鮫だって楽じゃないから川を下る
夜。
川を下る一匹の魚がいた。
というか、僕だった。
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名前:****
種族:ブラックリトルシャーク
レベル:1
HP 20/20
MP 15/15
状態:記憶喪失
スキルポイント5
攻撃 20
防御 15
速度 17
魔力 10
幸運 25
経験値補正+10%
スキル:【捕食:Lv1】【言語理解:Lv1】【叡智:Lv1】【ステータス把握:Lv2】【スキル鑑定:Lv2】【索敵:Lv1】【泡:Lv1】【献身:Lv1】【硬い鱗:Lv1】【鋭い歯:Lv1】【肺呼吸:Lv1】【土魔法:Lv1】【鮫肌:Lv1】
称号:【転生者】【異世界魚】【記憶喪失】【捕食者】【蟹の天敵】【子持ち】【子沢山】【スキル収集家見習い】【魔術師】【出世魚】【称号収集家見習い】
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僕は今、鮫だ。
ブラックバスからブラックリトルシャークに進化した。
リトルと付いているが、ブラックバスより大きい。80センチはある。
進化してみたら、【出世魚】と【称号収集家見習い】を手に入れた。
あと、レベルは下がったが、ステータスは増えた。あと、経験値補正なるものがついた。
で、進化したら、困ったことが起きた。
僕の可愛い子供たちが、僕から逃げるんだ。
まぁ、そうだよな。鮫だもん。
ということで、傷心状態の僕はそのまま川を下りることにした。目指すは海だ。
母なる海!
いや、ほら、進化するとさ、おそらく、ブラックリトルシャークがブラックシャークになる、とかそういうオチだと思うんだよね。
ならば、湖や川だと窮屈になるだろうから、まずは海だ。
え? ドラゴン?
あはは、ドラゴンなんて君たち信じてるの?
とか、一人で質問とツッコミをしてみるほど、僕は参っていた。
そんな種族が本当にいるとは思えない。たとえ異世界だって……
コボルトはいたけど、さすがに竜はいないでしょ。
ん? なんか大きな影が……雲が出てきたのかな?
とりあえず、索敵スキルで周りに僕を狙う獲物がいないのを確認した。
うん、周囲30メートルに敵はいない。
僕は水面から顔を出した。
……そして、見上げた先にいたのは――大きな翼を羽ばたかせる……巨大な竜だった。
【翼竜:HP9980/9980】
……竜だ!
ドラゴンがいる!
本当にいたのか!
ん? 何かが近付いてくる。
今度は陸か。
草原を走る巨大な影。
【地竜:HP800/800】
あれも竜? トリケラトプスみたいだな。背中に床と椅子とテーブルが置かれ、人を乗せて走っている。
あ、でも恐竜って、竜の文字が入ってるから、竜でいいのかな?
……って、やば、こっちに近付いてくる。
僕はとっさに川底に潜って、地竜が遠くに行くのを待った。
僕もいつかあいつらみたいな竜になれるのかな?
……一応神のお墨付きだしな、期待し過ぎない程度に期待しよう。
とりあえず、川を下っていく。
途中で、イワナのような川魚を発見した。
【リバーフィッシュ:HP3/3】
川魚だからって、名前単純すぎるな。
うごきが素早く、僕の動きでは食べることはできなかった。
岩の陰に隠れたのは確かなので、まずは泡で岩の周りを覆う。
そして、そこから口を出し、
【土針】
岩が槍の形に変形した。
土針って、土だけじゃなく岩も変形できるからいいよな。
そして、ぴちぴち跳ねるリバーフィッシュを発見。
おいしくいただいた。
【経験値1獲得】
【スキル:“捕食”の効果により経験値1獲得】
うん、おいしいんだけどさ、贅沢をいえば、そろそろ焼き魚とか食べたいな。白身魚フライでもいいんだけどさ。
調理したもの食べたいよ。
あのピエールクラブとか、蟹炒飯にして食べたかったよな。
昼が来て、夜が来て、また昼が来て、夜が来た。
長い長い草原が続き、今度は森へとたどり着く。
どこまでいけば海に出るんだ?
まぁ、時々みかける魚を食べて、レベルが2に上がった。
ん? あれ? 気配が近付いてくる。
数は4、前方の1が3に追われてる感じだ。
1が水の中に入ってきた。
……靴?
ていうことは、人間か。
じゃあ、追っているのは?
……獣の足……狼か!
【ベロウウルフ HP29/29】
魚に生まれ変わったとはいえ、まぁ、僕も元は人間だ。
たぶん、人間……なんだよな?
記憶がないからそのあたりは曖昧だ。
僕は全速で泳ぎ、狼の足に噛みつき、倒れたところで喉を噛む。
川が血で染まった。
【経験値7獲得】
狼の一匹が僕を敵とみなしたようで、僕に噛みつこうとしてくるが、水の中で僕に敵うと思うなよ、犬っころ!
狼の爪を避け、跳ねて狼の喉に噛みついた。
【経験値7獲得】
ふっ、お前はもう死んでいる。
っと、もう一匹いたんだった。
もう一匹は、先に入ってきた人間を襲ってるようだ。
ということで、後ろが隙だらけ。
いただきます。
背中に噛みついた。
あ、急所じゃないからって暴れるな!
ベロウウルフは僕を振り払おうとするが、暴れるたびに僕の歯が犬ころの身体に食い込んでいく。
これなら余裕で倒せる、そう思った時、僕は彼女と目が合った。
襲われている――少女と。
緑色の長い髪、白色の肌、尖った耳……17歳くらいの美少女エルフ(たぶん)の姿に、僕の胸が高鳴った。
僕が異世界で初めて出会った人は……僕が生まれて初めて一目惚れした相手だった。