うちの相方はマイスター
「魔王倒しなさいよぉ」
フレーズが僕の尻尾にしがみついてきた。
正直、尻尾を切り離してこのまま帰りたい。
もう、謝罪とかそんなのはどうでもいい。金貨1枚渡すって言ったのに受け取らなかったフレーズが悪い。
僕はリベルテを連れてこのまま帰りたいのだ。
「無理です! 相手を見て考えてください! 僕はただのトカゲです!」
そう言い切った。トカゲと言われて反抗していたこともありました。
でも、今は厄介ごとに巻き込まれないのが優先です。
さらば、緊張感の続く日々、こんにちは、平穏な日常!
一応、称号として「魔王を討伐せし者」なんてものを持ってはいるが、あれはフォーカスが僕に送ってくれたメッセージのようなものだ。
それに、僕の今のHPはフォーカスの1割にも満たない。ましてやもう一人の魔王、調和を望む魔王アルモニーと比べたら1割どころか100万分の1にも満たない。
魔王って言うのはそういうものなんだ。
「いいじゃん、ちょっとそこの角を曲がって魔王を倒してくるだけだから」
「言い方変えても無理なものは無理だ!」
なんで近くの自動販売機でジュースを買いに行く感覚で魔王退治にいかないといけないんだよ。
「魔王っていってもあれなんだから。ちょっとした蟻程度の強さだから、あなたなら大丈夫よ」
「蟻程度の魔王ならお前が倒せばいいだろ」
「じゃ、じゃあ、話だけでも聞いて! 話を聞いてくれたら私の作った蜜をちょっとだけ飲ませてあげるから」
フレーズは「勘違いしないでよね。決してあなたたちを蜜を使って懐柔しようだなんてこれっぽっちも思ってないんだからね」と笑って言った。
これもツンデレと言うのだろうか? いや、言わない。
「……話を聞くだけだぞ。後言っておくけど、リベルテは毒とか睡眠薬みたいなものが一切効かないから。僕が薬を飲んで寝たりしたらリベルテがただじゃ済まさないよ」
「そ、そんなもの入れないわよ。うん、眠り薬を飲ませて迷宮の中に放り込もうなんてこれっぽっちも考えてないから」
どうやら、フレーズは隠し事ができないようだ。
きっと、サイモンから見た僕ってこんな感じだったんだろうな。
そう思うとひどく自分が情けなくなる。
とはいえ、まぁあそこまで釘をさしておけば変な薬を入れることはないだろう。
フレーズと一緒に洞窟――というか穴を進む。
彼女は光る粉の入ったランプのような道具を持っていた。
レア度2のアイテム……、名前だけがわかる。
光の胞子か。
「光のキノコの胞子かなにかか?」
そう尋ねたら、
「ええ、ヒカルンダケの胞子よ。よくわかったわね」
微妙に名前が違ったが、呼び名が違う同じキノコだと思ったようで、感心したように僕を褒めてくれた。
胞子の状態で30時間発光するそうだ。
そして、その胞子を虫が食べて、虫の体内で成長するキノコだとか。冬虫夏草みたいだとも思ったが、怖いな。
虫よりも大きな動物なら害はないそうだが。
穴を進みながら、彼女はこの穴について語った。
「この穴はアースモールという魔物が掘っている穴でね、私達妖精族はこの穴を利用して移動するの。彼らに目的の場所まで穴を掘ってもらうときは蜜をプレゼントするのよ」
アースモールが掘った穴だというのは知っているが、どうやら妖精族とは共生関係らしい。
そのアースモールをさっき倒したということは黙っておいた方がいいだろうか?
