フレーズとの別れ
今日は更新しないって言ってたのに。
フレーズの部屋で寝た僕たち。
一夜明けて、その部屋は大惨事に見舞われた。
いや、リベルテにとっては至福だったんだろうし、フレーズにとってもこれでよかったのかもしれない。
僕は朝の光で目を覚ました。と言えばわかるだろうか?
そう、洞窟の中なので朝の光なんてあるはずがないのに。
なんと、部屋中がヒカルンダケで満ち溢れていた。
しかも、リベルテが食べる前よりもはるかに多い。
「よくもまぁ一日でこれだけ育ったもんだな」
そして、その原因はすぐにわかった。
リベルテだ。リベルテのMPが一晩経っているにもかかわらず、0になっている。
苗床――自分を苗床にして植物やキノコなどを育てるスキル。苗床になって消費するのはMP。
「そういえば、リベルテ昨日分裂していたけど、そのためだったのね」
「なるほどな……寝ていて全然気付かなかったが、そんなことをしていたのか」
分裂したらHPが分裂した数だけ減るがMPはそのままだ。
だから、リベルテは分裂して52体になり、MP30×52=1560の力を使ってキノコを育てたわけか。
そのおかげか、苗床のレベルが3にまで上がっている。
こやつ、やりおるな。
でも、どうせなら食べれるキノコも育ててほしかった。
ヒカルンダケは毒キノコなので僕は食べられない。
とりあえず僕は献身スキルを使って、僕のHPを20を削ってリベルテのMP20を回復させてやった
リベルテはぷるぷると身体を動かし、フレーズに何かを伝えた。すると、フレーズは「ええ、これだけあっても邪魔だし、大きいのから食べていいわよ。半分くらい」と言った。あぁ、キノコを分けてもらう交渉をしていたわけか。
「なぁ、フレーズ、僕が言うのもなんなんだけど、魔王になんてならないほうがいいぞ? 正直、ラビスシティー以外の魔王は狙われるって聞いたことがある」
「知ってるわよ。だからこそよ。フリーズばかりに重荷を担わせるなんて、姉としてどうかって思うわけよ」
「……フレーズ……お前」
「それに! あの迷宮はもともと私が見つけたのよ! 妖精蜜を作るのにちょうどいいから。なのになんでフリーズが占拠しちゃうのよ! あの泥棒妹が! フリーズが作った妖精蜜の半分をきっちり徴収しているけど、本来は全部私のものなのに! 本当にダメな妹を持つと苦労するわ」
「ダメなのはお前だぁぁぁぁっ!」
フレーズの部屋の中に僕の叫び声が響いた。
結局のところ、僕たちができることはこれ以上なにもなかった。
今更フリーズのところに行って魔王の座をフレーズに渡すように言うことなどできるはずもない。彼女が魔王になったら自らの迷宮の魔物に殺されてしまいかねない。フリーズは実はきっちり(?)魔王をしているようで、魔物も全員彼女の配下として働いているらしいが、フレーズが魔王になったらそうはいかないだろう。
「もう行くの?」
「あぁ、短い間だったけど、楽しかったよ」
僕が言うと、リベルテも口いっぱいにキノコを入れてぷるぷると跳ねた。
「あはは……それはやめて」
リベルテに対してフレーズが苦笑してそう言った。
うん、何を言われたのか想像するのは容易い。
「僕たちはこれから旅を続けるんだが、フレーズはまだ妹に勝負を挑み続けるのか?」
「ううん、その前に友達のところに妖精蜜を持っていくわ。結構楽しみにしてくれているし」
「じゃあ、その友達に伝えてくれ。「友達は選んだ方がいいぞ」って」
「それはこっちがそのまま伝えるわよ! リベルテ、主人はきっちり選んだ方がいいわよ!」
失礼な、リベルテは僕にしっかり忠誠を誓ってくれている。
つまりは僕を選んでくれている。
「え? 妖精蜜毎日くれるなら部下になってやるって?」
何っ!?
リベルテ、お前、そんなことで……いや、まぁリベルテだから仕方ないのか?
