気動式飛行要塞操縦士
「それでね、お兄ちゃんがね、こう……バキューンってレーザー撃ってね。向こうは何もできずにドッカーンだよ!」
基地内の竜太と風華用の居住スペースで風華は大袈裟なジェスチャーで、整備を終えた老人ーー畠山浩司に竜太の活躍をペラペラと話している。
「そうか、そうか」
畠山は親のいない風華と竜太をまるで孫のように扱ってくれており、現に畠山は笑顔で風華の話を相槌を打ちながら聞いてくれている。
「竜太も凄いな。流石、第8極東地区の期待の操縦士だな」
「じーさん、そんな凄い事じゃない。そんなに褒めないでくれ」
竜太はちょっと眉を寄せて困ったような顔をする。すると風華は竜太に近寄っていって、竜太の右手を自分の両手で包んだ。
「私は強いお兄ちゃんを持って幸せだよ! これからも強くいてね!」
「しっ……知らん!」
可憐な笑顔を浮かべる風華に言われて、少し照れてしまった竜太はつい、ぶっきらぼうな言い方で返してしまう。
そんな竜太を見て畠山はフフフッと笑って
「竜太はツンデレなんだなぁ、風華。安心しろ。竜太もお前の事が大好きなんだよ」
「ちょっ……そっ、そんな事にゃいっ!」
思いっきり噛んでしまった竜太に畠山は意地悪そうな顔をした。
「図星のようだな。竜太」
竜太がその言葉にグヌヌと歯軋りしていると
「お兄ちゃん? これはプロポーズでしょうか?」
風華は顔を赤面してとんでもない事を言っている。
「ンなわけあるか⁉︎」
竜太もつい赤面して返してしまう。するとまた畠山が
「ハッハッハ、2人は将来結婚だな!」
なんて余計な事を言いやがった。なんでこんなに人を弄りたがるんだ? このじーさんは。
そんな俺の思いなんかには目もくれず、畠山はそれに拍車をかけるように快活に笑っている。
「結婚っっ⁉︎ ……しゅぅぅう〜」
結婚という言葉に顔を更に赤くして風華はそのまま後ろに倒れてしまった。竜太は咄嗟に風華を抱きとめる。そして目線を畠山に向けた。
「あんまりからかうのは止めてくれないか?」
「はいはい」
畠山はそう答えると立ち上がって自分の部屋へと戻っていった。ほんとに調子の良いじーさんだぜ。
竜太は風華をお姫様抱っこしてソファーに優しく寝かせてやった。
……それにしても久しぶりだな。こうやって機械を通さずに、直接人と話すのは。
竜太は気まぐれに部屋の中を見渡した。この部屋ではあまり過ごしていない事もあって、ベッドやテレビぐらいの最低限の家具しか置かれていない。この部屋の様子は殺風景という言葉が似合うのかもしれない。
竜太はそんな部屋の1箇所に1枚の写真が白い額縁に入れられて飾られているのを見つけた。
竜太は写真に近づき、写真を手に取った。まだ幼い顔つきの風華と竜太が気動式飛行要塞の前でピースしている写真である。この頃は気動式飛行要塞の操縦士を目指していたっけ。
その夢を叶えることに成功した時は嬉しかった。竜太の脳裏に操縦士に決まった時の記憶が思い出される。
「ーー今夜は大切な報せがある」
第8極東軍総本部航空部隊副司令官、中島麻由里からその一報が入ったのは、今から2年前、竜太が15歳の時、そして竜太が軍に入ってから5年ほど経った頃だった。
中島麻由里は気動式飛行要塞、第1号機『日の丸』の操縦士に19歳の時に選ばれた秀才で、21歳で操縦士を引退してからは指導側に徹底している。
そんな有名人が竜太に用があると言われても、一体それが何なのかは分からなかった。
竜太は疑問に思いつつ、副司令室の扉を叩いた。
「呼ばれました、白羽竜太です!」
ドアの前で竜太がそう叫ぶと、中から
「入れ」
と声がした。竜太はその口数の少なさから副司令は怒っているのではないかと思い、ビクビクしながらドアの内側へと足を踏み入れた。副司令室では革製の椅子に32歳の中島麻由里が腰かけ、足を組んでいる。
「用とは何でしょうか……」
竜太が未だビクビクしながらも聞くと、中島麻由里はクールに微笑んでから、椅子から立ち上がり、竜太の前まで歩いてきた。そして竜太の肩に手を置いて、
「朗報だ。安心しろ」
そう声をかけてから、奥の椅子に座るように竜太に促した。竜太はそれに従って椅子に座った時、副司令室にもう1人がやってきた。
それは……
「……風華⁉︎」
竜太の2歳年下の妹の風華だったのだ。風華の方も意外だったらしく、目をまん丸に見開いている。おそらく風華も自分と同じように副司令に呼ばれたのだろう。風華も怒られるのかと思っていたらしく、足がぷるぷると震えている。
「白羽風華も座れ」
不思議そうな顔をしたままの風華に中島麻由里はそう命令すると、自分は竜太の相席に腰を落とす。風華も椅子に付くと、中島麻由里は話を切り出した。
「まず、これを見ろ。前の能力テストの結果だ」
そう言って2人の前に紙を差し出した。
能力テストとは、気量や飛行技術、気制御力から忍耐力に至るまで、色々な項目をテストしたものである。
風華の成績は、気量91/100、飛行技術87/100、気制御力98/100。総合順位は2位。優秀すぎる能力である。
一方、竜太は、気量97/100、飛行技術100/100、気制御力88/100。総合順位は1位だった。
この結果には風華、竜太自身でも驚いた。確かに手応えはあったが、まさかここまでとは思わなかったのだ。
「白羽兄妹。君達は3位と大きい差をつけて1位、2位を取り続けている。これは君達が本当に優秀である証拠だ……そこでだ」
中島麻由里は2人に真剣な眼差しを向けて、
「白羽竜太、白羽風華。この2人を気動式飛行要塞操縦士に任命する」
2人はポカンとしてしまう。いきなりすぎて脳が追いついていかないのだ。
「返事!」
中島麻由里はぽかーんとしている2人に喝を入れる。
「はっはいぃ!」
「ありがとうございますぅ!」
と2人は返事するのであった。
こうして竜太と風華は気動式飛行要塞操縦士となった。
……そしてそれから2年が経つ。この2年間、極東地区の色々な敵と戦ったが、極東地区にはそもそも地下資源に乏しく、大型の気動式兵器とは未だ遭遇していない。そのため、幸いまだ命は失わずにいる。
……と竜太が過去に思いを馳せていると、
「お兄ちゃん。もうそろそろおやつ食べよう!」
いつの間に回復したのか、風華が後ろから竜太に抱きつきながらそんな事を言ってきた。
「……! 身体は大丈夫か?」
「? どういう事?」
竜太が風華の身体を気遣ってそう言うが、風華は首を傾げている。どうやら、ショックで記憶が一部吹き飛んでいるようだ。思い出してまた倒れると困るので、竜太は
「いや、何も……」
とだけ答えて、話題をそらすため、
「おやつだったな。この部屋には食べ物すらほとんど無いから基地内のコンビニに買い行くか」
「うん!」
竜太と風華はそう話してから部屋を後にしようと出入り口へと向かうと、2人が出入り口に辿り着く前にドアが開いた。
「? ……じーさん。なんか用か?」
そこにはさっき部屋を出て行った畠山がいた。そしてシワシワの口を開いて、
「さっき、言い忘れてたんだが、今度第4極東軍との合同軍事演習があるらしい」
「……合同軍事演習⁉︎」