「でもアースモールは外で見かけたら遠慮しないでいいわよ。アースモールは本来は凶暴な魔物だから、見つかったら逃げるか倒すかしていいわよ。別に一匹や二匹いなくなったからといって私は困らないし」
あぁ、倒してよかったらしい。
よかったよかった。凶暴な魔物なのに僕の1回の攻撃で逃げ出そうとしたのか。
クイーンスネークに殺されそうになって失いかけた自信が少し戻る。
まぁ、自信が多少戻ったところで魔王を退治するなんてありえないんだけどね。
穴は暫く進むと分かれ道が続き、迷路のように伸びていた。
だが、フレーズは迷うことなく進む。道をちゃんと覚えているのだろう。
僕? 僕はもちろん覚えていない。もしも、「帰り道を教えてほしければ――」なんて言われてもマッピングを使えば帰れるからね。
「いっぱい分かれ道があるが、他の穴の先にはフレーズ以外の妖精種がいるのか?」
「いないと思うわよ。いっぱい人間に捕まったから。もう300年は私以外の妖精種に会っていないし」
「な……本当なのか?」
それは、同じ人間として謝罪しないといけない気になる。
まぁ、この世界の人間と僕とは関係ないんだけど。
でも、僕が生まれる前に、人間の乱獲や介入によって絶滅してしまったリョコウバトとかドードーとかに会ったら悪いと思ってしまうのと同じ感じか。
「嘘を言っても仕方ないでしょ。といってもたぶん死んではいないわ。妖精族は蜜を集めるとその蜜に魔力を込めると言われてるから、どこかに捕まって、働かされているんだと思うわ」
やばいな、もしかして、その魔王退治っていうのは、妖精種を助けることと関係するのだろうか?
いや、例えそうだとしても僕が関わることじゃない。
うん、人間の罪とかいっても、今の僕はトカゲ……じゃない、サラマンダーだ。
関係ないったら関係ない。
魔王となんて関わりたくない。
「ま、そんなバカな妖精種のことはどうでもいいのよ。私達って死んでも花の中から生き返ることができるし、年も取らないからいつか会うこともあるでしょうし」
――妖精種ってそんな種族なのか?
イメージ通りでもあり、逆にイメージをぶち壊してくれるな。
「ここよ、私の家は」
穴の中から強い光が漏れていた。
その光は、予想通りというか、光るキノコ――ヒカルンダケ。
できるだけ近づきたくないが。
「うん、1本なら食べていいわよ」
「食べるか!」
「あ、ヴィンデに言ったんじゃなくて――」
え?
後ろを向くと、リベルテがヒカルンダケを食べていた。
マジか……一体、どんな状態異常になるんだ?
……………………………………
名前:リベルテ
種族:グリーンスライム(ダブル)
レベル:5
忠誠度:84
HP 20/20
MP 1/1
状態:キノコ
スキルポイント4
攻撃 17
防御 16
速度 10
魔力 20
幸運 15
経験値補正+10%
スキル:【感覚強化:Lv4】【体当たり:Lv2】【暴食:Lv6】【胃拡張:Lv4】【消化促進:Lv3】【毒攻撃:Lv1】【麻痺攻撃:Lv1】【混乱攻撃:Lv1】【暗闇持ち:Lv1】【睡眠攻撃:Lv1】【忠義:Lv1】【味覚強化:Lv1】【胞子飛ばし:Lv1】
称号:【レアモンスター】【食王】【毒持ち】【麻痺持ち】【暗闇持ち】【混乱持ち】【夢魔持ち】【スキル収集家見習い】【ネームドモンスター】【キャッチ名人】【称号収集家見習い】【キノコマイスター】
……………………………………
しかも、キノコマイスターという謎の称号と、胞子飛ばしという謎のスキルを入手していた。
そして、状態は…………キノコ?
キノコマイスターは本当にある民間資格です。
・ベーシックきのこマイスター
・きのこマイスター
・スペシャルきのこマイスター
の3種類があるとか……
ちなみに、資格があれば、キノコソムリエを名乗ることができるそうですが、ワインソムリエはソムリエの仕事をしている人しか名乗ることはできないけど、キノコは別にキノコ料理の説明をする仕事じゃなくても名乗っていいんですかね?




