リベルテのお勉強
僕たちは今日、柔らかい土の上で文字の勉強をしていた。
言語理解スキルのおかげで、僕は文字を書くことも読むこともできる。
世界中で使われている共通言語。それをリベルテに教えていた。
フレーズがいなくなったことで、僕とリベルテの言葉の壁は元通り築城されてしまった。
でも、一度得たものを失うというのは辛い。そのため、僕はリベルテに文字を教えることにした。
枝を見つけ、土に文字を書く。
「これで、「おはよう」だ。書いてみろ」
リベルテに言うと、リベルテはぷるぷる震えて、何かを書き始めた。
だが、それは文字というよりはミミズの這った後――本当にリベルテが這った後だけだ。
文字として判別することはできない。
「じゃあ、これはどうだ? 「おやすみ」だ」
僕が文字を書くと、リベルテはきっちりそれを見て書こうとしてくれるのだが、やはり文字としては形にならない。
んー、やっぱりリベルテには文字は難しいのかもしれない。
枝を使えば、と思うが、リベルテは手がないせいか、枝を上手に持つことができない。
それどころか、持っていたら食べてしまうのだ。
これは根気が必要だと思いながらも、
「あぁ、ごはんだな。じゃあ狩りに行くか」
リベルテがぷるぷる震えたのを見て、お腹が空いたのだと確信した僕。
リベルテが僕に伝えることは食事に関することだけだから、無理して覚える必要はないか。
狩りはだいぶ楽になった。
索敵の範囲が広くなってので、獲物の位置もよくわかる。
最初に見つけたのは巨大ミミズだった。
アースウォームと呼ばれるミミズ、巨大と言っても伝承に出てくるような巨大ミミズじゃない。大きな蛇くらいだ。
色は赤ではなく茶色。正直食欲のそそられる見た目じゃない。
「土針! 土針! 土針!」
土針3本により、首の付け根、胴体、尻尾付近が串刺しになった。
【経験値12取得】
それだけでアースウォームは絶命。
うん、弱い弱い。
そして、僕はそのアースウォームを火の息であぶる。
串刺しにしたまま。
すると、みるみる乾燥していき、最初の大きさの半分くらいになってしまった。
リベルテも進化したから、熱々の料理でも火傷することなく食べることができる。
「じゃあ、食べるか」
一口食べてみる。んー、土を食べているみたいだ。
思ったより歯ごたえがあるが、おいしいものじゃない。
そういえば、ハリー○ッターにミミズ味のお菓子っていうのがあった気がする。
あれもこんな味なのだろうか?
リベルテはというと、横でおいしそうに食べていた。
まぁ、僕も生物の端くれ、殺したものはきっちり食べますが、それでも食べる速度は遅い。
これなら、前に食べたモグラのほうが100倍美味しい。
そういえば、モグラが土竜で、ミミズで作った漢方が地竜だっけ?
おなじ地竜でも地竜には僕はまだ勝てないな。
なんて食べていると、リベルテはじっと僕を待っていた。
そうか、前に獲物は二人で分ける、というのをリベルテは忠実に守っていたのか。
そして、僕はぴんときた。
土針をへし折り、文字を書く。
「リベルテ、これが「はい」でこれが「いいえ」だ。残っているアースウォームを食べたいか? 食べたいなら、「はい」。食べたくないなら「いいえ」って書いてみろ。もしも「はい」と書いたら残りはリベルテに譲るよ」
僕はこっちの世界の文字を書く。
食欲魔人のリベルテなら、これで文字を覚えられるんじゃないか?
そう思った。
そう思ったのだが、リベルテは平らになって広がって、まるで日向ぼっこをしているようになった。
困っているのか、と思ったが、動く気配はまるでない。ただの食休みか。
やっぱり無理か。
もういけずは言わずに残りを食わせてやるか、そう思った時、リベルテが飛んだ。
そして、リベルテがさっきまで寝ていたその場所に――それはあった。
【はい】
僕が書いたのと寸分たがわぬ文字でそう書かれていた。
え? いつの間に?
と思ったら、僕は気付いた。
リベルテは、土を食べたのだ。文字の部分だけ綺麗に。まるで彫刻刀で掘ったみたいに綺麗に食べていた。
「あ、あぁ、食べていいぞ」
僕が言うと、リベルテはアースウォームを食べ始めた。
リベルテってもしかして、賢いのか?
「……いや、まさかな」
土針ごとアースウォームを食べるリベルテを見て、僕は首を横に振った。
捕食スキルによる経験値は10しか増えなかったが、腹はそれなりに膨れた。
午後からは久しぶりに――海にでも行くかな。




