攻略、花壇迷宮
本当に花だらけだな。
花の香りを楽しみながら、僕は迷宮を進んでいた。
「それにしても意外だなぁ。リベルテが花を食べないなんて」
リベルテは魔物の花は食べるが、普通の花は食べない。
どうしてだと聞いてみたら、普通の花はフレーズが蜜に使うから食べない方がいいと、フレーズ経由で僕に伝えられた。
食べ物に関しては自分の食欲のために分別をわきまえているな。
その代わり、花の魔物に関しては容赦しない。僕との取り決めで、半分ずつ食べるという決まりを定めた。
フレーズの言うような膨大な経験値が得られないまま、探索を続行。
「そういえば、フレーズは戻らなくていいのか? 正直、危ないぞ……お前、HP弱いだろ」
「大丈夫よ。私には妖精魔法があるんだから、逃げるのだけは得意よ」
「妖精魔法か……僕にも使えるのかな」
「無理だと思うわ。妖精魔法は妖精族のユニークスキルだから」
そうか、それは残念だ。
変身できたら覚えられそうだが、どうなんだろ?
テイムできたら妖精に変身できるのかな?
妖精に変身できたら、普通にエルフの森にも入れそうな気がするんだけど。
僕は怒られるのを覚悟でフレーズに尋ねた。
「妖精種って、魔物なのか?」
「わからないわ」
意外と彼女は怒らずにそう答えた。
「でも、少なくともヒトじゃないわ」
「そうなのか?」
まぁ、小さいからな。
でも、見た目で言えば、羽が生えていたり、背がとても小さいところを除けばどう見ても人なんだが。
「そもそも、ヒトとそれ以外の生物の区別って何だと思う?」
「ん? んー、なんだろうな?」
「種族間で子供を作れるかどうか――よ。獣人もエルフもドワーフも人間も、種族をまたいで子孫を作ることができる。でも妖精種は人との間には子供が作れない。だから妖精はヒトじゃないって言われているわ」
そういえば、妖精は死ぬと花の中から生き返ると言っていたな。
確かに、そのあたりは人じゃないのだろう。
「昔会った人間が言うには、幻獣種だっていう説が強いそうだけど、私自身確かめられるわけないしね」
「幻獣種?」
初めて聞く単語に僕は眉をひそめた。
初めてと言っても、ゲームの中では何度か聞いたことがある気がする。
ただし、ゲームの中の幻獣種とは大抵はファンタジー世界の魔物――ドラゴンやデュラハン、ケルベロスといったものをいった。
つまり、魔物との区別なんてつかない言葉だ。
「幻獣種っていうのは、魔物と神との間の種族だって言われているわ。幻獣種だと言われているのは私達妖精種の他に、精霊やドラゴンなんかもそうなんじゃないか? って言われている。ま、眉唾だと思うけどね」
「そうなのか?」
むしろ、魔物から進化を重ねていくとドラゴンになれることを知っている僕からすれば、その説は結構的を射ている気がするが。
あ、でも進化の最終目的があのおちゃらけた神だと言うのなら、それは嫌だなぁ。
「そうよ。妖精種から他の種族に進化できたって話は聞いたことないわ」
「それはフレーズが知らないだけで、本当は何か進化先があるんじゃないか? レベルを上げて見たらどうだ?」
「いやよ、めんどくさい。レベルを上げても死んだらレベル1に戻っちゃうんだし」
「死ななければいいじゃないか」
「死なないって結構大変なのよ。生きなければならないんだから」
なんか哲学っぽいことを言ってきた。
絶対に意味はないと思う。
「っと、ワークビーだ。結構数が多いな」
働き蜂――ワークビーか。
鼠くらいの大きさの蜂がいっぱい飛んでくる。
50匹くらいか。
「リベルテが『また胞子でやっつけようか?』って言ってるけど?」
「いや、今度は僕が行くよ」
天敵称号が欲しい。
だが、どうやって攻撃をしたらいいか?
空を飛んでいるなら、土針は使えないか。
あ、そうだ。試してみたい攻撃があったんだ。
「水球!」
天井付近に水の球を出現させる。そして、その水の球が弾けた。
はじけた水の球は、雨となってワークビーに降り注いだ。
「ちょっと、何してるのよ、あんなの効果ないでしょ」
「それはどうかな?」
僕はほくそ笑んだ。
雨に濡れた蜂――その半分がパタパタと落ちていった。
【麻痺攻撃のレベルが2に上がった】
っと、ここでネタばらし。
そう、僕は水魔法に麻痺攻撃を付与させた。
攻撃に麻痺の効果を付加させる麻痺攻撃。
それは何も物理攻撃だけに限らないんじゃないか? そう思ったらやっぱりうまいこといった。
最初に落ちたのは麻痺によっての墜落。
続きまして、
「微風(麻痺付与)!」
スキル融合攻撃、名付けてパラライウィンド!
ほとんどダメージのない風の攻撃を正面から受け、蜂たちの残り過半数が落ちていく。
もう僕に迫ってきているのは5匹くらいだ。
そのくらいならもう単体撃破も余裕。
1匹に噛みつきながら尻尾で攻撃を繰り出した。
1匹が僕の攻撃の隙間を縫って誘うとするが、僕の鱗が硬かったのかダメージを与えられないようだ。
その1匹も尻尾で仕留めた。
そして、麻痺で倒れたワークビーを一匹一匹食べていき、
【称号:蜂の天敵を取得した】
【スキル:毒針を取得した】
【ワークビーに変身可能です】
よし、来たぞ!
毒針か……んー、毒針ってどうやったら使えるんだ?
針がなかったら使えないのかな。
毒針、毒針、毒針!
「きゃっ!」
後ろでフレーズの声が上がった。
敵か!?
そう思ったら、フレーズがもたれていた壁、彼女の両脇に針が刺さっていた。
「……何するのよ! 急に尻尾から変なもの飛ばさないでよ」
「尻尾から?」
僕は訝し気に尻尾をまげて、前方に尻尾の先端を向け、
毒針!
と念じた。
すると、飛んだ。尻尾から毒針が飛び、虚空のかなたへ消えていった。
遠距離攻撃GETだ。
さらに、この毒針に麻痺攻撃を付与させたら、麻痺毒攻撃になるな。暗闇攻撃を付与するのもいい。
二つ一度に付与とかできるのか?
これも実験しないとな。
火の息や土針はあくまでも中距離攻撃だったからな。
ありがたい。
ただ、あれ、少し痛い。
なんだ?
「うわ、これはきついな」
HPが4減っていた。
1発につきHPが1減るということか。
MP消費ではなくHP消費のスキルは初めてだ。使うときは慎重にしないとな。
あと、もう一つ。ワークビーへの変身能力。これもありがたい。
つまり、僕はこれから空を飛べるということだ。
練習を重ねないと飛ぶのが難しいかもしれないが、やっぱり憧れるよな。
「なんにしても、流石は私が見込んだトカゲね」
「サラマンダーだ!」
最近はどちらでもいいと思っているが、やっぱりこの区別はつけておきたい。
そもそも、トカゲは爬虫類で、サラマンダーは両生類だ。
この違いは大きい。
「そういえば、なんでフレーズは僕に声をかけたんだ? 言っちゃ悪いが、僕は本当にただのサラマンダーだぞ」
「あぁ、そのこと? 別に誰でもよかったのよ。私よりも強ければ」
「誰でもいい? 相手は魔王だぞ」
「魔王よ。でも、魔王といっても――まぁ、見たらわかるわ」
見たらわかる?
いや、見る気ないからな。索敵で魔王の居場所を突き止めたら逃げるから。




