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そのあとのおはなし1

語り切れなかった設定はこちらに。駆け足ダッシュで完結させましたが、まだまだ納得いかない部分も多くあると思いますので。本編中で語り切れなかった非力な私を許してください。

 ――吸血鬼ルイドと、魔族四人がヴィリス王国にもたらした混乱は、わずか一週間ほどで収束した。ただ、《劔》、《朧影》、《轟雷》の3人の魔法使いが犠牲になった戦いは、ヴィリス王国に深い傷を与えた。王は北の国々に対する警戒を強めなければならなかったし、人類は、いまだに魔族が生き延びているということを知った。もう彼らが人類に害を為すことはないが――それは、人類側にはわからないことだ。


「あー……」

「結局、主はどこに行ったんでしょうね?」


 ローベルトは槍を担いで、隣でダルそうに座り込むルリエスに話しかけた。一度ルリエスの手を離れた魔族の宝剣は、ルイドからのメッセージ付きで返却されていた。


「知らないわよ、あんなクソ親父……《斧》は襲い掛かってくるし、約束は結局守られなかったし、最悪よ……」

「まあ、そういわずに。今はルリエス様が魔王ですよ。どうします? 人間滅ぼします?」

「たった四人で何ができるのよ……」

「やっぱりボスは私より強かったな! なあなあ、ルイドってヤツはボスより強いのか!?」


 《劔》とルリエスが戦っているときに、戦いに割って入ってルリエスと戦い始めた《斧》――アケは、そのあともしれっと、何事もなかったかのように彼らに同行していた。四人の中で唯一、先代魔王ルイドの強さを知らない彼女は、嬉々としてルリエスに尋ねた。

 ルリエスは少し考えたあと、頭を横に振った。


「……比べるのもあほらしいわ。なにせ、あの男は魔族の身体能力に加えて、魔術まで使ってくるんだから。同族を殺した《聖女》シェリルに《賢者》ケトリアス、《白剣》ディリルに《術拳》ヴィリア――今のお父様なら、難なく完封できるでしょうね。アケ、私に勝てなかった貴女じゃあっさり返り討ちよ」


 ローベルトが、溜息をつきながら同意する。


「しかも、今の主は復元能力を駆使して9つの種族になれる。魔術の頂点だった人間時代の《千魔》ルイド、魔王であったときの並外れた身体能力、森人族エルフだったときの精霊術、天翼族だったときの飛翔能力、鬼人族だったときの呪いの魔眼、銀狼族だったときの俊敏性、呪護族だったときの解析力とぶっ飛んだ魔術、真龍族だったときの対魔力、そして吸血鬼としての復元能力――同時に相手にするなんて、俺には無理だね。800年前の英雄は、やっぱりどっか狂ってるぜ」


「それには大いに同意するわ。いくら数が多いからって、私たち魔族を壊滅させるほど、人間は強くはないはずなのに、始まってみれば、戦いは終始、私たちの劣勢だった」

「《白剣》ディリルさえいなきゃなぁ……あいつが魔族なら、間違いなく《剣》の一柱は最強だったのに……」


 この4人の中で、聖魔戦争を経験しているのは二人。槍のローベルトと、弓のフルーシェだけである。当時まだ子供だったルリエスと、まだ赤ん坊だったアケは、戦場には出されず、魔王ルイドの死を以て逃げ出していた。


「まあ操心族デラシュルも死にましたし、私たちもやりたいことは終わりました。それで、この後どうするんですか?」


 フルーシェの問いかけに、三人が即答した。


「「「ルイドを探す」」」


「一応、理由を聞いておきましょうか」

「当然。まだ約束を果たしてもらってないからね」

「強いヤツと戦いたい」

「面白そうだから。で、フルーシェはどうするんだ?」

「そうね……私も、主を探すことにするわ。彼を守り続けるのが、私の誓いでもあるから」


 かの聖魔戦争において、だれよりも近くで魔王を見てきたフルーシェは、優しく告げた。弓の一柱を決して譲ることなく、魔王に揺らぎない忠誠を誓い、転生直後の錯乱していたルイドを支え続けた存在。


