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2016年12月24日 17時25分

「せっかくのクリスマスイヴなのに、申し訳ありません」


「いえいえ。あなたのような美しい女性記者さんなら大歓迎ですよ」


「あら、そんな」


「いえ、お世辞ではなくね。それに、どうせ私には今日の予定なんかないんですよ。家に帰ったら犬猫に餌をやって、風呂に入り、酒を飲んで寝る。いつもと変わらない日だ」


「そうでしたか。それでは早速、取材に移りたいのですけれど……」


「はい。どうぞ」


「遺伝子工学の権威としてあられます教授が先日発表された新薬『イコライザー』についてお聞きしたいのですけれども、まず『イコライザー』について、私どものような素人や遺伝子工学についての専門知識のない読者の方々にもわかるように簡単にご説明を頂きたいのですけれども」


「そうですね……まず遺伝子というのは人間を構成する全情報の詰まった設計図のようなものでして、親から子へと受け継がれるものです。『イコライザー』はただの薬ーー生薬や化学薬品などではなく、厳密に言えば超ナノサイズのロボットの集合体です。これを妊婦に服用させると胎児の遺伝情報を意図的に書き換えさせることが出来るわけですね」


「はい」


「ただし、これには数多くの人道的、倫理的な問題があります。記憶力や身体能力について書き換えてより優秀な人間を生み出してしまえば、前人類と新人類の間に軋轢が生まれてしまうことは明らかです。だから私はたった一つ(・・・・・)たった一つ(・・・・・)のファクターについてだけ! 書き換えさせることにしたのです」


「それが……」


「『容姿』。特に『顔』の美しさについてです。人間は生まれながらにして『美しさ』というものを知っています。誰に教えて貰わなくとも、世界中の人間は『モナリザの微笑み』の美しさを直感的に理解することができるのです。その秘密は『黄金比』。人が知識無しに感覚で『美しい』と感じる比率のことです。もちろんあなたもご存じでしょうけど……」


「え、えぇ」


「私どもは黄金比によって最も美しいと感じられる女性と男性の顔をデータに基づいて作成することに成功しました。そのデータはナノマシンにインプットされており、彼らは胎児の情報を書き換えます。すると、理想的な美しい顔を持った子どもたちが誕生するわけです」


「なるほど。理解できました。ですが、教授がそこまで『イコライザー』、もとい『容姿』にこだわる理由というのはあるのでしょうか」


「私の顔を見てどう思います?」


「えっ」


「どう思います?」


「どう思います……と言いますと……」


「あなたが私の顔をみて直感的にどう感じるのか、聞きたいのです」


「そう、ですね……特徴的な顔をされて……」


「ブサイクでしょう」


「は」


「ブサイクでしょう」


「は、はぁ……」


「あなたのような美人にはわからないでしょうし、美しい人には美しい人なりの悩みがあるのでしょうけど、ブサイクな顔に生まれた人間は生まれながらにしてハンデを背負っているのです。なんせブサイクには夢見たって決して叶えることのできない夢があるわけです。決して就けない職業があります。例えば『アイドル』。異性にワーキャー黄色い声援を浴びせかけられるようなアイドルなんかになるためには美しい容姿は必須ですよね。彼らは手を振ってやるだけでファンを喜ばせることができる。羨ましいですよ、私らが誰かを喜ばそうとしたならばどれほどの努力が必要になるでしょう。最近じゃあお笑い芸人にしたってスポーツ選手にしたって声優にしたって容姿が良くなければ見向きもされずに大して実力もないカワイイ、カッコイイ人がもてはやされたりするでしょう? あれと同じですよ。それでも実力が無いったってね、成長するんですよ。その内実力はついてくる。でもブサイクには機会が無いんですよ。チャンスが無い。応援ももちろんされません。誰からも気付かれずに消えてゆくだけです。小説家だってそうですよ。この前アイドルが小説を書いたら売れたでしょう。知り合いが言ってましたよ、「応援したいから買うけど読んではない」って。書いた張本人は「読んでもらえなくて悲しい」とかそんなこと言うでしょうけど、誰にも見向きもされずに消えてゆくような人たちが多い中で本を買ってもらえるだけいいですよ。贅沢な悩みです。そう思いません? 本の帯に自分の写真載っけるような小説家は全員ナルシストです。お聞きしたいんですけれどもね、容姿の美しい人になれなくてブサイクにしかなれない職業なんてあります? ありませんよね。ありません。美しい人には美しい人なりの悩みがあるなんて言ったってそれでもブサイクに生まれてくるよりは良いと思いませんか? 容姿が美しく無いばっかりに誰からも愛されない人生。私なんかこの前デパートで迷子の子どもをインフォメーションセンターに連れて行こうとしただけで通報されましたよ。私がこんな醜い容姿をしているばっかりに! 泣いている子どもに手を差し伸べてやることもできないなんて! ご理解いただけますかね。『容姿』は人生、人格形成において特に重要なファクターです。子どもは生まれてくる時代、国、両親、経済状況を選べません。私たちでもどうしようもない。しかし! しかしですよ。この『イコライザー』があれば『容姿』についてだけは! なんとかしてやれることができる!」


「はぁ」


「私はですね、真剣に『世界平和』について考えているのですよ。『容姿格差』を無くす。ブサイクが爪弾きにされるような世界を無くしたいのです。誰もが誰かを愛し、愛される世の中。そうすればイジメも、戦争だってきっと無くすことができます。世界中の誰しもを見目麗しく! そうすればきっと、世界は美しく優しい、まるで理想的な世界になるはずです。そのために私は『イコライザー』を開発しました。この新薬を世界中に広めるためなら、私は私財を全て投げ打ちます。私のこの考えに共感を頂けるような方がいらっしゃれば、スポンサーになって欲しいと考えています」


「はい」


「私は私のようなクソブサイクで誰からも愛されないクソみたいな人生を送る者を今後減らしたいのです。『イコライザー』が世界をきっと変えます。スポンサー募集についてはしっかり書いておいてください。世界中の人々が超低価格でこの薬を買えるようにしたいのです」


「わかりました。載せましょう」


「よろしくお願いします」

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