ぷるぷる震えるリベルテを僕が睨み付けると、
「冗談よ。リベルテは「こっちがいい」だって」
そ、そうか。よかった。
僕のことを「こっち」呼ばわりしてくるのは置いておいて、妖精蜜の魅力より僕のほうを取ってくれたのは本当にうれしい。
「じゃあな、フレーズ。また遊びに来るわ」
「じゃあね、ヴィンデ、リベルテ。魔王の玉座で待っているわ」
いや、それは無理だろ。
そんな無粋なツッコミは言わずに僕たちはその場で別れた。
こうして、僕の一日限りの妖精との交流は終わった。
そして、迷宮を出て、僕たちが最初にしたことは――
「リベルテ、悪かったって。忘れていたわけじゃないんだよ。本当だって」
僕はリベルテに平謝りしていた。
最初にしたこと、それは思い出すことだった。
リベルテがぷるぷると跳ねて何かを言っているんだが、僕は全くわからない。
しまいにリベルテが機嫌を損ねてしまう。
一体、何を忘れているのか?
それを思い出すのに3時間かかり、忘れていた何かが、“アースモール”を塩胡椒で焼くという約束だったことを思い出した。うん、忘れていたわけじゃないと言ったが、本当に忘れていた。
リベルテは僕が塩胡椒で肉を焼くことで機嫌を直してくれたが、通訳係としてフレーズの存在が重要――そんなことを思った。
「で――直火焼きって」
塩胡椒が振られた肉は、リベルテの上で焼かれていた。
リベルテの持つ燃える体のスキルによって。
そして、いい焼き具合になったらそのまま身体の中に入れる。
……口の中で焼いているようなものだな、あれは。
もしかして、リベルテは焼肉をするためにファイヤースライムに進化したんじゃないだろうか?
そんなことを思う朝の一時だった。
……そう、これは朝ごはんなのだ。
リベルテはさっきキノコを自分の体積の何倍も食べていたのに、まだ朝ご飯なのだ。
そして、僕たちの旅はまだまだ続く。
昼飯時間までは続く。
フレーズ&フリーズの話が出てくるのはだいぶ先になります。
ネットサーフィンしていたら、
異世界でアイテムコレクターとお魚からの人外転生、同じシリーズだけどどのくらいリンクあるの? って質問が2ちゃんねるであったり、感想板でも同じ作者だったとは知らなかった、みたいな話がありましたので、一応知らない人のために。
この物語は、
異世界でアイテムコレクターの主人公、コーマ。彼は釣りをしていた時に異世界に召喚された主人公です。
この時、彼は琵琶湖で釣りをしていて、ブラックバスやらブルーギルやらも釣っていた。
そして、数ヶ月後、コーマは湖で繁殖したブラックバスの稚魚を見つけて、ブラックバスが異世界で繁殖していたことを知る。
この物語は、その釣り上げたブラックバスが実は転生者だったら? という謎のif設定からスタートした物語です。
だから、キーワードにも「番外編」とついています。
そして、強いリンクはできるだけなくしていますが、ここまでこっちの世界で登場したリンクは、以下の通り。
・最初の洞窟=コーマが住んでいるルシル迷宮の200階層。
・洞窟にいたコボルト=コーマの仲間のコボルト。
・湖=異世界でアイテムコレクターの世界にあるレストランの前の湖。
・川から見た地竜と翼竜=コースフィールドでコーマが乗った地竜とコーマに殺された翼竜。
・サイモン=ダブルヒロインの一人であるクリスの昔の相棒(本編には名前だけ登場していた)。
・闘技場にいた白蛇の飼い主のグレイシア=勇者エリエールをはめようとしたクレーマー貴族。
・武道会場に登場したイシズさん=同時期に登場するリーリウム王国の近衛隊長さん。
あと、アイテムの名前がわかる鑑定スキルが、「アイテム鑑定」ではなく、「鑑定」だけなのも、異世界でアイテムコレクターの設定をそのまま使っているからです。
ただ、異世界でアイテムコレクターには、レベルという設定や、ステータス、称号などもありません。
ちなみに、異世界でアイテムコレクタ―の方が逆に強いリンクがあります。
・ラスボスっぽいキャラが呟いた「アルモニー」という言葉。
・コーマが武器を作るときに使うことになったキーアイテム「ファイヤーサラマンダーの鱗」
などがそうです。
今後、どのようなリンクができあがるかわかりませんが、そんな感じですね。
今後も二つともほぼ独立した物語として続いていきますが、こっちの物語が最終話を迎えた後で、何か一つの物語を作りたいと思っています。
こっちはブラックドラゴン、あっちは闇竜。
何か凄い設定ですね。




