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バカと自由の狭間にて

 フレーズが、一番大きく、そして平らなヒカルンダケの上に木のコップを置く。

 光るテーブルだと思えば聞こえはいいが、猛毒キノコの上に置かれたカップって聞くと嫌な気分になる。

 コップといっても大きさはおちょこくらいの大きさしかない。ケチか? と思ったが、これ1杯でも末端価格だと銀貨1枚はするという。

 ギルド職員の給料1日分だ。


 リベルテとコップを交換してもらい、先にリベルテが飲む。手も舌もないので、飲むと言うよりかは顔をコップのなかに突っ込むようなものだが、それでも飲んでいるのだろう。

 リベルテの状態はキノコのまま変化がない。


 毒見をさせたわけだが、問題はなさそうだ。

 フレーズは僕がリベルテに毒見をさせたと気付いていないのか、「飲まないの?」とたずねてきたので飲むことに。

 とても甘いが、リラックスできる、そんな味だ。

 それに、少し暖かい。


「……確かに、今までに食べたなによりも上品な甘さだ」


 これなら金持ちが大金をはたいても買うだろうし、妖精種フェアリーを誘拐して蜜を独り占めしようとする人間がいるのも頷ける。もちろん、賛同はしないし、そんなことをする人間は軽蔑するが。


「でしょ? 私の作った蜜は世界一なんだから」

「うん、世界一旨い。いいものを食べた。ありがとう。じゃあ」

「だから、待ちなさい!」


 やっぱり止められたか。


「クッキー焼いたから食べていきなさい!」


 奥にあるらしいオーブンからクッキーを持ってきた。いつの間に焼いたんだ?

 そして、蜜を使って作ったと言うクッキーも絶品だった。

 素材もさることながら、彼女は料理の才能があるようだ。

 彼女と彼女の友達数人しか食べたことがないというフレーズ特製クッキーに舌鼓を打った。

 いやぁ、本当に美味しかった。

 来年もぜひ来たいものだ。


「お世話になりました」

「いえいえどういたしまして。私も久しぶりのお客さんで腕を振るったわ」

「うん、じゃあ帰るな」

「うん、また来てね」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「…………帰らないの?」


 本気で尋ねているらしいフレーズに僕は思わず叫んだ。


「本題がまだだろうがっ!」


 まさかの僕からのツッコミだった。

 そのまま帰ればいいと思うかもしれないが、流石にそんなことはできなかった。

 ボケ殺しをさらに殺すほどの力は僕にはなかったんだ。


 それに、フレーズは何か考え、考え、考え、


「あ、そうよ! よくも騙したわね! 私はあんたに魔王を倒してほしかったのよ」


 騙してない騙してない。

 ていうか、本当にもてなすのが楽しかったのか、フレーズ。


「で、なんで魔王を倒してほしいんだよ」

「……聞いておいて、やっぱり依頼を受けないってなしよ」

「じゃあ聞かない。さようなら」


 立ち去ろうとする僕(立っていないけど)の尻尾を掴む。


「待って、話だけでいいから、依頼を受けるのはそれからでいいから」


 引きずって帰ろうかと思ったが、結局話を聞くことにした。


「で、なんで魔王を倒してほしいんだよテイク2」


 とりあえず同じセリフを言い直してみる。

 自分でテイク2と言うあたり、少しイライラしている気がするが。


「そりゃもちろん! 魔王が私の作った蜜を盗んだからよ!」

「よし、撤収!」



 それは刑事三課のお仕事です。

 ということでさようなら。


「ま、待って! あなた、強くなりたくないの? 迷宮にはレアな魔物もいっぱいいるから強くなりほうだいよ!」

「……レアモンスターか」


 確かにそれは心揺さぶられる。

 んー、でも魔王相手だと勝てるわけがない。


「別に無理だと思ったら魔王と戦わなくたっていいじゃない。だいたいの魔王は、迷宮の中で暴れてくれたら嬉しいものなのよ」

「え? そうなのか?」

「そうよ。迷宮の中で戦いが起きると、瘴気が噴き出るの。その瘴気ってのが迷宮を活性化させるから魔王にとっては誰もこないよりは誰かが来て暴れてくれた方がいいのよ。外部からの刺激のほうが迷宮は活性化するわ」


 ……そういうものなのだろうか?

 んー。


「ちょっと待っててくれ。地上に出る道ってある?」

「地上ね。この道をまっすぐいって次の曲がり角を右に曲がればすぐよ」

「ちょっと考えてくる。30分で戻るから、それから考えさせてもらっていいか?」

「いいけど、ちゃんと帰ってきなさいよ!」

「あぁ、リベルテを置いていくから――リベルテ、食べすぎるなよ」


 僕がそう言うと、リベルテはヒカルンダケを食べるのをやめてぷにぷにと動いた。


「【わかりました、主人。モグラの焼肉の約束わすれないでください】だって……やっぱりアースモールを倒してたのね。って何、私のインテリ食べてるのよ!」


 あぁ、アースモールを焼いてやるってすっかり忘れてた。

 そうだな、リベルテが2回目にしとめた獲物だし、ちゃんとおいしく料理してあげるか。

 そういえば、肉を蜂蜜に付けると柔らかくなるって聞いた気がするが……勿体ないな。あの蜜はそのまま飲むか、紅茶に少し入れて飲むのがベストだ。幸い、猫舌はファイヤーサラマンダーになって克服したから熱いお茶も飲める。


 そんなことを考え、僕は地上へ脱出。


――さて、レベルを上げるか。


 僕はそう言って、奥の手――サンライオン(アルビノ種)の死体をアイテムBOXから取り出した。


 早く食べてしまわないと、リベルテが匂いを嗅ぎつける……いや、その前にフレーズの家のヒカルンダケが全部食べられてしまうな。

 そう思い、僕はサンライオンを食べ始めた。


【スキル:“捕食”の効果により――】

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