「魔王の時はちょっとガチムチすぎたけど、吸血鬼になってからやたら可愛いと思わない?」

「うわ……」


 ローベルトが心底いやそうな呻きを漏らした。フルーシェの頬は紅潮し、その瞳がピンク色に染まっている。もしかして主はこれが嫌で逃げ出したんじゃないか。


「……ほどほどにしてくださいよ、お母様」

「わかってますよ、ボス。今の魔王はあなたですからね」


 実の娘であるルリエスにうんざりとした視線を向けられながらも、フルーシェは嬉しそうな表情を崩さない。魔族は、戦うための自分の全盛期の肉体を魔力で維持できるため、物理的な寿命が存在しない。転生してるかどうかわからないルイドを800年探し続けてきたのだ。今も生きている彼を探し出すことなど、苦痛でもなんでもない。


「見つけたら、戦ってもいいか!?」

「ちゃんと許可が取れたらね、アケ。あと私が先だから」

「なんでこんなに脳筋に育っちゃったのかしら……」

「いや、魔族は割とみんなこんな感じだったぞ」


 根っからの戦闘種族。強者と戦うことをなによりの願いとし、自らを高めることを至上の喜びとする魔族たちの旅は、まだ続いていく。


 † † † †


「《轟雷》、マト・ル・ヴィリスよ。今の話は、真実であるか」

「はい。人間は、長らく操心族デラシュルに操られておりました。それも、過去の英雄である《千魔》ルイドを殺すためだけに」


 《轟雷》マト・ル・ヴィリスは、あの後魔力を使い果たして気を失っていた。練習もなしに、ぶっつけ本番で自分を騙しきり、魔法を放ったのは称賛されるべきことではあるが、無理があった。莫大な魔力をすべて使って、ようやく一筋の雷光を生み出したに過ぎない。


 だがそれは、操心族デラシュルの記憶改竄の力がなくても、人類が魔法に到達できる可能性を示していた。


「《劔》を失い、《朧影》を失い、《落天》は役に立たず、《轟雷》はその力を失った。残るは、《爆焔》だけか。ヴィリス王国最強と謳われた魔法使いたちも、たった一人の男によってこのざまか」


 操心族デラシュル。記憶を改竄し、人を思いのままに操る種族。確かに……その存在はあまりにも脅威で、倒してくれた英雄ルイドには感謝の念もあるが――私の代ではないときに、こっそりやってほしかった。

 王が《轟雷》の話を聞きながら、そう思うのも無理はない。ルイドと操心族デラシュルが王国に遺した傷跡は大きく、その回復には時間がかかるだろう。市民に死者がほとんどいなかったことが救いといえば救いだが、代わりに魔法使いを三人も失ってしまった。


「しかも……その話が真実ならば、これから先魔法使いが生まれることはないのか?」

「そう、なりますね」


 魔法使いは、操心族デラシュルが記憶を書き換えて生み出した、いわば人造の種族。操心族デラシュルがいなくなった今、新たに魔法使いが生まれることはない。今生きている《爆焔》には、この真実を伝えることはできない。大変だが、彼には王国唯一の魔法使いとして、これから厳しい戦いが待っている。


 ついでに言うなら、この未曾有の災害のせいで、これからのヴィリス国王にも、厳しい戦いが待っている。


「《轟雷》……いや、マトよ。これからお前はどうする?」

「もし、お許しを頂けるのであれば。《千魔》ルイドを探しに行こうと思います」

「それは、なぜ?」

「魔術を習おうと思います」


 マトはきっぱりと、国王の眼を見て言った。その瞳に強い意志が宿り、国王は息をのんだ。今までの《轟雷》とは違う。濁った瞳でしか社会を見ていなかった《轟雷》は消え、自分の意思だけで何かを為そうとする強い意志が、その両目に宿っている。


(国王として、災害をまき散らした英雄ルイドには言いたいことが大量にあるが――)


 溜息をつく。


(これが、この強い意志が、本来の人の在り方だという信念ならば、理解はできる)


