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穴の先にある甘い罠

 幸い、感覚強化によって暗い道でも平気でもある程度は歩ける。

 それに、リベルテが食べた肉の香り、美味しそうな香りが道に残っており、その匂いを辿ればリベルテに追いつくはずだ。

 ここは嗅覚強化が役に立つ。

 

 それにしても、あいつ、どこまで行ったんだ? 僕を一人置いて逃げるなんてずるいじゃないか。

 まぁ、あいつがいたところで足手纏いだったのは事実だから、そこまで責めるつもりはないけど。


 どうしても、アロエと比べると……な。あいつは何があっても僕のために頑張ってくれたのにな。


 いや、アロエが良い子すぎたんだよな。

 まるで昔の彼女に未練を残すダメな男みたいだ。反省しないといけない。


 リベルテにはリベルテのいいところがある……と思う……ような気がする……かもしれない。

 ……いいところと言ったら、「食べ物に好き嫌いがない」くらいしか思い浮かばない。


 まぁ、好き嫌いがないのは僕も同じか。

 ブラックバスに転生してから、目についた獲物はなんでも食べてる。ネズミの肉まで食べるくらいだしな。


 日本にいたころは考えられないよな、そんな生活。

 なんて思っていたら、ハンバーガーとか食べたくなってきた。

 自作でパンを作ってみるかと思ったが、小麦粉もイースト菌もないからな。

 あ、米は買っているからライスバーガーとか作れるかな?


 ……ん?

 何か匂いがする。美味しそうな匂いだ。

 僕のスキルの香りとは違う、とても甘ったるい香りだ。


 なんだ? この穴の先に何かあるのか?

 光が漏れている。

 あと、誰かがいる。リベルテの気配の


「ΠΟΙΟΣ ΕΊΣΑΙ!」


 ん? なんだ? 女の子の声が。


【言語理解のレベルが2に上がった】


 あ、言語理解レベルが上がった。

 確か、言語理解は3種の言葉を聞いてレベルアップだっけ?

 こっちの世界の言葉、僕や神様が話している日本語、そして今の言葉。

 確かに3種類だ。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ」


 って、そんな場合じゃない。

 もしかして、リベルテ、人間に出くわしたのか?


 だとしたら、戦闘になるかもしれない。そう思い、僕は走っていく。

 穴の先から光が漏れる。地上に出たのか?


 そう思ったら――そこは穴の中で、


「だから、これは私のごはんだって言ってるでしょ! あれだけ食べてまだ食べるの!? 舐めるだけって、あんた舌もないでしょ!」


 リベルテの前に、小さな少女がいた。金色のくるくる髪の女の子。

 小さいといっても、幼女とかそういう類ではない。

 なんというか、全体的に小さい、小人かと思ったが、そうではなく、背中に羽が生えているところを見ると、


「へぇ、ハーピーか」

「なんでそうなるのよ、こんな可愛いハーピーがいるわけないでしょ! 私は妖精族フェアリーよ!」


【フレーズ:HP15/15 MP24/24】


 フレーズって名前なのか。

 HPよりMPのほうが高いんだよな。


 リベルテがぷるぷるとフレーズに何かを伝えているようだ。


「へぇ、あんたがこいつの主人なのね」

「あぁ、そうだ。リベルテが言ってる事がわかるのか?」

「もちろんよ、私は大天才だからね、えっへん」


 ない胸を張ってフレーズは言う。 


「僕はヴィンデだ。こう見えてファイヤーサラマンダーだ」

「私はフレーズよ。さっきも言った通り妖精族フェアリーで……ってえぇぇぇぇっ!」


 フレーズが目が飛び出すんじゃないか? というか、ギャグマンガなら絶対に飛び出しているだろ、というくらい目を見開いて驚いていた。

 あぁ、そういえばイシズさんが言ってたっけ。ファイヤーサラマンダーは絶滅したはずの種族だって。

 そりゃ驚くよな。


「なんでトカゲが喋ってるのよっ!?」

「そこからかよっ! あと、トカゲじゃない、サラマンダーだ! 喋ってるのはお互いさまだろ」

「そりゃ、妖精族は昔から喋れるわよ。人間の言葉も妖精の言葉も!」


 あぁ、さっきのは妖精語だったのか。


「まぁ、話が通じるなら早いわ! こいつが私の集めた蜜を食べちゃったの! 弁償して!」


 そう言って、フレーズは空になった茶色い小さな瓶を出した。

 瓶の中は空っぽだ。

 リベルテがぷるぷると僕に何かを訴えかける。


「『こんなにおいしい蜂蜜は食べたことない。主人もぜひ』だって。って、蜂蜜じゃないわよ! 妖精蜜よ! で、弁償できるの?」


 確かに、これが蜂蜜なら、フレーズが蜂扱いされることになるからな。

 背中から生えている羽とか、金髪の髪に黄色と黒を基調とした服とかを見ると、ますます蜂に見えてくる。

 蜂に思われるのが嫌なら別の服を着たらいいのに。


 ただ、この様子を見ると、リベルテはさっき、クイーンスネークから逃げたんじゃなく、蜂蜜の匂いを感じ取って逃げたという感じだな。


「それで、弁償って、お金か?」

「そうね、妖精の集めた蜜はとても貴重なの。金貨1枚でいいわ。といっても魔物がお金を持って――」

「わかったよ」


 俺はアイテムBOXから金貨を1枚出す。

 妖精蜜が貴重なのは確かなようだし。


……………………………………………………

-【-】 レア:★×5


鑑定レベルが足りません。

……………………………………………………


 フレーズが大事に持っているもう一つの瓶の中身を鑑定したらこうなった。

 プラチナリングでもレア度が【★★★★】だったのに、あんな小さい蜜が【★×5】か。


 ならば、金貨1枚も妥当なのだろ。


「なんで魔物がお金を持ってるのよっ! どこから出したの!?」

「悪かった。素直に謝るよ。リベルテも謝れ」


 僕が命令すると、リベルテは頭を下げた……んだろうな? たぶん。

 ま、なんにせよ、これで一件落着だな。


「ダメよ、やっぱり金貨10枚!」

「なんで!?」


 俺も金貨10枚は持っていない。

 アイテムBOXの中の貴金属類を換金したらお金を作れるだろうが。

 でも、金貨10枚払ったら、やっぱり金貨100枚とか言われそうだ。


「金貨10枚が払えないなら、代わりに働きなさい! 大丈夫、すぐに終わるから」

「……働かせるのが目的だったのか?」

「当たり前よ。そもそも、妖精族はお金をあんまり必要とはしないもの」


 堂々と言い切りやがった。

 最初に無茶な要求を叩きつけて、妥協案で本題を出す、交渉術の基本だが、これだけ見え見えの交渉術はもはや交渉術じゃない。


「何をしたらいいんだ? 言っておくけど、こっちは一度フレーズの要求した金貨1枚を出したことで誠意は見せたんだ。あまり無茶な要求は呑むつもりはないよ」

「それほど無茶な依頼じゃないわ。ただ、迷宮の中に行って、魔王を倒してきてほしいの!」


「――無茶だぁぁぁぁっ!」

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