。

ここ東山中学は海から近い小高い丘の上に立っている。周りに目立った大きな建物はないため、四階立ての校舎屋上からは海が見える。そして昼の時間帯は海風吹いているが、海風の向きが変わる時間帯でもある。変わる時間は昼の十二時一五分から一二時四十五分までの三十分間だけ、なぜか三十分たてば風向きが戻る。この風向きが変わる時間は僕にとっては特別な時間である。別にただ風向きが変わるだけだ、毎日起こっている平凡な自然現象である。特別なことなんて何もない。だけど、屋上で一人近くの木が揺れる音を聞きながら、風を感じる。風向きが変わると木が

「さーー」

と音を立てる。ただ音を立てる訳じゃない。この時間だけは、木の揺れる方向が違う。しかもこの時だけは風が少し強くなる。木が踊っている感じがする。木だけじゃない、風向きが変わるので、この時だけ、校舎の玄関から風が入る、校舎は四角い形だが、真ん中が中庭になっている。校舎の玄関から反対側の玄関にこの時だけ風が通り抜けるのである。この風が通る音や、微かに聞こえる波の音、当然鳥たちの飛ぶ方向だって変わるすべてが変わるこの瞬間をこの広い屋上で一人で堪能できるのだ、自然が踊っている瞬間をたった一人で見ることができる。

 僕は中学に入ってから、毎日この屋上に通っている。入学して三日目にこの不思議な風に気づいて、入学して五日目には、まるで引き寄せられるように、この屋上にたどり着いていた。

誰もいない、屋上、昼風が変わる。僕だけの世界

 そして今日もいつものように、昼休み、コーヒーと本を片手に屋上に上がる。昨日の楠谷さんとやらがいないことを願っていた。だが彼女はそこにいた。

二日連続で邪魔が入った。

雨の日でも、屋上の階段の上がってすぐのところは少し屋根がついているから、そこで風を感じることができたし、台風の日は屋上に出なくても屋上に続くドアの前に立っただけで、風が強いので音を感じられる。雨が降れば、木のなびく音が微妙に変わるのでそれもそれで良い。とにかく邪魔をされたことなんて、この半年ちょっとの間1度もなかったのだ。

 だが彼女は、堂々と天文台の中から足をぶら下げながら本を読んでいる。彼女は僕のことをちらりと見たようだが、邪魔をする気はないらしい。

僕にとっては好都合だ。いつ、ものように、天文台の下の梯子の横で腰を下ろす。買ったばかりのホットコーヒーを片手にラノベを読む。一二時一五分風の向きが、逆転する。この世のすべてを風は知っている。今日は、中東でのテロについて悲しんでるようだ。この風はきっと、ヨーロッパから中東、インドを通り極東の日本までやってきたのだろう。

風は自慢話をしたいようだが、そんなに時間はない。

流れるようにまた次の風が来る。

次の風は、イギリスの紅茶について、何か言いたいようだが、あいにく僕が飲んでいるのはコーヒーだ。話が合いそうもない。だけど多分良い奴だ。

風との出会いは一期一会、風は二度と同じ場所を通ることはない。しかも通るのは一瞬、その一瞬でどの風も面白い話をしてくれる。僕も風になりたいものだ。

そう、僕は風と会話できるのだ。

風の音がぴったと、止まる。12時44分だ。風が止まったことで現実へ意識を取り戻す。実際のところほとんど、本は読んでいない。常に、風に神経を集中している。風が話しかけるから、本に集中できるわけない。ただラノベなんて、家や学校では恥ずかしくて読めないから、こういう一人になる場所でしか読む。仕方ない。

上を向くと、彼女も本を読んでいた。だが彼女はただ本を読んでいるようには見えなかった。本を読まずに上を向いているのだ。彼女はどこを見ているのかそう思いながらしばらく彼女をながめていると、彼女が急に下を向いた。すぐに目線をそらしたが気づかれた。

「パンツみんな。」

「見てねーし」

お前のパンツなんてみるか、そういいながら、彼女のパンツが気になった。僕がパンツを見る訳がない、しかも同級生のだぞ、興味ないな。風は完全にとまっているため、スカートは動いていない。

見えないだと、そんなばかな。アングルは完璧なのになぜか少し、陰になっていて色が確認できない。スカート少し動けば見えるはずだ。

いつも、12時44分30秒前後に風が完全に止まる。その後10秒前後の間だけ風が止まる。通常の風も止まる瞬間。通常の世界も僕だけが知る世界も止まる瞬間。止まると言うより、新しい世界が存在するといったほうがいいかもしれない。でも僕にはその世界は分からない。

