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さよならリベルテ

 スライムにとって、核が傷つけられるということは、命を失うのと同じだ。


 リベルテのHPが半分になっている。核が2つあって助かったようだ。

 エグジルも苦肉の策だったらしく、奴のHPも大きく減っている。

 が――もう一度使うようだ。

 口を開けている。


土壁アースウォール!」


 針を放たれる前に俺はそう唱えた。同時に、砂の中から砂の壁が現れた。

 やば、厚さ20センチはある壁なのに貫いてやがる。なんて威力だ。


 そして、僕は大きく息を吸ってその土の壁の上に飛び乗った。


 二度の針攻撃により、エグジルのHPは大きく減っていた。

 これならいける! 僕は口から火の息を吹きだし、さらに、


着火ファイヤー!」


 自分の尻尾に炎を点火し、その尻尾でエグジルの脳天に打撃をくわえた。

 すると、エグジルはその姿にも似合わぬ「きゅぅぅ」と可愛い鳴き声をあげて、横転した。


【経験値120取得】


 HPは0になっている。死んでいる。


「待ってろ! リベルテ! 今治療をす――ってあれ?」


 リベルテがいない。まさか、エグジルと戦っている間に、他の奴に!?

 そう思ったら、リベルテは喜びエグジルを食べていた。


「……元気そうだな。二人で食べるか」


 リベルテにかじられたエグジルだったが、結構な量があった。

 とりあえず、塩胡椒を振ってから焼いて食べようと言ったところ、リベルテも賛成。


 味は焼き海老に似てとても美味だった。


 見た目はグロテスクだけれども。

 リベルテも元気に食べているようだけれども。

 でもHP半分減ってるんだよな?


「ヒール!」


 回復魔法をかけておく。

 だが――リベルテのHPは半分減ったままだった。

 魔法が失敗したのか? とも思ったが、僕のMPはきっちりヒール1回分減っていた。

 ということは魔法は発動しているはずなのに。


「ヒール!」


 もう一度唱えるもリベルテのHPはちょうど半分減ったまま。欠けた核も回復する兆しがない。

 これって、どういうことだ?


   ※※※


 海岸に来て3日が経った。

 リベルテの片核は治る気配はまるでない。ちなみに、マウントシェルは食べつくし、僕のレベルは13にまで上がった。

 リベルテはというと、僕が作った簡易の家の中でキノコ栽培を始めた。

 流木を集めて来て、それを家の中にいれ、そこに胞子を撒く。

 なんと2日目で椎茸ができた。


 椎茸の出汁の魚鍋は絶品だった。


 だが何を食べてもリベルテの片核は治ることはなく、彼のHPも半分減ったままだった。


 その日の夜。


「困っておるようだな」

「うわ、出たっ! 幽霊ぃぃぃぃぃっ!?」


 僕はこの世界に来て5本の指に入るんじゃないかというくらい驚いた。

 僕の前足の指の数は4本だけど。まぁ、後ろ足の指の数は5本なんで、5本の指でいいよな、ってくらい驚いた。


 なぜなら、そこにいたのは死んだはずのアトラスだったから。

 いや、もともと生きていなかったんだけど。


「幽霊ではない。ほら、見ろ! しっかり足があるではないか!」

「え、本当にアトラスなのか?」

「そうだ。お主が困っていると言うのでやってきたわけだ」

「待て、お前は死んだんじゃないのか?」


 そうだ。アトラスはアトランティスの遺産とともに爆破消滅したはずだ。


「ん? あれはワシを戒めていた従来のシステムから解き放つための手段であって、自殺などではない」

「……これで眠れるとか、最期の友だとか言ってただろ?」

「どうもあの部屋は暗すぎて寝心地が悪かったんじゃ。あと、最後の友というのは、まぁ、なんじゃ。こんな体だし、今後友達ができないだろうなぁと思っての」


 紛らわしすぎるわこのジジイ!

 僕のあの時の感傷を返せ!


「にしても、よく僕が困ってるとわかったな。それもアトランティスの技か?」

「いや、そうではない。リベルテじゃな。そなたの片核を治す。ついてこい……朝ごはん? 何を寝ぼけて、ん? 寝ぼけていない? 全く、聞いた通りのふざけたスライムじゃな」

「アトラスはリベルテの言ってる事がわかるのか?」

「ん? ヴィンデはわからんのか。まぁ、スライムの伝達方法は音ではなく思念だからな」


 わからないわ。思念を感じ取るってエスパーかよ。

 と思ったが、なんでも、スライムには思念を発する器官が存在するらしい。人間や僕の思念は自分の中で完結しているから、流石にアトラスでもわからないそうだ。


 リベルテは自分のキノコを食べて、少しだけ腹を満たすと、アトラスと一緒に三人で海岸へと向かった。


「で、リベルテを治してくれるのか?」

「ワシは無理だ。そもそも、リベルテの今の状況は、部位欠損。片腕が無くなった人間のようなものだ。並大抵の治癒魔法や薬では治療できん。伝説の秘薬、アルティメットポーションやエリクシールなどがあれば話は別じゃが」

