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そのあとのおはなし2

この小説に関しては完璧に趣味と補完の意味しかないので、特にシナリオとかはないです。

なのでこのあと、キャラがどうなったかっていう話も特にないです。このまま延々と続くわけではないので、その点はご容赦願います。

 木漏れ日亭には、ここ最近常連の客がいる。


「《岩猪ボアム》の煮込みを二つ」

「はーい!」


 女性の二人連れで、一人は白髪と緑色の眼をした女性。彼女はいつも楽しそうに、美味しそうに料理を食べる。思わず見とれるほどの美人なのに、本当にうれしそうに料理を食べるから、こっちもうれしくなってしまう。どこかで見たことがあるような気がするのだが、こんな美人は見かけたら絶対に忘れない。


(でも、なんか違和感が――)


 違和感と言えば、いっつも隣に座っている女性もそうだ。見た感じでは、白髪の美人のほうが年上なのに、なぜか小柄な女性が横柄な態度をとる。白髪の女性はそれを気にした様子もなく、いつも嬉しそうに肉を食べている。


「お待たせしましたー!」


 私が料理を持っていくと、黒髪の小柄な女性は、若干警戒するように身をこわばらせる。その理由がわからない私は、いつかその警戒を解いてもらえるように、精いっぱい明るく接客している。小柄な黒髪の女性を見ていると、なんだか懐かしいような――心がほんわりと、暖かくなるのだ。店がつぶれそうになってから、ここまで人の心を癒してくれる人に出会ったのは初めてだった。


「やっぱり、美味しいな」

「ですね!」


 黒髪の女性の呟きに、嬉しそうに白髪の女性が返す。黒と白の対照が美しい二人の女性組は、いつも肉料理を満喫して帰る。どこで何をしているのかは知らないが、一週間に一度のペースで食べに来るから、それなりに稼いではいるのだろう。最近噂の、新人パーティの人間と色合いは似ている。が、あのパーティは金髪の少女と白髪の幼女だという話だ。目の前の二人組とは一致しない。


 知らない二人組だ。ここ最近、店に現れるようになって、話したことは数回しかない。


「でも、なーんか違和感が……知り合いに似てる人とかいたかしら……?」


 私は一人言を呟きながら、給仕を済ませていく。新人として入ったミミという女の子も、多少惚れやすいところはあるがよく働いてくれている。王都を吸血鬼が襲った話をすると、面白いほどに怯えていたが、そんなに怖い話だっただろうか?


「ごちそうさま」

「ありがとうございました! またお越しください!」

「いや……実は、ディラウスを離れることになってね。もう、会うことはたぶんないだろう」

「そう、なんですか。でももし、また来ることがあったら寄ってくださいね!」

「ああ、そうするよ」


 この2か月ほどで常連になっていた二人組が来なくなると聞き、私は少し寂しい気持ちになる。だが、この仕事をしていれば、贔屓にしてくれていた客との別れなんて、珍しいことでもない。


 料金を払っていった黒と白の二人組に頭を下げ、私は給仕を呼ぶ客の声に応えた。注文を受けようと小走りで店内を走った私は、ふと出ていこうとする黒と白の二人組を振り返る。


「あー……次はどうする?」

「私は、一緒ならどこでも!」


 陽光に包まれた二人を見て、私は――


「リ、リルちゃん? どうしたんだい?」

「あ、あれ……私、なんで……? ちょ、ちょっと待ってくださいね、今……」


 涙が止まらない。理由のわからない寂しさが次々と胸からあふれ、涙となって床へと落ちていく。これでは従業員失格だ。木漏れ日亭の看板娘として、これでは……。

 そう思っても、瞳からこぼれおちる涙は止まらない。私は結局、その日一日は仕事ができなかった。



 † † † †



「回帰せよ」

「戻るー!」


 路地裏で魔術の行使を示す光がこぼれる。女性の体を作っていた吸血鬼としての【変身メル・フォルゼ】も解かれ、次の瞬間そこには金髪の美少女が立っていた。


「精霊よ、私の姿を誤魔化して」


 尖った耳を幻影で隠し、先ほどまでいた黒髪の少女は金髪の人間として立っている。白髪の美女だったニムエは、成長モードをやめていつもの姿に戻った。

 俺はうんざりと溜息をつく。必要なことだとはいえ、女性の姿になるのは疲れる。しかもまあ、注目を集めること集めること。面倒極まりない。


「ルイドさま、どうするの?」

「リルか。俺たちのことは完全に封印されている様子だったな。操心族デラシュルが何を考えてそんな封印を施したのかは知らないが――別に、わざわざ解除することもない」


 完成した復元魔術ならば、リルの記憶封印も解除することができるが、俺たちの存在を思い出したところで苦しみが増えるだけ。ならば、このまま木漏れ日亭の看板娘として生きていくのがいいだろう。俺たちに出会ってしまうと、封印された記憶を思い出そうと、俺のように頭痛に悩まされる可能性もある。この都市にとどまる理由も、もうないだろう。2か月でずいぶんと旅費も稼いだし、潮時だ。


「じゃあ、この後はどうするの?」

「そうだな……俺の昔の人生の知り合いを、訪ねて回るのもいいかもな。もしくは、北の国に行ってみるか」


 多くの小国家が乱立している北の大地。もしかしたら、まだ見ない料理や、人類の情報が眠っているかもしれない。かつての仲間たちの武勇伝も集めてみたいし、好き勝手に旅するのも悪くはない。


「じゃあ行くか」

「うん!」


 俺はニムエを連れて、路地裏を出る。街道に向かう途中で、見覚えのある顔を見かけた。俺はとっさにニムエに隠れるように指示を出すと、話しかけてきたその男に対応した。


「すみません、人を探していまして」

「あら、そうなんですか」

「はい。黒髪に黒い瞳をした、背の低い男なんですけど……」


 誰を探しているか分かった俺は思わず額に青筋が浮かぶのを抑えられなかった。


「さあ、見てないですね。何か犯罪でも?」

「いや、僕が個人的に探しているだけなんです。あの、僕、マトって言います。猫の額亭に泊まっていますので、もし見かけたら教えてください。僕がいなかったら、ティエリかミュローネっていう女性に伝えてくれればいいですから」

「わかりました」


 俺がほほ笑むと、マトは少し顔を赤くして去っていた。森人族の美貌は、人間相手にはやたら高い効果を発揮するからな。無理もない。しかし、ティエリとミュローネと来たか。


「今の人、ルイドさまに負けた……」

「ああ、元魔法使いだな。さて、うまく誤魔化せたと思ったが……どうなるか……」

「ティエリも、一緒?」

「みたいだな。どういう経緯があったのかはわからんが、俺を探していることは間違いない」

「どうするの?」

「……いいや、会わないほうがいいだろう。リルの時と一緒だ。わざわざ、辛い思いをすることはない……それは、俺も含めてな」


 俺は、そんな呟きを残して、ニムエとともに城塞都市ディラウスを去った。

 また、どこかで会うこともあるかもしれない。そのときは、またそのとき考えよう。


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