多分わかるのは神様だけ。

風がやむ10秒間の世界は神のみぞ知る世界だと感じる。

つまり、彼女のパンツの色は神にしか分からないということになる。でも、あとそれも、ほんの数秒間だけだ。彼女の色がわかる瞬間が来た。僕は神様になれる。

再び風が動き出す。彼女のスカートも動き出す。さっきまでの世界とは違う、、僕が知っているけど知らない世界だ。。普段は十二時四十五分のチャイムが教えてくれる。人類が作った音で世界は反転する。元に戻るという表現が正しいかもしれない。僕だけの世界の終わりを告げる音。

しかし今日は彼女のスカートの揺れで世界が元に戻った。ああそういうことか、ぼくの世界は既に、彼女の世界になってしまったのだなと。

「だから見るなって」。

まさかの体操服のズボンだった。男のロマンをなえがしろにされた。

僕は何も言えない。

「見てもいいことなんてないよ、馬鹿だね、」

彼女は誇らしげに高笑いしている。

結局僕は神様じゃないんだな。女の子のパンツの色も分からないなんて

予鈴が鳴り響く音が聞こえる。十二時五〇分からは授業である。僕は本を閉じ立ち上がる。

「よっと」

彼女も、本を持ったまま梯子を使わずに天文台から飛び降りた。

「そういうことで、岸谷君今日からよろしくね。」

何がそういうことだか分からないが、彼女はそのまま、立ち去って行った。

もう僕の世界じゃないんだなと、彼女の後姿のスカートの揺れで確信した。

明日も彼女来るのかよ。そう呟きながら、彼女の後を追った。


放課後クラブ活動なんてせずに家に帰宅した。帰宅してもやることがない。今日の風との会話を日記に書いて、犬の散歩をして、一人将棋をした。特にやることなんてない。

あくる日、今日は学校に行きたくなかった。とうとうこの日がやってきてしまった。でもいかないわけにはいかない。学校をさぼったところで何も解決なんてしない。

 学校サボったところでやることもないしな。

 気づいたら学校にいた。ずっと言い訳を考えていたが思いつかない。

「岸谷」

三時間目の終わり、とうとう、担任に引き留められた。

ついに来たか、言い訳なんてない。次は体育だ。手短にしてもらいたいが、担任はいつも話が長い。体育の先生にも説明する羽目になる。最悪だ

だが今日の担任は予想に反し。上機嫌だった。僕と話すときはいつも、機嫌が悪い。今日は特に機嫌が悪いはずだったにもかかわらず。

「やっとクラブ入ったんだな、先生うれしいよ。おお次は体育か頑張れよ。」

僕は何も言えなかった。何の話だ?クラブに入った?僕は困惑した。

先生は

「期待してるぞ」

そういいながら、足早に教室を後にした。

ただ手に持った僕の体操袋がゆらゆらと不規則に揺れていた。

確かに、この間、校長室に呼び出されて、クラブ活動の意義について、二時間お話を受けた。たしか、十四日までに決めるようにと、言われた気がする。

公立中学のため、クラブ活動は全員何らかの活動をしなければならない。そう校則で決まっている。半年以上所属し、退部した場合か二十日以内に、別のクラブに所属すること。クラブは5人以上の生徒と1人以上の顧問がおり、新設する場合は学校長に、許可を取ることという校則がある。

「成績にも影響しますし、校則です。守るように。」

先週担任からもそう言われた。今日は問題の一二月の十四日である。明日から、学年末試験である。教頭からも

「一二月十四日つまり、学年末前までクラブを決めなさい」

とそういわれていた。

写真部に復帰できたのか?

そう思ったが腑に落ちない。

確かに僕は、写真部に復帰したいと頼んだのだが、返答は1月の初旬まで待ってくれだった。

そもそも僕が、写真部をやめたのは十一月の初旬だった。

正確に言えば辞めさせられたのだ。ほとんど活動に参加してなったので、三年生の先輩の一人から嫌われた。そいつが部長だったのが悪かった。正確に言えば、もう一二月なので、元部長なのだが・・とにもかくにも、辞めさせられたのだ。冬休み前の最後の活動で、三年生受験激励会を開くようで、写真部全員参加らしい。当然名簿で誰か来てないか、確認もする。そこで参加しないと、成績に反映するらしい。やる気のない顧問は伝統の受験激励会の参加と、その後に冬休みの計画か、作品発表とか何かをすれば、成績を付けてくれるのだが、部長が僕の名前を見ると機嫌が悪くなるため。年明けまでは写真部に入れないはずだった。

「まー、入れたならいいか」

そう独り言をつぶやきつつ、冬の寒い池の横に移動し、持久走を始めた。

「ダーーシュ、ダーシュ」

うるさい声が、池中に響き渡る。

なんで、走らないといけないのか意味が分からない。

ただ意味もなく校長の話を聞くよりましか。写真部に復帰できたことで、校長から呼び出しがなくなった。持久走も走れば終わる。そう思うとなんだかウキウキして、体が勝手に動いていた。気づけば、周りの女子から拍手されていた。どうやらクラス3位でゴールしたらしい。記憶にないので分からない。考え事をしていたら、いつの間にか着替え終わっていて、

