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キノコの浸食

「ただいまぁ――あぁ、なんということでしょう!」


 キノコだらけで清潔感のかけらもなかった部屋が、匠の技により1本のキノコを残してすっきり空間に。

 驚くのはその収納力でしょうか? 30本近くあったキノコも、リベルテの胃袋にすっきり収まり、彼もご満悦の様子。

 最後に残った一本のキノコを必死に守ろうとする妖精種の涙が見事に煌く。


「見てないで止めなさいよ!」


 フレーズが叫んだ。本気で泣いている。

 さすがに悪いことをしたな。


「あぁ、リベルテ、食べすぎだ。また頭からキノコが生えてるぞ。あと、食べすぎないように言っておいたはずだが」

「何が【まだまだ腹八分目です】よ!」


 フレーズの通訳を聞きながら、俺は納得した。食べすぎるなというのを、フレーズ基準か、リベルテ基準かで間違えたんだな。

 リベルテにとっては、この部屋のキノコを全部食べつくしても、食べすぎないの範囲だったんだろう。


「リベルテ、とりあえず光の胞子を振りまいておけ」


 リベルテは頷くと頭から大量の光る胞子を出した。

 そして、自分の頭の上に生えたキノコを食べていた。


「……これだけ人の家を壊しておいて、やっぱり帰るわ、とかは無しよ」

「あぁ……ただし、無理そうだったら帰るぞ」

「それなら諦めるわよ。ただし、何もしてないのに、「無理、帰る」は無しよ」


 まぁ、それはない。

 そんなことをするくらいなら、脱兎のようなスキルは入手していない。

 でも、索敵を見て、敵の色が互角の赤色だったら帰ろうと思っている。


「その前に、一つ聞きたいんだが、その迷宮っていうのはここから近いんだよな」

「ええ、歩いて1時間くらいね」

「……ラビスシティーって知ってるか?」

「ええ、知ってるわよ。ヴィンデは知らないの? 遠いもんね。ここから歩いて2ヶ月くらいかかるんじゃない?」


 つまり、僕たちが今から行く迷宮はラビスシティー以外にある。

 それは、アルモニーが壊したいと思う迷宮だ。


 正直、フォーカスが相手でも逃げられる可能性は1%はあると思うが、アルモニーが本気で追いかけてきたら逃げられる可能性は0だ。

 

 あんまり――いや、二度と関わりたくない。


「それじゃ、善は急げよ! 迷宮に行きましょ」

「あぁ……リベルテ、キノコまた生えてるぞ」


 振り返ると、リベルテの頭の上にキノコが3本生えていた。

 すぐに食べた。


 リベルテは、光の胞子を撒きながら進む。

 そんなの撒かなくてもマッピングがあるから迷う心配はないぞ、と教えてやった。

 そう言ったら、リベルテが、フレーズ経由で僕に伝えた。


「【帰るときにはキノコがいっぱい生えているはずです】」


 だそうだ。うん、キノコってそんなに早く生えないはずだけどね。

 リベルテの頭のキノコが特別なんだよ。また生えてるし。


 でも、そこまでキノコ栽培に熱心なら、リベルテは農家が向いているんじゃないだろうか?

 いや、ダメだ。いくら作っても全部自分で食い尽くしてしまう。


 ちなみに、リベルテはこの30分で、【キノコ持ち】という称号と【キノコ攻撃】というスキルを手に入れていた。

 リベルテが状態異常攻撃を使えるようになるのは時間の問題じゃないだろうか?


 んー、精進せねばなるまい。

 アロエも今はおそらく仲間を守るために必死に頑張っているんだろうし、僕もいつまでも頼れる君主であるように努力しないとな。


「ん? 敵だな」


 索敵スキルに敵がひっかかる。

 敵の数は多いが色は白い。雑魚だ。


【索敵のレベルが4に上がった】


 お、ここで索敵レベルが上がるのはかなりうれしい。

 索敵の範囲が上がったので、逃げるのも少し楽になる。


「わかるの?」

「あぁ、300匹くらい来るな。フレーズとリベルテは下がってろ」


 1匹なら麻痺させてリベルテにとどめを刺させるが、300匹相手だと流石にその作戦も使えない。

 ここは僕が倒すか。数が多すぎる。


 現れたのは、赤い蟻だった。


【レッドアント:HP3/3 MP0/0】


 小型犬くらいの小さな蟻が300匹、炎で一気に焼いてしまうか。

 そう思った時だった、リベルテが一歩前に出た。


「【私に任せてください、主人】だって」


 フレーズが言う。


「……考えがあるのか?」


 そう尋ねたら、リベルテが頷いた。

 いつの間にか頼もしくなって。


「レッドアントは一匹一匹は弱いけど、酸を吐いて防御力無視の攻撃をしてくるわ」


 な、一人1回ダメージを与えたら300のダメージ。

 僕なら風魔法で酸を飛ばしたり、土魔法や火の息を離れたところから吐いて攻撃する方法はあるが、リベルテは近接攻撃だけだ。

 辛いんじゃないか?


 そう思ったら、リベルテは胞子を前に飛ばした。

 ヒカルンダケの胞子?


 あいつ、何してるんだ?

 そう思ったら、レッドアントも全く気にする様子なくこっちに向かってくる。


 やっぱりここは僕が――そう思った時だった。

 レッドアントが急に止まった。


 どうした?

 そう思ったら、レッドアントの頭をヒカルンダケが貫いた。


「はや、もう成長したの!?」

「怖っ! 状態異常キノコ怖っ!」


 俺達が驚いている間にも、レッドアントの頭を貫いて次々とキノコが生えていった。

 そして、わずか10分足らずでレッドアント全滅。

 リベルテのレベルが7に上がり、【蟻の天敵】の称号と、【酸吐き】のスキルを手に入れた。

 しまった、天敵の称号のことをすっかり忘れていた。

 ここはやっぱり僕が倒すべきだったか。


「普通、ヒカルンダケの胞子を食べても10分くらい経たないとキノコが生えてこないはずなのに」

「胞子レベルが上がったからか、レッドアントが弱いからかは知らないけど」


 ただ、一つわかったことがある。

 あいつがレッドアントを倒すといったのは、決して僕の忠誠心ではない。

 ましてや強くなりたいわけでもない。

 ただ純粋に――


「美味しそうに食べてるわね。あれだけ食べたのに」

「旨そうに食ってるな。あれだけ食ったのに」


 リベルテは純粋に、キノコをもっと食べたかったのだろう。

 それが証拠に、リベルテはこれから20分かけて、300匹の蟻とキノコを完食するのであった。

 

1匹4秒

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