チュートリアル
消えていた感覚が徐々に戻ってくると同時に、真っ暗な視界に一筋の光が差し込み世界が彩られていく。
その眩しさに目を瞑り手で覆えば伝わってくる体の違和感、それに気付かないふりをしつつ馴染んだ眼を開いていく。
レンズ越しに見る世界とは違い、なにも通さないで見える世界は新鮮で、感動した自分に少し嫌悪感を覚えてしまう。
見渡す限り周りには際立ったものが見当たらない草原にただぽつりと立たされている自分。
草を踏みしめる足はなにも履いておらず、チクチクとした感覚が足裏から伝わってくる。
少しごわついている白い布製であろう服はどちらも短く白い肌を惜しげもなく晒してくれている。
そんな状況で一人空しく立たされている自分。これは何の苛めであろうか…
そうやってどれくらいの時間が流れただろうか
呆然と立っていたので体感時間は結構なものであったが実際は数分であったかもしれない
『タイトルもまだないゲームへようこそいらっしゃいました。私が貴方様のナビゲーターミネでございます。』
そう声が聞こえたかと思うと目の前に黒猫が姿を現した
その姿は小さく両手の平で乗ってしまうくらいしかない
『と言いましてもナビゲーターキャラを操らせてもらっていますが、チュートリアルが終わりましたらまた次の新規ユーザーへの手引きに回りますのでこの場限りのナビゲーターではございますが』
そう笑いながら言っているであろう言葉を喋ると黒猫は少女の頭の上にひらりと舞乗って来た
突然で驚きはしたが黒猫の重さはあまりないのか動く分には別段問題なさそうである
『それでは説明させてもらいます。まず大事なメニュー画面の開き方ですが、親指と人差し指をくっつけて離す動作をしてください』
そう言うと黒猫は前足でクイクイと彼女の頭を押しながら催促してきた
こちらで動かすときは毎回こうなるのであろうか
少し苦笑い気味に言われた動作をすると眼前に何か半透明の何かがが映し出された
『ただいま眼前に映し出されているものがメニュー画面でございます。上から地図、ステータス、持ち物、装備、スキル、フレンド、メールとなっております。地図は基本貴方様が歩いた軌跡を書き上げていきますので省かせてもらいます。ステータスをタッチしてください』
そう言って催促してくる猫に促されながらステータスの部分に指を持っていく
スマートフォンをタッチするかのような感覚が伝わると画面の上に新たに一枠浮かび上がってきた
『それがステータス画面にございます。上から体力、魔力、筋力、知力、防御力、魔防力、速力、運、技量となっております。今はまだ全て1となっておりますがチュートリアルが終わる頃には反映されるかと思いますのでお待ちください。ここまででわからないことはありますか』
特別おかしな項目もないのでここはスルーしても構わないと判断した彼女は次を促した
『ウィンドウは右上にありますバツ印をタッチしてもらえれば消えますが今回はそのままにしましょう。タッチしながら横に動かしておいてください。はい、では次の持ち物でございます。現在は木の棒を入れてありますのでタッチしながらウィンドウの外までスライドしてもらえれば具現化されます。戻したいときは手で触れながら収納と思ってくだされば判断して持ち物に収納されます。もしくはウィンドウに押し込むようにしてもらっても構いません。ここまでは大丈夫でしょうか』
「取り出すときは思うだけじゃ取り出せないの?」
『できないようにしてあります。万が一もうないアイテムを思い浮かべられましても出すことはできませんのでそういった事故防止のためにその機能は削除いたしました』
『では持ち物欄も横に移動してもらいまして次は装備をタッチしてください。装備項目は頭、上半身、下半身、右腕、左腕、靴、アクセサリーが3つとなっております。装備方法は装備項目をタッチしてもらいまして該当のものを表示したものから選んでもらうか、持ち物からスライドして装備してもらうかの二択になっております。アイテムを出してつけるだけでは能力反映されませんのでご注意ください。逆にアイテムをつけて着飾ることは自由にできますのでご活用ください』