持久走が始まり、今終わったようだ。

考え事をしていると周りが見えなくなる。悪い癖だ。

体育はめんどくさいから5段階評価で4でいいと思っていた。この先生は成績がよほど悪くなければ4を付けるが5を付けないで有名だった。いつも真ん中だったのに、今日は気分が高揚しすぎた。

「やればできるじゃないか;。次も期待してるぞ」

頑張っても五にはそう簡単にはならないが、さぼれば三になる。そういう先生だ。最悪だ次もちゃんと、走らなきゃならない。

 池回りでは女子がまだ何人か走っている。自然に走っている彼女に眼が行った。


「岸谷君足早かったんだ。以外」

屋上で、彼女からそう話しかけられた。今日は、どんよりとした空だ。空気が思い。空気が重い日は風もあまり話しかけてこない。だから今日は彼女と会話することにした。普段はラノベを読むのだが、今日はたまたま家に忘れてしまっていた。

「今日は気分がよかったんだよ。それよりも、櫛田さんは遅すぎないか?」

いかにいっても、あれは遅すぎる。三付けられるぞ。

「あ、名前で呼んでくれた。それより気分がよかったって?」

そうだ今日は空気が重いが、いいことだってあった。

「クラブだよ。写真部再入部認められたみたい。三年が出るやつはサボって、休み明けに課題だせば、成績だしてくれるだろ。そういう裏技がある。二カ月以内の再入部なら成績に反映されないしな。」

 彼女は天文台の上から突然下りてきた。今度はちゃんと階段を使っている。

長い髪をこちらに向けながら

「クラブ天文部だよ。」

「あと写真部ダメだってやっぱり。だれから聞いたの、復帰の話?」

「は?」

 唐突に天文部?何の話だ。

「だから、写真部じゃなくて天文部所属なの。作ったのよ天文部。」

彼女は誇らしげにそういった。

話をまとめると彼女は、天文部を作った。写真部復帰は僕の勘違い、僕は今日から天文部の部員らしい。なんなんだ、いったい、誰が決めた?聞いてないぞ。

「僕は、例え今入れなくても、一月には写真部に戻れるはずなんだ。勝手に決めないでくれ。」

そうだ、一月には入れるはずなんだ、なぜ天文部なんかに入らないとならん。

「一月じゃ遅いでしょ。期限今日までだし、これでも待ってもらってるほうでしょ?」

そういわれてしまうと困る。流石に成績に響くだけでなく、校長命令を無視したとなると、高校推薦が絶望的になる。中学一年のこの時期でそれはまずすぎる。

「でも人数どうするんだよ?」

基本的にクラブの兼部はできない。こんな中途半端な時期に人数が集まるとは思えない。

「ふーっふーん」

彼女は意味深に笑う。

「天文部もうできてるの。顧問もいるの。担任から、言われなかった?」

そうだ担任からクラブに入ったといわれた。つまりこいつの話が正しければ、天文部は既に存在することになる。

「でもどうやって?」

「それ聞きたいでしょ?

「天文部は二〇年前まであったクラブを復活っていう形を取るから、部員数は二人以上でいいらしいわよ?あと顧問は写真部の先生が臨時的に兼部してくれるらしいから、問題ないでしょ?」

 なるほど?そんな話は校則には書いてなかったが、彼女の話によると、二〇年前廃部になった時の、当時の生徒会の議事録に書いてあったらしい。だがここまで聞いても疑問に思うことがいくつもある。

「なんでそこまでして、天文部なんだ?吹奏楽上手いんだろ?」

彼女は吹奏楽部である。そして、フルートを吹いてるらしいが、大体の楽器は弾けるらしい、いわゆる天才である。吹奏楽をやめてまでやるような部活ではないと思う。

「私、別に吹奏楽好きじゃないのよ。星を見てるほうが楽しいのよ。」

彼女はまた空を見上げる。今見ても、星なんて見えるはずないのに。


 次の日も彼女は屋上にいた。今日はテストである。昼で終わるはずだ。完全下校は二時、でも遅くても一二時にはみんな帰ってる。残っているのは、補修の生徒だけ。

「何やってんだよ、帰って勉強しろよ?」

明日も当然テストだ、屋上で遊でるとバレたら、教師に怒られる。

「私はしなくていいのよ。何?嫌味?」

彼女は前回のテストで学年一〇位だったはずだ。ちなみに僕は六位、一年生は全体で三〇〇人いるから、お互い、いい成績である。だが五位以上にはなれる自信がない。上位五人とも九〇〇点満点で八八〇点以上なのだ。僕がだいだい850点ぐらい。

