同年同日 18時47分
そこに居る皆が一箇所を見つめていた。その両の瞳にはイルミネーションの光の粒が写っている。
広場の中央に鎮座するのは、国内有数の大きさを誇るクリスマスツリーだった。遺伝子を改良され、短期間でその種の限界の大きさまで成長した木は、その域を突破して今もなお大きくなり続けている。
その木の枝々を飾るは最新の電飾である。かつては有線でひとつなぎになっていた電飾も、今や一つ一つが独立しており、昼間の内に各々が外の光を蓄え発電し、夜には勝手に光るようになっている。それぞれにはナノチップが組み込まれ、プログラミングされた通りに連動して光る。今は水が流れるように青く、グラデーションを見せながら発行した後に黄金色に一瞬、強く光るようになっている。
皆がその天の川を纏ったかのようなツリーに見惚れている中で、少し離れたベンチに座り、一人神妙な面持ちでツリーを見つめる男が居た。黒い革のジャンパーはビンテージもの、履き古し小さな穴が幾つかあるジーンズ。無骨な焦げ茶のブーツを履き、赤いマフラーを巻いていた。無造作に伸ばしたくしゃくしゃの髪に、無精髭。老けて見えるが、まだ若かった。男はツリーを眺める人々を遠巻きに、一点にピントを合わさず、その風景をぼんやり眺めていた。
男の目に、異質なものが映った。小さな子どもが、泣いていた。女の子だ。歳は五つほど、両手で目を押さえて泣いている。周りの人々は皆ツリーを見上げているし、クリスマスソングが盛大に流れているので誰も気が付かない。
男はのそりと立ち上がると、ゆっくり子の元へと近づいていった。すぐ近くまで来て、ゴツ、ゴツという足音に気付き、子は男を見上げた。
「ようお嬢ちゃん。何泣いてんだ……よしよし。迷子か」
しゃがみこんだ男は子の顔を走る、二つの涙の轍を両親指で拭った。子はキョトンと、男を見ている。
子はまるで、西洋画の天使のような顔をしていた。金色の髪に、大きな目。真っ白な肌に、ふっくらとした頬。将来美人になることが約束されているような顔立ちだ。
子が見つめる男もまた、歴史に名を残した英雄が目一杯美化されて描かれたかのような精悍な顔をしている。真っ直ぐに生え揃った眉のすぐ下に両眼があって、眩しそうに細めている。
「大丈夫。今お前の両親も、必死にお前を探してるだろーよ」
「アンナ!」
声がした方を二人が見ると、駆け寄ってくる女が居た。涙を浮かべた金髪の女は、さながら女神のような美しさだった。
「ママ!」。子は駆け出して、これ以上ない絶妙なタイミングで女はしゃがみ、抱き合った。美しい親娘のツリーを背景にした再会は、涙もろい人なら簡単にホロリとさせるドラマチックなシーンとなった。
抱き合った二人が男の方を見ると、彼はもう立ち上がり、ポケットに両手を突っ込んで立っていた。
「よかったな、嬢ちゃん」
「すみません、ご迷惑をおかけしました……」
「ちゃんと手を繋いでいてあげてください」
男はそう言うと、踵を返した。
「お兄ちゃん」
子の声に、男が顔を向ける。
「ありがとう」
小さな声は、男にはっきりと届いた。
男は少し微笑んで、後手に手を振って人混みに消えた。




