気動式重巡洋艦(スピリットヘヴィークルーザー)妙高7式
「合同軍事演習⁉︎」
竜太は思わず叫んでしまった。その理由は簡単だ。そもそも軍事演習なんてやらない。軍事演習で海に出ようが、陸地に行こうが、そこはリアル戦場だからである。
「演習というか、共闘ということになるよな……」
竜太が思わずそう呟くと畠山は頷く。
「そうだが、表向きは演習って事になってる」
「どっかの軍の気動式兵器でもブッ壊すのか? ……例えば共通の敵の第3極東軍とか?」
「たぶんそうだろう。あそこは最近分かったことだが、気動式駆逐艦レベルの気動式兵器を沢山作ったらしいからな」
竜太と風華の飛行中にも幾度もなく第3極東軍の原子力機はレーダーに入り込んできた。
しかし、気動式兵器の出す気力反応は、未だ探知したことは無かった。もし本当に対第3極東軍艦隊であれば、2人にとっては初めての気動式兵器との戦いとなる。いくら駆逐艦レベルだと言っても、やっぱり多少の不安が残る。そんな竜太の気持ちを察したのか、畠山は
「中島副司令も認めた自分の腕を信じるんだ。それに駆逐艦レベルなら良い練習台になるだろう」
と言ってくれる。その気遣いに感謝しつつ、竜太は笑顔を浮かべて風華をチラリと見てから、
「必ずや殲滅して来ます!」
「フフッ、頼もしいな。くれぐれも敵には注意するんだぞ」
「「はい!」」
そう2人は元気よく返事するのであった。
『……こちら第4極東軍、気動式重巡洋艦「妙高7式」。そちらは第8極東軍、気動式飛行要塞、「黒鋼」「舞桜」か?』
「はい、今日はよろしくお願いします」
日本海上空、合同軍事演習という表向きで「黒鋼」「舞桜」の2機は飛行していた。
海洋上には全長416m、全幅38m、第4極東軍、気動式重巡洋艦「妙高7式」。第4極東軍のナンバー2の気動式艦だ。
するといきなり、
『前方、4700m先、艦影多数発見!気力反応から気動式駆逐艦と見て良いでしょう。恐らく第3極東軍と思われます』
風華からその一報が入り、雰囲気がより緊張感を漂わせている。恐らく、もう向こうも気づいているだろう。
『これから『妙高7式』、前衛に出る。『黒鋼』『舞桜』は後ろから援護してくれ…』
「了解、『舞桜』、推進ブースターを停止。着水するぞ」
『了解』
推進ブースターが停止し、ゆっくりと黒鋼と舞桜が着水すると、2機の速度が遅くなり、相対的に加速した妙高7式がその速度に勝ち、妙高7式は前に出た。
全長416m、全幅38mの巨体が豪快に水飛沫を上げながら2機から離れていく。
「よし、俺たちも……推進ブースターを出力80分の1だ」
『了解』
妙高7式に合わせてゆっくりと前進を始めた2機に妙高7式から、
『これから攻撃態勢に入る。合図を出したら一気に飛び立て! それから装備展開だ!』
竜太は操縦桿を握り直した。冷たく、硬い感触が伝わってくる。これだけ緊張するのは初めて『黒鋼』を動かした時以来だろう。大きな深呼吸を一度すると、竜太は改めて前を見直す。
「……?」
そこで初めて竜太は異変に気付いた。妙高7式はもう1000m近く前を行っている……が、
……いつまでたっても砲撃が始まらない⁉︎
何故だろう。もう駆逐艦とは目と鼻の先のはず……それでも砲撃が始まらない、ということは……!