「家庭科とか美術とか覚えるのめんどくさいんだよ。だから八割超えれば御の字」

中間では三位になれるが、期末で勝てないのはそのせいである。

「また嫌味ね」

彼女はそういえば、家庭科とか美術が得意なはずだった。忘れていた。

「まー意味はないわよね。ただ覚えるだけ、多分高校で詰まるだろうね、このシステムで点を取り続けても」

まったくもってそのとおりである。

「学生はとにかく勉強しろ」

彼女ではなく風にそういわれた。無駄と分かっていてもしなければならない、いやな世の中だ。でも風はその重要性を教えてくれたのだろう。

彼女は相変わらず、上を見たまま、何がたのしいのかね?空なんか見て?風に聞いたが答えてくれなかった。


次の日のテストは散々だった。美術が多分七割ぐらいだろう。ヤマを張ったが外れた。家庭科もこれは八〇点かな。そう思っていると、彼女はどや顔で僕の隣に来た。

「多分一〇〇点だわ」

教室で話すのは初めてかもしれない。いや一回だけ、掃除当番の時あったかもしれないが、まともに会話するのは初めてだろう。

「それはよかったですね?僕は確実に数学一〇〇点だけど」

「あなた嫌味しか言わないのね」

彼女は数学が苦手である。今回は嫌味を言った。人に嫌味を言ったのは初めてかもしれない、なんだかよく分からない気持ちになった。

 そもそも嫌味を言ったのは楠さんのほうじゃやないか、そう思うと、すっと罪悪感が消えた。

「今日も屋上行くのか?そもそもあんなところで、何してるんだ?」

そうだ、今日もテストだ。昼からは学校はない。屋上なんかに行く必要がないのだ。

「天文部の活動よ。」

そもそも、天文部ってどんな活動するか聞いてなかった。

「天文部って昼から何するんだ?」

「今日は掃除かな」

今日はわざわざ掃除をするらしい。テスト前にやることじゃないが、そこは百歩譲るとして、「普段は?」

「星と会話するのよ。私星と会話できるの」

「はー?星と会話できるわけないじゃん。真面目に答えろよ」

彼女は大まじめにそんなこと言うので笑ってしまった。

「信じてないなら別にいいわ、あなたこそ何してるのよ?毎日私のスカート見て楽しい?」

「お前のスカートなんか見るかよ」

「見てもいいことないのに、わざわざsiてるじゃない」

「だから見てないって」

「じゃー何してるの?」

「先にいたのは僕だ、楠さんこそ何しに屋上なんかに来たんだよ。」

「だから、私は星と会話してるの、さっき言ったでしょ」

彼女は何を言いたいのか分からないが、星と会話なんてできる訳ない

「僕は風と会話してるんだよ」

「風と会話できるわけないじゃない。真面目に答えてよ」

ほんとに会話できるのに信じてもらえなかった。

「信じてないなら別にいいよ」

僕も彼女もお互いに同じ返事をした。担任が教室に入ってくる。ホームルームが始まる時間だ。

「座れー静かにしろーほらーー始まらんだろ」

がやがやと騒ぐ教室はなかなか静かにならない、毎回テスト終わりはこんなもんだ。

「はいホームルームが始まるまでに二分かかりました。二分も勉強時間を無駄にしました。以後気を付けるように。」

先生は勉強を、十時間しなさいとか、携帯を親に預けなさいとか、朝来て勉強しなさいとか、誰も守らないようなことばかり、言っている。スーツでなくなぜかタンクトップを着ている。タンクトップ似合ってないし、スーツで来るときもあるが、いつもヨレヨレである。そんな先生の話など誰も聞かない。お前の話が一番無駄だ。入らない話を二〇分もするものだから、眠くなってきた。

「起立」

不意に号令がかかる。ぼーっとしたまま立ち上がると、ふらついた、椅子にもたれこみ、自分の下に置いていた、弁当箱を蹴飛ばした。

「またかよ」

「わざとだろ。」

「痛そう。」

様々なクラスメイトからの声を、かき消すように、号令が響く。

「あっりゃした。」

ありがとうございました。活舌が悪いので、適当な挨拶をして僕は屋上にに向かう。

「わざと?」

天文台の上にいる彼女は僕を見下すようにそう言った。

「わざとじゃねーよ」

「何回目倒れるの?うけ狙い?構ってほしいの?」

「だから違うって」

「じゃー医者でも行ってくれば?」

彼女は投げやりな態度で僕にそういった。

「行ってるよ。あまりにも何回も倒れるから、先週行った。」

「なんて?」

「うん?」

「先生はなんて?」

「ああ、まだ検査待ち、来週テスト終わったら行くよ。」

「ふーん、にしては大げさに倒れるね。ああそうだ、星に病名聞いてみようかな。」

「は?」

「だから星に病名を聞いてみるって、当たってたら、信じるでしょ。」

すごい自信である。











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