「許可しよう。こちらからも信用できる者を何人か連れて行かせる。それでいいな?」

「はっ。ありがとうございます!」


 マトは勢いよく頭を下げると、国王の前から去った。


 ルイドの影を求めて大陸中を奔走する彼が、一風変わった風貌の弓使いと、歴史と真実を愛する少女と道を共にするのは、また別の話だ。


 † † † †


 魔族が去り際に告げた言葉が、彼女の胸に鈍い痛みをもたらし続けていた。ティエリは学院の廊下を歩きながら、沈鬱な表情を浮かべる。誰がどう見てもふさぎ込んでいる彼女。周囲の人間は吸血鬼に一撃与えた人間として、なんとかすり寄ってこようとしているが、ティエリにとってそんなものは雑音でしかなかった。

 強者に依存することで自分を保っていた彼女にとって、自分が強者になった瞬間すり寄ってくる人間を信用できない。その裏と自分のなかにある、醜いまでの弱さを見せつけられるからだ。


「あの魔族は……どうして私を……」


 彼女の目に宿っていた、妄執にも似た暗い憎悪の念。彼女ははっきりとティエリに告げていた。『お前が憎い』、と。『その武器を持ちながら、主に弓を向けたお前を、殺したいほど憎んでいる』、と。


「なんで……私は、正しいことをしたはず……人間にとって、吸血鬼は脅威……いつか、牙を剥くに決まっている……」


 確かにあの弓使いの魔族は自分を恨んでいた。憎んでいた。だが、ならばなぜ、『だけど、心の底から同情もしているわ。この後、苦しみぬいて生きなさい』などと――。


「わからない……」


 ニムエはいなくなり、トニは去った。この学院で、ティエリは独りだった。近寄ってくる生徒も、貴族も、教師も、その言葉のすべてが薄っぺらい。


 普段は気にならない侍女服の重みが、ずっしりと肩にのしかかる。重い足取りで下を向いて歩くティエリは、やがて、自分の部屋にたどりつく。ニムエがいなくなってから、思い出すのがつらくて近寄らなかった部屋だ。

 もしかしたら、この扉を開ければ、その向こうにニムエがいるのではないか。また、明るく楽しい日々が――


 扉を開く。


 もちろん、そこにニムエがいるなんてことはなく、ただ、うっすらと埃をかぶった部屋が、ティエリを出迎えた。


 そっと、机の上をなぞる。楽しい思い出ばかりのこの学院に残るのは辛すぎる。ティエリは逃げ出す覚悟を決めると、自分の荷物を片付け始める。身体強化を習い、いくつかの魔術を習得し、弓の技術も得た今なら、ティエリは開拓者として一人で生きていくこともできる。あの吸血鬼からもらった数々の服をバッグに詰め込み、最後に忘れ物がないように部屋の中を確認する。


「これ……は?」


 引き出しの中で、埃をかぶっていた一冊の日記。途中で終わってしまっているそれを再び読み直し――


「……あ」


 パキン、と頭の中で何かがひび割れる音がした。

 今、大事なことを思い出しそうに――


「あああああッ!?」


 激痛。頭を内側から金づちで殴られているような激しい痛みが、ティエリの頭を襲う。その激痛に、思わずティエリは思考を止め、それに合わせて頭痛が引いていく。数秒で去っていた激痛に、ティエリは荒い息を吐きながら精神を落ち着かせる。ティエリ自身は気づいていないが、頭痛が襲っていたとき、ティエリの瞳は真紅の輝きを放っていた。


「思い出せ、ない……あ、あれ……? 私、なんで泣いて……」


 両目からこぼれるしずく。書いた覚えのない誰かの日記を読んで、涙が止まらない。この部屋にあって、ティエリのものではないのならば、必然的にニムエのものになるのだが、ティエリは知っている。ニムエは、字が書けない。ならば、この日記は、一体誰の――


「……探そう。あの吸血鬼を」


 ポツリ、と呟いた言葉は、静かになった部屋に、大きく響いた。ティエリの胸の中はぐちゃぐちゃになり、自分がいま何を考えて何を思っているのかがわからない。だが、吸血鬼を探すという案は、なかなかいいアイディアに思えた。

 何度も殺そうとした相手だ、もし出会えば問答無用で殺されるだろうが。不思議と、そのことに恐怖はなかった。

 それもいいか、とどこかやけくそ気味な、諦めの気持ちだけがあった。


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