「風華っ! 推進ブースター、フルパワーだ! 早くしろ!」
『え?どうして? ……命令外だよ?』
「急げっ! 早くっ!」
『……了解!』
ポカンとしていた風華だが竜太の様子からただ事ではないことを悟り、そう答えた、その瞬間、一筋の光線が黒鋼と舞桜を襲った。
海面が爆発したかのように何十mもの高さの水柱が立つ。その中から黒鋼と舞桜が水を切り裂くように飛び出した。砲撃を危機一髪、躱す事が出来たのだ。
「妙高7式……味方、という事がそもそも虚の情報だったか……」
『お兄ちゃん、さすが! お兄ちゃんが気づかなければ、私達今頃死んでたね』
今の攻撃は高レーザー砲によるものだ。レーザー砲の中では一番の威力を持つ。その威力は武装展開していない気動式兵器なら破壊可能なものだ。
そして、それを撃ったのは妙高7式だった。それは第4極東軍の敵は第3極東軍ではなく、第8極東軍だったということだ。また第8極東軍は騙されていたということでもある。
「っ! ……全武装展開! 攻撃体制に入るぞっ! ……風華は駆逐艦を殲滅してくれ、俺は妙高7式の相手をするっ!」
『了解!』
舞桜は更に加速して駆逐艦の排除に取り掛かる。
「さぁ、始めようか……全装備展開ッ!」
黒鋼の翼や胴体の表面に高レーザー砲26、超磁力ミサイル16本を始めとする大量の砲口が露出する。
「対象。妙高7式、他駆逐艦。1番から8番、空対艦超磁力ミサイル発射ッ!」
黒鋼の胴体の側面から空対艦ミサイルが次々と発射され、炎を吹きながら一直線に妙高7式へと向かって行く。
しかし、相手は気動式重巡洋艦。ミサイルはすべて、高レーザー砲によって迎撃され、妙高7式の元には至らなかった。そしてミサイルを撃ち落とした妙高7式の高レーザー砲が黒鋼にも襲いかかる。
……が、その砲撃は黒鋼の目の前で見えない壁にぶつかったかの様に跳ね返された。
黒鋼が迎撃したのではない、また舞桜が迎撃したわけでもない。高レーザー砲を防いだのは気力シールドだ。
気力シールドとはその名の通り、気力を応用したシールドである。気動式飛行要塞を含む気動式兵器は武装展開時には自動的に気力シールドがその表面に張られる。よって高レーザー砲による砲撃でさえも武装展開時には気動式飛行要塞には豆鉄砲と化してしまうのだ。
しかし、妙高7式は通じないのが分かっているはずなのに、ひたすら高レーザー砲を撃ってくる。その砲門は駆逐艦を次々と排除している舞桜の方にも向いている。
「もうそろそろ、終わりにするか……」
竜太はそう呟くと、
「潜水ッ!」
黒鋼は再加速をかけつつ、海中に向かって斜めに突っ込んだ。その勢いで水柱が立ち、妙高7式も少しグラつく。黒鋼は装備展開中だが、気力シールドのおかげで装備は無傷だ。
「超気力砲ッ! 準備ィ!」
竜太の叫びと共に黒鋼の先端のハッチが開き、ほかのとは比べ物にならないほどに巨大な砲口が頭を覗かせた。
海底500m程まで潜水していた黒鋼は機首を上に向けて再浮上する。
「照準、妙高7式に固定! ……超気力砲ォ! ……」
超気力砲の中心に青白い光が集まっていき、その光がどんどん眩しく、大きくなっていく。
「……掃射ァッ!」
光の砲撃が黒鋼の先端から掃射される。妙高7式も下からの攻撃を読んで気力シールドを二重、三重に重ねていたが、超気力砲はそれをも突き破り、それどころか妙高7式の艦自体をも貫通した。
青白い光の柱が一瞬、妙高7式から上がったように思われた瞬間、耳を劈くような爆音が轟いた。舞桜の攻撃によって破壊された海洋上の駆逐艦の残骸は爆風で吹き飛ばされ、大波が荒れ狂う。
「風華ッ! そのまま退散だ!」
『了解!』
煙の中から出てきた黒鋼と舞桜はそのまま基地へと戻るのであった。