「ないのか?」

「ない」


 きっぱりと言い放つアトラスに、僕は流石に覚悟した。

 僕の尻尾じゃあるまいし、確かに核や片腕が簡単に再生できるはずないよな。


「じゃが、治療できる者がいる。ワシをここに連れてきたのもそやつだ」

「え? そんな凄いやつが」


 そして、アトラスが海を見た――静かな海面を。

 その時、気配を感じた。


 懐かしい気配だ。


 そして、そいつは海面に顔を出した。


「アロエ!」


 そう、メディシンフィッシュ「アロエ」。

 僕の最初のパートナーだ。


 久しぶりといっても数週間ぶりなのだが、まさかここまで来てくれるとは。


「わかるか、アロエ! 僕だ、ヴィンデだ!」


 僕がそう言うと、アロエは円を描くように泳ぎ出した。


「実はアロエは、今はワシの弟子をしていてな。仲間を守るためになるスキルなどを教えておる」


 確かに、アロエのレベルは僕と別れたときよりもレベルが上がっており、今ではレベル8だ。

 そうか、アロエも頑張っていたんだな。ただ、アロエの頭の上に何か変な装置がとりつけられているが、あれは?


「あれはワシの投影機とICチップ――つまりワシの本体じゃ。あれの周囲5キロの範囲までしかワシは移動できんからの」

「なるほど。どっちにせよ、アロエが元気で安心した……って、リベルテを治すのはアロエなのか?」

「うむ、アロエは多くの魚たちを治療し、感謝されることで聖女モンスターの称号を得ておる」


 あ、アロエってやっぱり女の子だったのか。

 と僕はここで初めてアロエの性別を知った。


「聖女モンスターのスキルの一つ、神の奇跡があれば、リベルテの治療は可能じゃ。ただし、時間はかかるがの」

「時間ってどのくらい?」

「そうじゃのぉ。6ヶ月といったところか。スキルレベルが上がれば、もう少し早くなると思うがの」

「……でも、リベルテはスライムだし、海の中じゃ生活できないぞ?」

「安心しろ、爆破したとはいえアトランティスの設備の一部はまだ生きている。ここに来る前に確認したところ、空気循環器は無事のようじゃ。今、自動作成装置を使って急遽リベルテのための家を作っている。食糧も無事じゃ。食糧庫には溢れんばかりの缶詰があるからの」


 ……至れり尽くせり……だな。

 半年。短いようで長い時間。このまま旅を続けるには、リベルテにはリスクが大きい。命を半分失っているようなものなのだ。治せるなら治したほうがいい。

 リベルテの意志は……聞いてどうする?

 僕と一緒に旅をしたいと言ったら旅に同行させるのか?


 今のリベルテを守れるほど僕には力があるのか?

 少し前に、リベルテに守られたばかりなのに。


「リベルテ、僕の背に乗れ」


 僕はそう言い、海の中に入り、ブラックシャークに変身した。

 アロエが僕のお腹にくっつく。この感触も久しぶりだ。


 リベルテは僕の背に乗った。


「ありがとうな、リベルテ。元気になったらまた一緒に飯でも食べに行こう。半年後、迎えに行くから」


 僕はそう言って、海を進む。

 時間にして二日間。


 僕とリベルテ、そしてアロエの三人の旅は続く。


 背中にリベルテの重み、お腹にアロエの優しさ。

 二つを同時に感じながら、僕は海を進んだ。


 途中、何度か休憩して食事にしたが、もう食事を二人で分け合うこともないんだなと思うと寂しくなる。


 そして、二日後。泡を展開させてリベルテを泡に包むと海底へ。

 そこには、リベルテ専用の家ができていた。


 缶詰――果物の缶詰から熊肉の缶詰まで多種多様な缶詰が置いてある。

 100缶はあるが、アトラス曰く、この1万倍の缶詰がまだ存在するそうだ。

 リベルテの食事には困らないだろう。


 これから長くて半年間、アロエは毎日リベルテを治療してくれるそうだ。


「またな、リベルテ、アロエ」


 アトランティスのリベルテ専用の家で僕はそう告げた。


 僕はここで立ち止まれないから先に行く。

 でも、さよならは言わない。


「絶対にまた会いにくるから」

長かった7章もこれで終わりました。

章毎にパートナーが変わっていく形式みたいですね。


さて、そろそろ――

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