2076年12月24日 17時25分
夕暮れに染まる海沿いの遊園地はたくさんの人で賑わっていた。日曜で、ましてやクリスマスイヴ。家族連れも、友人達で集まる若者の集団も、恋人同士も。みんな『幸せ』を体現化したかのような混じり気のない純粋な笑顔で、そこかしこを行き交っていた。
クリスタルで造られたみたいな透明な観覧車。虹色の光が骨格の中を隅々まで走るそのアトラクションの、外枠に取り付けられた十二の籠。その内の一つーーちょうど今時計で言うところの八時の位置を過ぎた所にあるそこーーに彼らは居た。
若い男女の恋人同士だった。カーキのロングコートを着た大柄な男は彫りの深い、まるで西洋の彫刻のように整った顔立ちをしている。その表情は緊張で強張り、固まったように外を眺めていた。女の方はというと、こちらも綺麗な顔をしている。濃く太い眉に、ぱっちりと見開かれた宝珠のような眼からは意思の強さを感じさせる。鼻筋はすっきりと通り、その下には薄い唇があった。
「ねぇ」。耐えかねたように、女が口を開いた。
「ん、なんだい」
男はハッ、と女を見た。
「高い所ニガテ、って。さっき言ったでしょ」
「あっ、そうだったね」。男はそう言うと立ち上がって、籠の入り口近くのつまみを回した。すると、それに連動して透明な籠の下部の光が強まる。高い所を好む人はこのつまみを逆に回せば、透明な部屋の中でのスリリングな一時を楽しめる仕組みになっている。
元の位置に戻ろうとする男のコートの裾を、女が掴んだ。女は、無言で男を隣に座らせた。
「まだ怖い?」「怖いわ」「でもこの観覧車の素材、ダイヤモンドより硬い素材だぜ」
「そういう問題じゃないの」。女は少し男を睨んだ。彼の鈍感さを、憎く思った。
男も流石に空気を読んで、女の手を握る。暖かさを感じ合い、視線を合わせ、無言で意思を交換する。
籠はゆっくりと、十一時の位置まで来ていた。
男はそれに気が付くと、後ろを振り返るように外を見た。そして、女に笑顔を見せた。
「外。観て」
女を促して、二人で外を見る。
そこには、眩いオレンジ色の光を一杯に放出させ、海に落ちてゆく夕陽があった。雲一つない空は一面に染められ、眼下の海原では星を撒いたかのように波がキラキラ輝いている。
視界いっぱいに広がる絵画のように良くできた光景に、女は息を呑み、思わず熱い涙を流した。男はそんな女の横顔に見惚れている。
「キレイ……」
「きっとこれを二人で見ようと思っていたんだ」
両の瞳に涙を張らせた女は、男を見た。
「結婚しよう」
コートのポケットから取り出した小箱を男が開くと、中には自ら発光しているかのように煌めくリングがあった。涙越しに見た女の目には、光はより大きく見えた。
「……えぇ、もちろん」
震える左手を差し出す女に、男はそっと指輪をはめてやった。白く、まるで雪でできているかのような手にーーその薬指に指輪は、そこに在るのが最もその指輪にとって相応しいとでも言うかのように、強く光を発散させていた。
「愛してるよ」
「私も……」
籠の中で、二人は抱き合った。籠の下部では、常に光が極彩色に色を変える。
二人はまるで、虹の原で抱きしめ合っているかのようだった。




