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欲しいのは愛する君を守る騎士の称号

 自分の称号を見て、称号を手に入れる条件を考えた。

 まず、一番わかりやすいのは、「○○の天敵」称号だろう。

 同種族の魔物を倒しまくったらいいのだ。ただし、数は種族によって違うらしい。この称号の利点は、変身することも可能だということ。


 二つ目に、記録に挑戦すること。

 例えば、スキルや称号、変身できる種類の数、MAPを全部埋める、アイテムBOXに入れているお金の金額など。小金持ちがあるのだから、金持ちや大金持ちの称号もあると思うのだが、いかんせん、魔物では金を入手する手段が限られる。人を襲ってお金を得るなど論外だ。これがゲームの中なら魔物を倒したらお金がもらえたりするのだろうが、それもない以上、お金を稼ぐのは難しい。


 三つ目は状態異常になること。

 記憶喪失、毒持ち、暗闇持ちのスキルを僕は持っている。

 状態異常の数だけ称号があるとするのなら、麻痺持ちや沈黙持ちなどの称号もあるはずだ。だが、リスクはもちろん高い。沈黙状態になった場合、僕は治療魔法が使えなくなるから、自然治癒ができないのなら一生魔法が使えない状態になるだろう。


 四つ目はいろいろな行動をしてみる。

 これは運任せだ。だが、木登り手習いがある以上、木を登ることで覚えられる称号は他にもあるだろう。もちろん、無駄に終わることのほうが多いと思う。普通に生活していて覚えられる称号というのは意外と少ないように思われる。

 僕よりもはるかに長い時間生きている妖精のフレーズですら、称号は7個しかなかった。

 しかも、うち3個は負け続けたことによって得られた称号だ。


 この中で僕が選んだのは三つ目の状態異常だった。

 幸い、鑑定レベルが上がったおかげで、レア度2までのアイテムなら鑑定できる。

 その上で、状態異常になるキノコをあらかじめ採取してアイテムBOXに入れてある。

 麻痺・沈黙・混乱・猛毒の四種類。猛毒は危なそうだけれど、麻痺になった魔物を見た感じだと動きが制限される程度だし、麻痺持ちから入手したいと思う。麻痺持ちで入手できるであろう麻痺攻撃のスキルはすでに入手しているのだが、それでもスキルのレベルアップは見込める。


「……とりあえず、安全な場所を確保しよう」


 独りごち、始めたのは家作りだった。

 適当な崖を見つけて、


落穴ピット!」


 土魔法で横穴を掘っていく。

 下に向かって掘るのも考えたが、それだと雨が降ったときに不安だからな。

 まぁ、そうなったらそうなったで、魚や蟹に変身して脱出できるけど。むしろ、水の中のほうが安全かもしれないけど。


 入口を、採ってきてアイテムBOXの中に入れていた草で覆い、さらに奥を掘り進める。


 だだっ広い空間ができた。

 当然薄暗いが、たき火などをして一酸化炭素中毒になったら大変だから、ここは我慢だ。


 ……光魔法でも入手しようかな?


 いや、やっぱり我慢しよう。


 そして、僕は小さく息を吐き、アイテムBOXから、パラライキノコを取り出す。

 これを食べると麻痺状態になるはずだ。


 僕はそのキノコを一気に食べた。


 と同時に、体がへばる。

 ん、これは結構きつい。動けないというよりかは、動きにくい、そんな感覚だ。

 足がしびれたような感覚とは違い、体の感覚がひどく薄い。自分が立っているのか立っていないのかもわからない。

 まぁ、実際は這いつくばって生きているわけだけど。


 こんな状態のまま時間が過ぎるのを待つわけか。これはつらいな。


 索敵スキルを使って、誰かこないように祈りながら僕はひたすら待ち続けた。


【称号:麻痺持ちを取得した】

【スキル:麻痺攻撃のレベルが3に上がった】


 よし、来たぞ!


「キュア!」


 急いで魔法で回復。体に自由が戻った。

 ふぅ、結構つらかったな。今更ながら、リベルテの暴食のスキルが羨ましい。


 体感だが、25分くらいで入手できた。

 沈黙は無理だな。沈黙を治す方法がない。キュアが使えなくなるし、そもそもキュアで治療できない可能性もある。


 ん? ちょっと待てよ。


 僕は思い出した。

 あの時だ。リベルテのスキルをチェックしたときだ。

 神に邪魔されてしっかり考察してなかったけど、消化促進というスキルがある。


 確か、消化促進の名前は低いスキルポイントで覚えられたはずで、食事による状態異常を一定時間で解除するスキルだ。


【スキルポイントを3支払い、消化促進を取得しますか?】


 よし、来た!