また前足での催促が起こったので装備を試したりアイテム欄から取り出したものを持ったりしてステータスの変動を確かめる
結果は言われた通りであったため先を促した
『ではウィンドウを全て閉じてもらいましてまたメニューを出してください。はい、では次にスキルに移らせてもらいます。スキルは数多あるスキルの中からご自分の好みのスキルをつけることにより個性豊かな育成ができるようになっております。また、その人のプレイスタイルからスキルが進化、結合して新たなスキルになることもございます。スキル枠は当初5つでございますが増やすこともできます。方法はご自分で探し出していってください。またつけられたスキルを外すのは特定のことをしなくてはいけないため取り付けにはご注意ください。ではこの中よりお好みのスキルを5つ選んでください』
その言葉と共に眼前に大きなウィンドウが現れたかと思うとズラズラと書き出されるスキルの数々
百はありそうなその中から自分のスキルを探すのは一苦労しそうである
彼女は考えていた
元から彼女はこういったゲームで自分はこれっといったプレイスタイルを築いてこなかったからである
あるときは大魔道で敵を葬る大火力スタイル
あるときは双剣で敵を蹂躙する軽装備スタイル
あるときは大剣で耐久力を生かしてゴリ押す力技スタイル
あるときは味方の面倒を見る僧侶スタイル
これといってプレイスタイルに拘りのない彼女は選択肢の多さと選べるスキルの少なさに葛藤していた
と言っても大抵の人はここで数時間は悩むのだから彼女に限った話ではないが
だが残念なことにこの子のナビゲーターはマイペースな黒猫ちゃんなのである
『最悪ランダムなる悩みを吹き飛ばす選択肢がございますがいかがでございましょうか』
前足でグイグイとつまらなそうに催促してくる黒猫のそんな一言の後画面の右下に赤く点滅するランダムボタンが現れる
取り付けにはご注意くださいと伝えてきた割にはなんとぞんざいな扱いであろうか
だがいかせんあの少女は面倒臭がりなのである
暫くそれを無視してスキルを見ていたが考えることに嫌気がさしてきた彼女は大胆にもランダムボタンを押したのである
『実際にそのボタン押した子初めてだよ』
なんだか黒猫が素になった気がしたが無視である
そんなことよりも選ばれたスキルである
スキル欄で高速回転していた文字が1つ、また1つと決まるに連れて少し後悔し始める彼女
数多くあるスキルからランダムなど選べばそうなることは必然のようなきもするのだがもう後の祭りである
『では最後にフレンドとメールについて説明いたします。フレンドとは離れていても連絡がとりあえたり、相手の大まかな状態がわかったり、メールを送ることができたりします。方法はフレンド欄にあります申請を相手に触れながらタッチしてもらえれば相手に申請され、相手の了承を確認したのちフレンドになることができます。あの、私にフレンド申請されましても困るのですが』
少しテンションの下がっている彼女は言われるがままの動作をそのまま行っていたため頭の上にいた黒猫に申請してしまったようだ
そして何を思ったのかフレンド申請が通った通知がやってきた
『あ、間違えたし、あ、待って説明終わったから始まりの町に行くんだけどその前にフレンドのか……』
何か黒猫が騒いでいた気がするが四つん這いになった彼女にその言葉が届くこともなく彼女の体は草原から消えて光の粒子となって流れていく
『これはゲームマスターにどやされそうだわ』
草原に残った黒猫は青空を見上げながら1人涙を流すのだった
日向 海恵
ヒムカイ リエ
ステータス
レベル 1
体力 100
魔力 20
筋力 10
知力 10
防御力 15
魔防 15
速力 20
運 35
技量 20
装備
なし
スキル
『早足』1
『蹴り』1
『道具作成』1
『幸運』1
『身軽』1
『加護』1