 YESだ。


【スキル:消化促進を取得した】


 これで、沈黙状態になっても一定時間で解除できるはず。

 僕はアイテムBOXから、「サイレンスマッシュ」を取り出した。

 マッシュルームのように白いキノコを齧る。


(あ、けっこううま――って喋れないのか)


 状態異常沈黙。魔法が使えないだけではなく、言葉を発することができない。

 まぁ、会話する相手がいないから別にいいんだけどね。


 じゃあ、ちょっとだけ寝るか。

 最近、良い夢を見てないからな。そういえば、良眠スキルを取ったあの日だったか、ノーチェの夢を見たのは。

 

   ※※※


 エルフの森は、昔は時止まりの森と呼ばれていた。

 エルフは一定の年齢になると、まるで時間から取り残されたかのように年老いないことから、その名がついた。


 それでも、本当の意味で不老である種族からしたら、エルフは異なる。

 例えば、妖精族は年老いないし、ずっと幼い姿をしているから、本当の意味で時間から取り残されたのは妖精族のほうだろう。妖精族とエルフとは仲がいい。近年、人間による誘拐事件により妖精の人数が激減しているが、永遠の時間を生きる彼女達にとっては誘拐事件ですら一つの遊びであるらしい。


「でね、リベルテったら私の部屋のキノコ全部食べちゃったのよ」


 なんだ、フレーズか。夢を見て、僕が思ったのはそんな感想だった。

 フレーズの夢なんて誰得だよ。てか、配下でも主でもないフレーズの夢を何で見てるんだ?

 それにしても、ベッドとテーブル、椅子だけの部屋か。面白味のない部屋だな。

 と思ったら、


「そうなの。楽しい子ね、リベルテちゃんって」


 天使の声が聞こえた! フレーズが妖精だとしたら、まさにその声は天使の声だ。

 ノーチェ。エルフの少女、僕の永遠の想い人。


 童の心と書いて憧れと書くのだから、僕は彼女のことを思う限り、ずっと心は子供のままだろう。

 てか、え? ノーチェとフレーズって友達だったの?


 あぁ、友達だったんですか。うん、夢だけれども情報は頭の中にしっかりと入ってきた。

 フレーズはエルフの森に時折訪れては妖精蜜を卸すらしい。

 その期間は100年にも及び、ノーチェのことは彼女が赤ん坊の時から知っているそうだ。

 最近は対等の友達として接しているらしい。


「でもさぁ、驚いたわ。ヴィンデの名付け親がノーチェだったなんて」

「うん、私も驚いた。ヴィンデさんの夢はたまに見るんだけど、実際に会ってないから心配だったの」


 そうか、ノーチェは僕のことを心配してくれていたのか。

 それだけで元気100倍になる、と同時にノーチェに心配をかけた僕自身を恨み殺したくなる。


 ってあれ? もしかしてここ、ノーチェの部屋?

 ベッドとテーブルと椅子しかないけれど、うん、すっきりしていてとてもいい部屋だな。

 心が綺麗だと部屋もこんなに綺麗になるのか。


「悪いことは言わないわ。ヴィンデとは友達の縁を切ったほうがいいわ。あいつ、性格悪いもん」


 フレーズがそんなことを言い出した。よし、フレーズ。次会ったら半殺しにする。

 そんなことないよ、僕ほど紳士なファイヤーサラマンダーは他にはいないから。絶対に浮気なんてしないし。


「そんなことないですよ」


 ノーチェがすかさず否定してくれた。フレーズへの殺意が霧散し、同時に彼女を好きになってよかったと心から思えた。


「私のことを助けてくれましたし――それに――」


 それに?


「私は【称号:沈黙持ちを取得した】【スキル:沈黙攻撃を取得した】【スキル:良眠のレベルが3に上がった】」



 うるせぇぇ、大事なところが聞こえないだろ!


 飛び起きたら、僕は自分で掘った穴の中にいた。

 テーブルも椅子もベッドもない、面白味のない部屋だ。


 こんなことなら寝る前に叡智をOFFにしておくんだった。

 沈黙はまだ解除されていない。


 もう一度寝るか。

 と思ったが、すっかり目が覚めてしまった。

 それにしても、フレーズと別れたのは10日ほど前。エルフの森の位置から考えると、今の夢はリアルタイムか、それに近い時間じゃないだろうか?


 強く――強くならないと。

 時間がもったいない。


 僕は穴から飛び出した。

 穴の外は雨が降っていた。

 その中で、僕は力の限り叫んだ。

 沈黙のせいで音はでないけど、心の叫びはおそらく大陸中に響いただろう。


 そのせいか、遠くから黒い気配が近付いてきた。

 僕は巣穴の中に急いで戻り、震えて気配が去るのを待つ。

 暫く動けなかった。


 沈黙が治ったのは、それから1時間のことだった。

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